幕間 平民街の戦場


 大型魔獣が右手を建物に振り下ろす。

 建物が崩れて瓦礫の山となった。

 そして、また別の建物を破壊する。

 建物を破壊すること自体に大型魔獣の目的があるようだ。


 レオンハルトは大型魔獣に向けて魔法を発動する。


『炎よ、矢となって、敵を射て

 フラム・ギッタ・ペトゥム』


 炎の矢が大型魔獣の背中に直撃する。

 火傷を負うが、平気な様子だ。


(こっちを向いたな)


 ゴツゴツの角張った顔で目と鼻は小さく、顔の半分以上が口になっている。

 丸みをおびた灰色の体で、胴体に比べて腕や脚は短い。


 レオンハルトは魔力操作で身体強化して動き出す。


(あの体型、動きは遅いはずだ)


 大型魔獣が手を振り下ろすが、レオンハルトには当たらない。


(まずは脚からだな)


 大型魔獣の懐に飛び込み、レオンハルトは剣を振るう。

 大型魔獣の右脚からドロッとした緑色の血が流れた。

 レオンハルトは直ぐに距離を取る。


(このまま倒せるか?)


 大型魔獣が右手をレオンハルトに向けた。


(何のつもりだ?)


「ギャザグゥゴォズゥーー!!」


 意味の分からない言葉で唸ると、大型魔獣の手の平から火炎流が放たれる。


(まずい!)


 レオンハルトは大きく跳んで躱して地面に転がる。


 火炎流が直撃した建物は燃え盛り、近くの建物へ燃え移った。


「こいつは魔法が使える。特殊個体か!?」


 大型魔獣がまた唸り声を上げる。


「ギャアゾクボォーヅーー!!」


 大型魔獣の体が変形を始め、筋肉質で細い体となり、右腕が剣の形になった。

 そして、大型魔獣は右腕をレオンハルトに向けて振り下ろす。


(速い!)


 攻撃を躱すが、その衝撃でレオンハルトは吹き飛んでしまう。

 受け身を取って直ぐに起き上がった。


 右腕が直撃した地面が縦に割れている。


(こいつは厄介だ。俺では足止めが限界だな)


風刃ふうじん!!」


 突風が吹いて、大型魔獣の両脚から緑色の血が噴き出す。

 大型魔獣が両膝をついた。


 レオンハルトの目の前に淡い金髪の小柄な女性が現れる。


「オリアナ嬢! いや、あなたはパウラ様?」

「その通りですわ。初めまして、レオンハルト様。お話をしたいところですが、この魔獣を倒さなければなりません」

「だが、この魔獣は」

「倒せますわ。少し下がってください」


 レオンハルトは後ろに下がった。

 大型魔獣を見ると、立ち上がろうとしている。

 レオンハルトは知らせようとしたが、口を閉じた。


(凄い殺気だ。これが魔剣使いのパウラ)


 パウラは左足を前に出して半身となり剣先を上に向けて持ち手を右耳の位置まで上げる。

 地面を右足で力強く蹴って走り出した。


 レオンハルトはパウラの動きに驚く。


(あの構えのまま四方八方に動くのか、速い。大型魔獣が混乱している)


 更にパウラが加速する。

 そして、消えた。


(どこだ!?)


 まさかと思って、レオンハルトは空を見上げた。


 あの構えのままパウラが大型魔獣よりも遥か高く舞う。


雷霆らいてい


 力強く剣を振り下ろしながら雷が落ちるような勢いで急降下する。

 大型魔獣は頭から深く縦に斬り裂かれ地面に倒れ伏した。もう動かない。


「見事です、パウラ様」

「光栄ですわ。ゆっくりお話をしたいところですが、わたくしについて来てください。オリアナの雇った傭兵たちがここから東の平民街で戦っています」

「魔獣ですか?」

「いいえ、人ですわ。おそらくベスティアに属する者たちです。魔獣に姿を変えた者もいました」


 上流街に現れたのは魔獣だけだった。

 今回の戦いは魔獣を倒すだけでは終わらない。


(ベスティアにはニールと同じような考えの奴らが多いはずだ。簡単には治まらないだろう。斬るしかない)


 レオンハルトは言う。


「行きましょう」



 ◇◇◇



 パウラと一緒に平民街へ向かうと、その場所は戦場と化していた。

 建物が破壊され、多くの屍が転がっている。その大半が傭兵たちだ。

 今も多くの傭兵たちが傷ついて倒れている。


 戦場で何かを飲む人がいた。

 そして、その人は自分の喉を剣で刺す。

 血が流れて倒れると、直ぐに起き上がり、バキバキと音を立てて姿を変える。

 人型魔獣になった。戦場を見渡すと、他にもかなり人型魔獣がいる。


「レオンハルト様、二手に分かれましょう。わたくしたちが一緒の場所で戦うのは戦力を無駄にしてしまいます。私は左に参りますわ」

「では、俺は右に行きます」


 二手に分かれて、レオンハルトは右の戦場に向かう。

 傭兵たちは集団で連携しながら人型魔獣と戦っていた。


 近くの集団に加勢しようとした時、レオンハルトの前に人型魔獣が現れる。

 全身が赤い毛に覆われていて、頭部よりも大きい二本の角が突き出すように生えている。人の面影が残っているのは耳だけで、手や足も他は全て獣のようだ。


 人型魔獣が四つん這いになって突進して来る。

 あの大きな角に当たるのは避けなければならない。


 レオンハルトは横に跳んで躱した。


(あの角は危険だが、当たらなければ問題ない)


 人型魔獣の動きは思ったよりも速くないのでレオンハルトの動きに余裕がある。


 人型魔獣がもう一度突進して来た。

 レオンハルトは横に跳びながら人型魔獣の左腕に剣を突き刺す。

 体勢を崩して人型魔獣は転がった。


(次はどうする?)


 立ち上がると思ったが、人型魔獣はまた四つん這いで突進して来る。

 左腕に力が入っていないので動きが遅い。


 タイミングを合わせて、レオンハルトは横に跳びながら人型魔獣の首へ剣を突き刺した。

 人型魔獣は倒れて、そのまま動かなくなる。


(弱くて助かった。傭兵たちは大丈夫か?)


 レオンハルトは近くにいる傭兵たちの加勢に向かった。























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