幕間 聖女の友だち
質素な造りの馬車が貴族街にあるカルバーン侯爵の屋敷で止まった。
金髪で柔和な顔立ちの青年が馬車から降りる。
「聖女様、僕の手を取っていただけますか?」
ソフィアは青年の手を掴んで馬車から降りた。
「ノエル、ありがとうございます」
屋敷の前でオリアナが待っていた。
ソフィアが近づくと頭を下げる。
「お出でいただき、ありがとうございます」
「オリアナ様、前にも言いましたが、そんなに畏まらないでください。フレイヤと話すみたいにして欲しいです」
「努力はします。ですが、ソフィア様は聖女様ですので」
ソフィアは屋敷へと案内される。
屋敷で働くカルバーン侯爵家の従者たちがソフィアに最敬礼をしていた。
恭しくされることに寂しい気持ちになる。
(オリアナ様と仲良くなりたいのに。フレイヤが羨ましい)
ソフィアは前を歩くオリアナに訊く。
「
オリアナがノエルを少し見て言う。
「失礼ですが、信用できる方ですか?」
「もちろんです。私の一番の味方です」
「そうですか、分かりました。こちらの部屋です、どうぞ」
客間に通されて横長の椅子に座るように促される。
座り心地が良さそうだ。
椅子に座るとソフィアの体を包み込むように沈む。
(ふかふかだ! 触り心地も良い! 横になったら気持ち良くて、絶対に寝る)
「ソフィア様?」
オリアナが不思議そうにソフィアを見つめていた。
「ごめんなさい。ベスティア対策のお話ですよね」
「堅苦しいお話になりますからお茶を飲みながら話しましょう。お菓子も用意させます」
オリアナが手を叩くと、客間にメイドが入って来る。
机にお茶とお菓子を素早く用意して、メイドは直ぐに退出した。
「どうぞ召し上がってください。お口に合えば良いのですが」
「ありがとうございます」
机には色んなお菓子が用意されていた。
クッキーを選んで口に入れる。
(んー、美味しい! もう一つ食べて良いかな? 違うでしょ、私の馬鹿! お菓子に夢中になったら駄目。今日の目的を忘れるな!)
お茶を一口飲んで、ソフィアは言う。
「私、頑張るので何でも言ってくださいね」
「ありがとうございます。
ソフィアは首を横に振って言う。
「ごめんなさい、それは無理です。私は聖女ですが、教会内での力は僅かしかありません。戦力として手伝ってくれるのノエルを含めた直属の
ノエルを見ると、深く頷いてくれた。
(ありがとうございます、ノエル)
「そうですか……」
オリアナの表情が曇ったように見える。
(がっかりさせてしまった? あー、どうしよう! 何か言わなきゃ!)
ソフィアは明るい表情で元気良く言う。
「でも、安心してください! ノエルたちは凄く強いんですよ。必ずお役に立てます。それに、私も頑張りますから。怪我人は絶対に治しますし、少しくらいなら戦えます。聖女の私が頑張りますから。オリアナ様、元気を出してください!」
オリアナがきょとんとして言う。
「落ち込んでいませんよ?」
「でも、さっき表情が曇って、がっかりしたのでは?」
「がっかりなんてしていませんよ。少し考えただけです。でも、ありがとうございます。私に元気を出させようとしてくれて」
ソフィアは真っ赤になって俯く。
(私の早とちり? あー、とても恥ずかしい)
小さな笑い声が聞こえた。
(オリアナ様が笑っている?)
オリアナはソフィアと目が合うとはっとして頭を下げる。
「申し訳ございません。笑うつもりではなくて」
「私、オリアナ様と友だちになりたいです!」
ソフィアはしまったと思った。
(また先走り過ぎちゃった。いきなりは困るよね)
オリアナが微笑んで言う。
「ソフィア様のご友人の一人にさせていただけるのは大変光栄なことです」
「だから、畏まらないでください!」
ソフィアは悲しくなって、思わず大きな声を出してしまった。
「ごめんなさい、大きな声を出してしまいました」
「…… 少し驚きました」
ソフィアは意を決して自分の気持ちを伝える。
「私、本当の友だちが欲しいんです。フレイヤと同じように接していただけませんか? 今まで聖女の力の制御や日々の祈りで自由がありませんでした。ようやく同じ歳頃の子たちと知り合う機会が増えてきたんです。でも、皆、私を聖女としか見てくれなくて。だから、フレイヤとオリアナ様の関係が羨ましいんです! 私もその仲に入れて欲しいんです!」
オリアナが苦笑して言う。
「ソフィア様は誤解をされていますわ。
「そんなことありません! 見ていたら分かります。フレイヤはオリアナ様をとても信頼しています」
「そうでしょうか?」
ソフィアは優しく微笑んで言う。
「聖女の言葉が信じられないのですか?」
オリアナが目を見張り、少し笑って言う。
「それはずるいですわ。聖女様の言葉であれば信じるしかありません」
「でしたら、私と友だちになってくれますよね? ううん、私はオリアナと友だちになりたい!」
「…… 友だちになりましょう。
「どんと来い!」
ソフィアの胸を叩く仕草にオリアナが楽しそうに笑った。それにつられてソフィアも笑う。
「じゃあ、改めて私は何をしたら良いのか教えてくれる?」
「ソフィアは回復魔法で怪我人を治療してください。怪我人は必ず出ます。ソフィアには治療に集中していただきたいのです。手伝いができる医者も側につけさせますわ」
「ありがとう、よろしく頼むね」
オリアナが心配そうな表情で訊く。
「本当に
「大丈夫だよ。教皇様は私のことを気にしてないから。むしろ……」
「ソフィア?」
コンコンと音がして、オリアナがドアの方へ行く。
従者が何かを知らせると、オリアナの顔が一気に青くなった。
「オリアナ、どうしたの?」
「失策ですわ、大変なことになりました。ベスティアの襲撃です。平民街に大型魔獣が多数現れ、被害甚大です」
ソフィアは後ろに控えているノエルに言う。
「ノエル、今から平民街に向かいます」
「承知致しました」
「待ってください。まだ何も分かっていません。もう少し状況を把握してから行くべきですわ」
「いいえ、オリアナ。私は聖女です。今多くの人たちが傷ついている。こんな時にこそ私の力は必要なんです。オリアナもオリアナにしかできないことがあるでしょ。先に行くね。私、頑張るから」
「…… 分かりました。
屋敷を出ると、三人の女
もう一頭、馬を用意してくれている。
「ネラ、ディーヌ、タリア、来てくれてありがとう」
ノエルが先に馬に乗り、ソフィアはその後ろに乗った。
ソフィアは落ちないように確りとノエルの腰に手を回す。
「皆、行きましょう!」
馬が
(天よ、私たちにご加護を)
聖女の癒し守る戦いが始まる。
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