第81話 オリアナの報告


 馬車が敷地に止まったので客人を迎え入れる。


「ようこそ、オリアナ」

「オリアナ様、ようこそいらっしゃいました」


 お母様は丁寧な挨拶で出迎えた。


「コルネリア夫人、お出迎えありがとうございます」


 お母様は笑顔を浮かべ、ゆっくりしてくださいと言って、自室に戻った。


 オリアナを客間に通して座ってもらう。

 魔獣対策の話があって来てくれた。


「オリアナ、一息ついたら? お菓子とかどう?」


 ずっと難しい顔をしながら黙っている。

 どうしたのだろう?


「今日は先日の件で参りましたの。結論から申し上げます。貴族街の見回りは強化することになりました」

「それ以外は? 平民街や貧民街はどうなるの?」

「致しません」

「どうして!? 人型魔獣のことを手紙で伝えたよね。もう異変が起きてる。平民街と貧民街にも帝国騎士に来てもらうべきよ」

「そんなこと分かっていますわ!」


 オリアナが声を上げた。

 そして、直ぐに頭を下げる。


「申し訳ございません。大きな声を出してしまいました」

「ううん、ごめん。私が勝手なこと言い過ぎた」


 オリアナが机に帝都の地図を出す。

 黒い点が地図の色んな場所についている。


「この黒い点は人型魔獣が現れた場所を示していますわ」

「こんなに!?」


 黒い点が十数個ある。

 こんなに人型魔獣が現れているとは思わなかった。

 黒い点は貴族街から離れた平民街や貧民街に集中している。

 上流街は一個だけ。

 私が戦った相手ね。


「被害は出ているの?」

「出ていますわ。わたくしが調べた限りでは、二十三名の方が亡くなっています」

「二十三名も…… じゃあ、どうして帝国騎士の見回りを平民街と貧民街でしないの?」

「お父様も皇帝派を説得しましたわ。ですが、保守勢力が強く反対しました。ご存知だと思いますが、保守勢力には貴族至上主義な考えを持つ者たちが多くいます。この状況では皇帝陛下へ上奏しても無駄でしょう」

「そんな……」


 人型魔獣の出現は前世では起きなかったはずだ。私は聞いたことがない。

 前世では起きなかったことがまた起き始めている。

 前世で起きた帝都の魔獣集団発生は何とかしたいと思ったんだけど、他に私のできることなんて……


「フレイヤ、傭兵ギルドに匿名で依頼を出しましたわ。本日か明日にも傭兵たちが平民街と貧民街の見回りを始めるはずです」

「そんなことして大丈夫なの? 資金は?」

「バレないように何重も間を通して依頼を出しました。資金はカルバーン侯爵家持ちです。お父様も承知済みですわ」


 私は嬉しくてオリアナの両手を握って言う。


「オリアナ、ありがとう! オリアナに相談して良かった!」

「フレイヤを信じたのもありますが、調査した結果も理由です。帝都周辺の魔獣発生状況が以上で、人型魔獣の出現。貴族として無視できませんわ」


 万が一の時はオリアナのおかげで被害を減らせるかもしれない。


「それに、人型魔獣の発生は何らかの組織が関係していると考えられます」

「組織? どういうこと?」

「この人型魔獣の件を調べるにあたって当家の密偵を使いました。特に被害の多かった貧民街を中心に調査したのですが、カジュアラへ行った密偵一人が帰りませんでした」

「カジュアラ!? 一番危険な貧民街じゃない!?」

「そうです、カジュアラは犯罪組織の巣窟。何かがあっても不思議ではありません。ですが、当家の密偵は優秀です。単なる無法者相手に負けるはずがありませんわ。戻った密偵からは薬で人が魔獣化したという報告を受けています」

「戻らない密偵は大丈夫なの?」

「覚悟はしていたはずですわ。悔しいですが、仕方ありません」


 オリアナは淡々と言っているようだけど、手を強く握り締めているのが見えた。

 これ以上、私が何かを言うべきじゃない。


「人が薬で魔獣化、聞いたことがない」

「もちろん、わたくしもですわ。魔獣化するには一つ条件があるようです。それは死ぬこと。薬を飲ませてから死ぬと魔獣になるらしいですわ。目撃者からの情報を集めて推測しました」


 私が戦った相手も死んでいたということ。

 でも、まるで生きているようだった。


「帝都では何らかの組織が暗躍しています。フレイヤも十分気をつけてくださいね」

「うん、オリアナもね」


 深刻な話をしたから少し疲れた。

 お菓子を食べて気分良くなろう。

 クッキーを口に入れて、優しい甘味を感じる。

 んー、美味しい。良し、お茶も。

 甘いものとお茶があれば、幸せね。


「フレイヤは甘いものが大好きですね。幸せそうに食べていますわ」

「顔に出てた? オリアナも食べなよ。美味しいし、気持ちも落ち着くから」

「じゃあ、一つ…… 美味しいですわね」

「でしょ?」


 ドドドーン!!


 何かが破壊されるような音が響く。

 どこで鳴ったのか分からなくて、つい客間を見回す。

 外だ!


 窓を開けて目を細める。

 貴族街の屋敷が巨大な魔獣によって壊されていた。

 どうして貴族街に魔獣が?

 しかも、ここから近い!


「フレイヤ、何がありましたの!?」

「魔獣よ!」

「え? 魔獣?」

「オリアナはここにいて! 私、行くから!」

「待ってください!」


 客間を出て、異変に気づいて廊下にいたへドリックに言う。


「へドリック、オリアナを守って。私が出るから」

「フレイヤ様!?」


 私は剣を持って、魔獣の暴れる場所へ急いで向かった。














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