第82話 初めての共闘
多くの人々が巨大魔獣から逃げている。
中には必死さのあまり、前の人を突き飛ばす人もいた。
倒された人を抱き起こすと、その人は礼を言って、直ぐに逃げて行った。
貴族からは悲鳴や泣き叫ぶ声、怒号も聞こえる。
貴族街では見たことのない光景だ。
逃げている人を守りながら戦う騎士がいた。帝国騎士ではなく、貴族仕えの騎士だろう。
貴族仕えの騎士が戦っているのは犬型の魔獣だ。その魔獣から嫌な臭いがしている。
貴族仕えの騎士たちが奮戦して倒していた。
助けなくても問題ないと思って、先を急いだ。
巨大魔獣は一ヶ所に留まりながら拳を振り回して近くの建物を壊している。
何かを狙っているような感じだ。もしかして、あの魔獣と誰かが戦っているの?
巨大魔獣に近づくほど、瓦礫が増える。
破壊された屋敷の下から苦しむ声が聞こえた。助けてと言っている。
道には血だらけで動かない人もいた。
最悪だ。助けたくて立ち止まりたいけど、あの魔獣をそのままにはできない。
帝国騎士の到着を待つ間にどんどん被害が増える。
巨大魔獣と戦う人の姿が見えた。
背が伸びて逞しい体つきになったけど、あの黒髪で直ぐに分かる。
「レオ!?」
戦うというよりも魔獣の注意を魔法で自分に向けながら攻撃を何とか躱していた。
「魔力吸収、魔力操作」
背後から巨大魔獣の脚を全力で斬る。
太い脚に傷がついて、巨大魔獣が右膝をついた。
「レオ、大丈夫!?」
私はレオの側に駆け寄って言った。
「フレイヤか、久しぶりだな」
黒髪の端から血が流れ、腕や脚も怪我をしている。
痛々しい、かなり無理したんだと思う。
「クラウディオ団長は一緒じゃないの?」
「父上は外に出ている」
パウラお姉様も帝都の外で魔獣討伐だ。
帝国騎士が来る気配はまだない。
「フレイヤならあの魔獣を倒せそうか?」
「分からない。あんな魔獣見たことないから」
巨大魔獣は以前戦った魔物と同じくらいの大きさだ。
不格好な赤茶色の体型をしている。両腕の大きさが異常だ。両腕の筋肉がドクンドクンと鼓動している。脚の長さは胴体に対して短く、巨木のように太い。
長い首を前に突き出していて、口は横に長く、牙がある。長い
「でも、倒すよ。貴族街が大変なことになるから」
あっちにはお母様たちがいる。
それに、これ以上犠牲者は出させない。
私が守る。
「この魔獣はフレイヤに任せても良いか? 俺はこいつらを倒す」
私たちの後ろに五体の犬型魔獣が急に現れた。
「怪我してるのに大丈夫なの?」
「この程度の魔獣なら問題ない」
「…… じゃあ、任せるね」
「ああ。お前の後ろは俺に任せてくれ」
レオと背中合わせになると、妙な安心感があった。
私は前の敵を倒したら良いだけだ。
巨大魔獣に向かって、私は駆け出した。
◇◇◇
右脚の傷がもう再生を始めている。
再生能力に優れているようだ。
魔力は見えるけど、そこまで強い魔力じゃない。薄暗くてぼんやりとしている。
魔獣が右膝をついたまま、私に向かって右拳を振り下ろす。
先読みして、左に跳ぶ。
前へ進む勢いがそがれてしまった。
体勢を立て直し、魔獣の左へと回る。
右膝をついているから左からの攻撃は嫌なはずだ。
魔力放出を維持したまま右脚を斬る。
が、思ったよりも浅い。
右拳が迫って来て、私は急いで離れた。
固すぎる!
剣が全然通らない。
「ジデェダグァガイーー!!!」
魔獣が変な唸り声を上げた。
すると、再生速度が増す。
右脚の傷が癒えてしまった。
魔獣が立ち上がり、私に攻撃を仕掛ける。
左右の拳を連続で振り下ろす。
先読みしながら躱すが、攻撃の威力と速さがどんどん増している。
もう一度魔獣の
傷はつくが、更に浅い。
離れた瞬間、左の拳が振り下ろされる。
速い。
右に跳んで躱す。
攻撃の衝撃で吹き飛んでしまう。地面に転がるが、直ぐに立ち上がる。
痛い! 来る時にドレスの裾を破いたから、
剣を構え直すと、視界が赤く染まる。
頭を怪我したみたい。手で血を拭う。
私は目に魔力を集中させて、魔獣に弱点がないかを探す。
脚、胴体、腕、肩の順番に見る。
首に小さい傷があった。
どうしてあの傷は治っていないの?
他の傷は治っているのに。きっと首は治らないんだ。
「フレイヤ!」
レオが私を抱き抱えて横に跳び、私の下敷きになって地面からの衝撃を代わりに受けてくれた。
魔獣が拳を振り下ろして、地面には大きな穴ができている。
レオのおかげで魔獣の攻撃を躱すことができた。
「ごめん、レオ」
「馬鹿か、お前は! 死にたいのか?」
「あいつの弱点を探していて」
「弱点? ウッ……」
レオが右肩を押さえた。私を庇った時に痛めたのかもしれない。
ごめん、レオ。
「そんな顔をするな、大したことない。もう残りはあいつだけだ。俺に何かできるか?」
「合図したら、一瞬だけこいつの気を引いて欲しい」
「分かった。来るぞ!」
魔獣が左拳を振り下ろす。
私は左にレオが右に躱した。
魔獣は私の方を向いて攻撃を仕掛ける。
狙うなら今だ!
私は声を上げる。
「レオ! お願い!!」
レオが頷き、何かを呟いている。
魔法だ。
十数個の火の玉が魔獣の背中に当たる。
魔獣は意識をレオに向けて体の向きを変えようとした。
私は左足を前に出して半身となり、剣先を魔獣に向けて、持ち手を頭の位置まで上げる。
「魔力吸収、最大!」
空気中から大量に魔力を吸収。魔力操作でその魔力を身体強化に使って走り出す。
魔獣が私の動きに気づいた。
右腕を大きく振るう。鋭い爪で私を切り裂こうとしていた。
私は構えを崩さず止まらない。
その右腕に跳び乗って、魔獣の攻撃を躱す。
「魔力吸収」
魔力吸収と魔力操作をもう一度。
更に剣へ魔力を集めて、放出の維持。
「
魔獣の首まで一気に駆ける。
そして、右からの横薙ぎの一撃。
やっぱり固い。途中で止まりそうになる。
でも、負けない。
「ハアァァァーー!!」
剣先から魔力を放出し、そのまま首を絶ち斬った。
地面へ着地すると同時に魔獣の胴体が倒れる。
もう動かない。倒せたようだ。
バキバキと嫌な金属音を響かせて剣が粉々になる。やっばり耐えられなかった。
ありがとう、ご苦労様。
「フレイヤ! やったな!」
「うん、レオのおかげだよ」
どうしよう、脚が震える。
くらくらしてきた。力を使い過ぎたせいだ。
馬の足音が遠くから聞こえる。
帝国騎士たちが今頃来たらしい。
「見つかると面倒だ。背負うぞ」
私はレオに背負われる。
「でも、怪我」
「フレイヤの重さくらいどうってことない。お前の屋敷に行くぞ」
「うん、お願い」
私はレオに背負われて屋敷へ戻った。
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