第80話 疾風迅雷の伝授


 パウラお姉様が木剣を振り下ろす。

 私は木剣でその攻撃を受け流した。


 パウラお姉様は更に連続攻撃。

 木剣で受け止めるが、反撃する間がない。

 パウラお姉様は動作の連動が滑らかで、攻撃と攻撃の間隔が非常に狭い。


 魔力操作で目を強化する。

 パウラお姉様の青い魔力をはっきりと捉えた。


 攻撃を先読みして、パウラお姉様が木剣を振り下ろすと同時に木剣を振り上げて攻撃を止める。

 そのまま右肩を狙って、掌打。

 衝撃でパウラお姉様が後ろに下がった。

 私が追撃しようとした時。


「手合わせは終了ですわ。フレイヤ、見事な掌打でした。追撃しようとする考えも素晴らしいですわ」

「ありがとうございます!」

「それに、手合わせの途中で冷静に判断して目を強化していましたわ。フレイヤの魔力感知はやはり武器になります」

「ありがとうございます、嬉しいです」


 こんなに褒められるとは思わなかった。

 嬉しくて、顔が緩んでしまう。


「少し休みましょうか。倒れるといけないので、何か飲みましょう」


 シオンが敷地にテーブルと椅子を用意してくれて、パウラお姉様と一緒にお茶を飲む。

 パウラお姉様に稽古をつけてもらう日はいつもより優雅な時間になる。


 ふとパウラお姉様の服装を見た。

 フリルのついた可愛い短めのパンツとチェック柄の上衣。

 私はというと……

 動きやすさしか気にしていない服装。

 もっと可愛らしくした方が良いのかな?


「どうしました、フレイヤ?」

「パウラお姉様はいつもお洒落だなと思って」

「フッフフ、ありがとうございます。わたくしはフレイヤのように可愛くないですから、努力するんですよ」

「そんな、パウラお姉様はとっても可愛いです!」

「嬉しいですわ。ですが、大人はいつまでも可愛くはいられないんですよ」

「なるほど、大人は大変ですね。パウラお姉様のお話はいつも勉強になります」

「皮肉で言っていないところがフレイヤの凄いところですわね」


 皮肉?

 勉強になるって素直に思ったんだけど。


「そろそろ、手合わせを再開しましょうか」

「はい。あの、気になったのですが、パウラお姉様はどうして稽古という言葉を使わなくなったのですか? 手合わせという言葉に変わりました」

わたくしとフレイヤの実力差がなくなったからですわ。稽古をつけるなんて言えません」

「そんなことないと思いますけど」

わたくしはもう追いつかれたと思っていますわ。本来なら私の剣をフレイヤに教える必要はありません」

「じゃあ、どうして教えてくれるのですか?」


 パウラお姉様が微笑んで言う。


「フレイヤがわたくしよりも強くなってもらうためですわ。さあ、始めますわよ」

「はい!!」


 私は元気良く返事をした。



 ◇◇◇



「魔力感知を最大にして見るのですわ」

「はい」


 丸太が横に三つ並んでいて、今からパウラお姉様があの三つの丸太を同時に斬る。


 パウラお姉様は左足を前に出して半身となり、木剣の先を中央の丸太に向けて、持ち手を頭の位置まで上げた。

 パウラお姉様の青い魔力が木剣と脚に集中する。


疾風迅雷しっぷうじんらい


 青い魔力が魔法となり、疾風のような速さで丸太まで一直線。

 その勢いのまま、右からの横薙ぎの一撃。

 三つの丸太は全て真っ二つになった。


 凄い一撃だ。

 目で追うことはできたけど、多分、反応ができない。

 この技を私ができるの?


「木剣で疾風迅雷は駄目ですわね、耐えれませんでしたわ。さあ、フレイヤ、次はあなたの番です」

「さっきの技は魔剣です。私はまだできないです」

「そんなことありませんわ。ガリアに行かれる前のオスカー先生と話し合いをしましたの。魔剣と考えるからできないのです。フレイヤの特異魔法を上手く使うのですわ」

「吸収と放出を?」


 パウラお姉様はできるって言っているけど、その方法が全く思い浮かばない。


「吸収と放出を頻繁に使うことで、フレイヤの魔系脈まけいみゃくは以前よりも格段に強くなったはずですわ。今のフレイヤならこの技ができるはずです。まずは限界まで空気中から魔力を吸収し、魔力操作でその魔力を身体強化に使います。相手との間合いを詰める際に魔力吸収と魔力操作を継続で行いながら、更に加速し、同時に魔力を剣へ集めて放出の維持を行います。そして、横薙ぎの一撃。上手くすれば、わたくし以上の疾風迅雷になるはずです。疾風迅雷・改とでも名づけましょうか」


 パウラお姉様、言うのは易く行うは難しだと思います。

 でも、この技を使いこなせるようになったら、私はもっと強くなれる。


「やる気になったようですね。フレイヤならできます。剣を持ちましたね」

「はい」


 丸太が三つ並んでいる。

 私は左足を前に出して半身となり、剣先を中央の丸太に向けて、持ち手を頭の位置まで上げた。


 一度、深く息を吐く。


「魔力吸収」


 空気中から魔力を一気に吸収。限界まで吸収だ。

 魔力操作でその魔力を身体強化に使い、丸太に向かって走り出す。


「魔力吸収」


 魔力吸収と魔力操作をもう一度行い、そのまま継続。

 更に剣へ魔力を集めて、放出の維持。


「疾風迅雷!」


 右からの横薙ぎの一撃を放つ。

 三つの丸太が全て真っ二つとなった。


 吸収と放出の同時使用、とても疲れる。

 体が重い。急にズッシリときた。

 両膝に手を置いて何度も小刻みに呼吸をする。


 ベキバキと嫌な金属音がして、剣身が粉々に砕け散った。


「ああ! 剣が!」


 魔力放出の維持なら大丈夫なはずなのに。

 放出する魔力量が多くなったから?

 この技の魔力量に耐えられるような剣が必要なのかもしれない。


 パウラお姉様が拍手して言う。


「フレイヤ、素晴らしかったですわ。この剣があなたの技に耐えられなかったのでしょう。フレイヤにはもっと良い剣が必要ですわ」


 もっと良い剣……

 お父様の剣が思い浮かんだけど、あの剣は駄目だ。

 私にとって、とても大切。戦いには使いたくはない。


「疾風迅雷できていましたか?」

「まだ改良の余地がありますわ。技を放った後に疲れていては駄目です。吸収と放出を同時に何度使っても疲れないようになりましょう。わたくしももっと手伝いますわ」

「ありがとうございます」


 パウラお姉様が教えてくれた疾風迅雷を使いこなせるようにもっと頑張ろう。

 大切な人たちを守るために、私はもっと強くなりたい。


「休憩したら、もう一本、疾風迅雷・改をしましょう」

「はい! ん? 疾風迅雷ではありませんでした?」

「疾風迅雷・改の方がカッコイイです。フレイヤには疾風迅雷・改という名前で極めて欲しいですわ」

「疾風迅雷でお願いします」










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