第77話 秘密の告白
別室に入るまでの間、色んな人たちからまたじろじろと見られていた。別室に入ってようやく落ち着く。
「休憩に使うための部屋ですわ。この部屋ならゆっくり話せます」
高価な椅子が並んでいる。中央の机には飲み物も置いてあった。
「本当にこの部屋を使っても良いの?」
「構いませんわ。隣にもう一室ありますし。それにしても……」
オリアナが目を上から下に何度も動かして私のことを見る。
「そんな風に見ないでよ」
「失礼しました。少しお会いしてなかっただけなのに、こんなに美しくなられるとは思いませんでした。銀髪は光輝いて美しいですし、すらっとしていて薄い青のドレスが良くお似合いです。元々顔立ちは整われているので、フレイヤに視線が集まるのは当然ですわ」
褒め過ぎ、顔が熱い。
オリアナだって綺麗よ。私はあなたの明るいオレンジ色の髪が羨ましい。
「椅子に座りましょう。それで、お話というのは? フレイヤのお話でしたら、何でも聞きますわ」
どう話すか考えたけど、カロン様に話した感じで良いよね。
私は真剣な表情になって言う。
「実は私、特異魔力保持者なの。特異魔法も使える」
「特異魔法を、なるほど、そうですか。フレイヤには何か特別な力があると思っていました」
驚くと思っていたから少し予想外。でも、このまま話すしかない。
「私の特異魔法は未来予知。この先のことを断片的に知ることができる」
「…… 未来予知ですか? 戦闘に直結するような魔法ではないのですね。意外ですわ」
本当は戦闘向きの魔法です。だから、探るような表情をしないで。
「他に誰がこのことを知っているのですか?」
「…… アンジェ様と騎士のカロン様だけよ」
「そんな大切なことを
「そうだけど、他の誰かに言う必要がある?」
オリアナにじっと見つめられる。動揺せずに私も見つめ返した。
「まあ、良いですわ。それで、フレイヤは何を予知されたのですか?」
「断片的にだけど、近い未来、帝都で魔獣が集団発生する」
オリアナが目を見開いて言う。
「魔獣が集団発生…… 嫌なお話ですわね。フレイヤはその対策をしたいと言うのですね?」
「その通りよ!」
オリアナが目を閉じて顎に手を当てる。
何か考えている?
間を置いて、オリアナがゆっくり目を開けて言う。
「どちらの
私は首を傾げて言う。
「どちらも何も、オリアナに決まっているでしょ」
「同盟関係の相手としてお話をされているのでしたら、このままお父様に全てを話します」
「全てって、予知能力のことも?」
「もちろんですわ」
それは困る。これは予知能力じゃない。
「友だち相手に話をされているのでしたら、匿名の情報としてお父様にお伝えします。どちらの
「どちらって…… もちろん友だちよ」
「そうですか。でしたら、匿名の情報としてお父様にお伝えしますわ」
良し! これで帝国騎士団が動いてくれるかもしれない。魔獣の被害を防げる。
「喜ばれているようですが、お父様が皇帝派に情報を伝えても騎士団が動くかは分かりませんよ。そもそも、お父様が信じるのかも分かりません。匿名の情報としてお伝えするのですから」
「私は嘘を言っていないよ」
「嘘とは言っていません。
本営総長だったアウゲルクとその一派は失脚したらしい。カルバーン侯爵率いる急進勢力がその分勢いをつけている。
前世とまた違って、魔獣の集団発生が起きないかもしれない。そうなれば、カルバーン侯爵が誤った情報を皇帝派に伝えることになる。
「ですから、魔獣の状況を調べた上でお父様に報告しても構いませんか?」
「えっと、つまり?」
「魔獣が地方だけではなく帝都周辺でも増えているのは知っています。それを踏まえて、
私は何度も頷いて言う。
「うん、うん、それでお願いします。オリアナ、ありがとう」
「当然ですわ。
オリアナは笑顔で言った。
◇◇◇
「フレイヤ嬢、今日は来てくれてありがとう。また話でもしよう」
「はい、楽しみにしております。失礼致します」
私はカルバーン侯爵に挨拶をしてお母様と共に会場を出た。
お母様が馬車に乗って、私は後から乗る。ヘドリックが馬車を走らせた。
とても疲れたので、ヒールを脱ぐ。足がスッとする。
オリアナと一緒に大広間へ戻ると、ダンスの誘いを何度も受けた。オリアナが断ってくれたので助かった。
今度、舞踏会に行く時はレオを連れて行くべきね。私も一緒に行ってあげたからお相子よ。そう言えば、最近のレオは何をしているんだろう? 手紙が来ないから、私から書いてみよう。
うっ、コルセットが苦しい。お母様に緩めてもらおう。
「お母様」
お母様が馬車の窓に頭をつけていた。疲れて眠っているのかな?
膝かけを掛けようとして、お母様の腕を触る。
「ちょっと熱い?」
お母様の額に手を当てた。
熱い! 熱がある!
「ヘドリック、お母様に熱があるみたい」
「分かりました! 主治医のもとへ行きます!」
馬車が急に加速したので、私はお母様を支える。
ヘドリック、心配するのは分かるけど、慌て過ぎじゃない?
窓から外を見ると、上流街の知らない道を通っていた。
どこの病院に行こうとしているの? 主治医って言ったよね。お母様の主治医って、何の主治医?
ある建物の前でヘドリックが馬車を止める。ヘドリックが勢い良く馬車の扉を開けた。
失礼しますと言って、お母様を両手で横に抱き抱えて病院へ入る。
「エヴァウト先生はいらっしゃいますか!!」
ヘドリックが大きな声を上げると、直ぐに白衣を着た男性が走って来た。
「コルネリア様が熱を出されて」
「分かりました。そのまま部屋に運んでくれますか?」
「はい」
ヘドリックがお母様を病院の一室に運ぶ。
ベットに寝かされたお母様は白衣を着た病院の先生に何かの薬を飲まされる。
私は困惑して傍観するしかない。
「これで熱が引くでしょう」
良かったと言って安心するヘドリック。私だけ意味が分からなかった。
「ちょっと待って! 私、分からないよ。もしかして、お母様は何か病気なの?」
黙って顔を見合わせる二人。何か言おうとしているけど、何も言わない。
「黙ってないで教えてよ!」
「…… 静かにしなさい。フレイヤ、ここは…… 病院よ」
お母様が弱々しい声で言った。
「お母様!」
「だから、静かによ。ヘドリック、エヴァウト先生、フレイヤと二人で話をしたいの。良いかしら?」
「何かあれば言ってください。隣の部屋で待機しています。余り無理はされませんように」
「エヴァウト先生、ありがとうございます」
お母様が首を縦に少し動かして言った。
この部屋には私とお母様だけになる。
しばらくしてお母様が口を開く。
「フレイヤ、良く聞きなさい。私はもう長くないわ」
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