第76話 貴族の挨拶回り
舞踏会が開かれる会場に着いた。
今回の舞踏会はカルバーン侯爵が貴族街の施設を貸し切って行われる。
大きな会場だ。伯爵以上の貴族が舞踏会を開くために良く使うらしい。ルーデンマイヤー家は伯爵だったけど、そんな財力なかった。
会場へ入っていく人が多い。招待客は何人くらいいるんだろう?
「フレイヤ」
お母様に言われて、御者役のヘドリックが手を差し出してくれていることに気がついた。
「ごめんなさい、ヘドリック」
「とんでもありません」
私はヘドリックの手を掴んで馬車から降りた。
「何をしているの? 気を引き締めなさい。私たちはカルバーン侯爵家の同盟相手なのよ」
「はい……」
お母様に強く言われてしまった。
最近、お母様が厳しい。領主の仕事を教えてくれるようになってからだ。
私を早く一人前にさせようとしてくれているんだと思う。
受付に招待状を見せて、会場の中に入る。
大広間には大勢の人たちがいた。
真ん中では音楽に合わせて踊っている人たちがおり、大広間の左の方では立食している人たちがいる。
色んな料理が並んでる! お菓子もあるのかな?
行きたいけど、このドレスのせいで食べるのが難しそう。シオンがコルセットをきつく縛るから。私には必要ないのに。
「まさか立食の方に行こうと思っているんじゃないでしょうね?」
「そ、そんなことないですよ」
どうして分かったの? お母様は私の心をいつも読む。
「本当に一人で挨拶に回れるの?」
お母様が心配そうな表情で訊いた。
「大丈夫ですよ。お母様と一緒に挨拶の作法は復習しましたから」
「それなら良いんだけど。じゃあ、私も行くわね」
「はい、頑張ってください」
お母様は貴族夫人たちのもとへ挨拶をしに行った。
ルーデンマイヤー家は色々と目立ち過ぎた。派閥に関係なく、敵意を持った者もいるかもしれない。社交界では愛想良く振舞うというのがお母様の考えだ。
私は爵位を持つ方々に挨拶をしに行く。次のルーデンマイヤー子爵として顔を覚えてもらうためだ。
グラスを片手に一人で佇む五十代くらいの男性がいた。優しそうに見える。あの方から挨拶をしよう。
「お邪魔して申し訳ございません。ご挨拶させていただいても
「もちろん構わないですよ」
私は微笑みを浮かべながらドレスの裾を摘まんで挨拶をする。
「私はフレイヤ・フォン・ルーデンマイヤーと申します。どうぞお見知りおきください」
「そうか、君が」
「え?」
「失礼しました。私はベイル・フォン・ニーグリャーギです。こちらこそよろしくお願いします」
私ははっとして声を上げる。
「パウラお姉様のお父様!?」
ベイル様が優しそうに微笑んで言う。
「娘からフレイヤ様のことは良く聞いていました。娘はご迷惑を掛けていませんか?」
「そんなことありません。パウラお姉様には色んなことを教えてもらっています」
「それなら良かったです。騎士団を辞めたと聞いた時は驚きましたが、あなたのためだったんですね。これからもパウラのことをよろしくお願いします」
ベイル様が頭を下げたので、私は慌てて言う。
「頭を上げてください。よろしくされるのは私の方です。パウラお姉様には感謝しかありませんから」
「そうですか、それは良かった」
ベイル様が微笑んで言った。
「当家、ニーグリャーギ家はカルバーン侯爵家の分家に当たります。ですので、私も同盟関係の一員です。パウラのこともそうですが、同盟関係としてもよろしくお願いします」
ベイル様から手を差し出される。
「はい、よろしくお願い致します」
私はベイル様と握手して言った。
ベイル様から離れて、他の方々にも同じように挨拶をする。皆さんの対応は不思議と好意的だった。
挨拶を続けようと移動していると、複数の視線を感じる。気のせいじゃない。敵意は感じないけど、何だろう?
「フレイヤ様、お久し振りです」
赤いドレスを着た茶髪の少女に声を掛けられた。
「ディアナ様! お久し振りです。あれ? お隣の方は?」
同じ歳頃の令息がディアナ様をエスコートしていた。
「紹介しますね。ストガーム伯爵のご令息でロイス様です」
「ロイス様?」
私は首を傾げて言った。
聞き覚えがあるような……
「ディアナ様の許嫁の方ですね!」
「…… そうです」
ディアナ様が頬を赤らめて言った。
どうやら二人は上手くいったようだ。
私も嬉しい、二人は幸せそうだ。これでレオも解放された、良かったね。
「フレイヤ様はレオンハルト様とご一緒ではないのですか?」
「レオと? 違いますよ」
「でしたら、気をつけてください」
ディアナ様が私の耳元でひそひそと言う。
「フレイヤ様にダンスの誘いをしたい方々が沢山いますので」
訊き返そうと思ったら、ディアナ様が笑顔で去って行った。
またダンスに誘われるの? 知らない人と踊るのは嫌だな。良し、オリアナを探そう。
人の集まりを見つけた。中心にいるのはオリアナだ。
あれでは話ができない。人が減るまで待とう。
壁際に行こうと思ったら、オリアナが微笑みを浮かべて私の方に来る。
「フレイヤ、来てくれて嬉しいですわ。
「そうだけど、さっきまで話してた人たちは良いの?」
「構いませんわ。また後でお話しに行きます。今はお友だちのフレイヤが優先ですわ」
オリアナは相変わらずのようだ。
「そ、そう。実はオリアナに話したいことがあるの」
「
オリアナに案内されて、私は別室に向かった。
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