第72話 ルーデンマイヤー領ラヒーノ
「パウラ様、私たちについて来てくれて良かったのですか?」
私は馬車に揺られながらパウラ様に訊いた。
「もちろんですわ。
「でも、騎士団があるんじゃ……」
パウラ様が首を傾げて言う。
「あら、言ってませんでしたか?
「え!? 初めて聞きました! オスカー先生はイリアと一緒にガリアへ行ってくれるからですけど、パウラ様はどうして?」
「騎士団に愛想が尽きたからですわ。それに、やりたいことがありますの」
「何なのか訊いても良いですか?」
パウラ様は一つ咳払いをして言う。
「フレイヤ様に
「私に?」
「不満ですか? これでも
不満なんてあるわけがない。一人で強くなるには限界がある。パウラ様が私に剣を教えてくれるのは凄く嬉しい。
「ありがとうございます、パウラ様」
「どういたしましてですわ。でも、そろそろ他人行儀な話し方は止めませんか? フレイヤ様とはもっと仲良くしたいです。試しに敬称を止めるのはどうですか?」
敬称なしは呼びにくいな。オリアナと同じ呼び方にしよう。
「パウラお姉様と呼んではいけませんか?」
「パウラお姉様!?」
「駄目ですか?」
「だ、駄目ではありませんわ。少し驚いただけです」
「そうですか、良かったです。パウラお姉様は私をフレイヤと呼んでくださいね」
「分かりましたわ」
山の林道を抜けて平地に入った。もう直ぐラヒーノに着く。
色々あったので、イリアのガリア留学は来月の十二月に延びた。その前にラヒーノとお父様が埋葬されているエレへ行くことにした。
道中の護衛としてオスカー先生とパウラお姉様が一緒について来てくれている。最強の護衛だ。
馬車が止まったので降りる。もう一台の馬車からお母様たちが降りた。
「ここがラヒーノ」
ここから直ぐ近くに村が見えるけど、他は何もない。平地が広がっていて、山に囲まれている。
小さい頃に来たことがあるけど、こんな感じだったなと思い出す。
「フレイヤ、村に行くわよ」
お母様に言われて後をついて行く。
村に入ると、多くの村人たちが私たちを見て動きを止める。そして、全員が頭を下げた。
どうして皆頭を下げるの?
私と同じでイリアも驚いているようだった。
老齢の男性が私たちのもとに進み出て跪く。
「ようこそおいでくださりました、コルネリア様。村人一同感謝致します」
「出迎えありがとうございます。でも、ゴルバ、そんなに畏まる必要はないわ。皆を自由にさせてあげて」
「コルネリア様はいつもお優しい。ありがとうございます」
村人たちは頭を上げて元の活動を始める。
私たちはゴルバさんに村で一番大きい建物に案内された。
領主屋敷として造ったけど、今は村のために使う施設となっている。
中へ入ると、女性がこちらに来て跪く。
「クロル、お仕事ありがとう。いつも言っているけど、跪く必要なんてないわ」
「お、恐れ多いです」
お母様にクロルと呼ばれた女性はメガネを掛けていて茶髪でくせっ毛。緊張しているみたいだ。
私とイリアはドレスの裾を摘まんで挨拶をする。
「マルクスの娘、フレイヤ・フォン・ルーデンマイヤーと申します」
「同じくマルクスの娘、イリア・フォン・ルーデンマイヤーと申します」
「フレイヤお嬢様とイリアお嬢様…… し、失礼しました。わ、私はクロル・メイデルトと申します。ラヒーノ領の管理を手伝っています」
挨拶を済ませた私たちは今後について話し合うことになった。話し合いの席には私とお母様、ゴルバさんとクロルさんがいる。
イリアはこの村を探検すると言って外に出た。オスカー先生とパウラお姉様が同行している。
お母様が初めに口を開く。
「ゴルバ、クロル、当家は伯爵から子爵へと
お父様が騎士団長だったから、沢山給金を貰っていた。そのお金でルーデンマイヤーの領民を支援していた。その給金がなくなるということは苦しむ領民が増えてしまう。
クロルさんが言う。
「て、帝国税の方はしばらく大丈夫かと思います。わ、私たちも節約しながら過ごしていましたので。重税に苦しまず暮らせるのは領主様のおかげです」
「ありがとう。そう言ってくれると、マルクスも喜ぶわ。他に困っていることはないの?」
ゴルバさんが言う。
「やはり年々作物の収穫量が減っておることです。長年ここに住んでおりますが、土地の元気がなくなっているような気がします。山の方では魔獣が増えて、森で豚を育てるのが難しくなりました」
ラヒーノも魔獣が増えているのか。税を納めることができても食べ物がないと、皆大変だ。何かできることはないかな?
「実は作物について少し当てがあるの」
「当てでございますか?」
「来月、イリアがガリア連邦に留学するわ。ラヒーノと同じような土地がガリア連邦には多いらしいの。もしかしたら、今のラヒーノでも育てられる作物があるかもしれない。その作物の種をイリアに見つけてもらうわ」
「なるほど! それは名案です。流石、コルネリア様」
ゴルバさんはお母様を褒め称えた。
「違うのよ、これはイリアの考え。もし、上手くいったら、イリアに感謝して。それ以外の方法も私で何か考えてみるから」
クロルさんとゴルバさんは安心しているようだった。お母様の言葉とイリアの考えは心強い。
話し合いの席にいるのに、私は役立たずだ。領民のために何もできていない。
お父様が亡くなってから、領民の生活のことを私は一度でも考えただろうか?
お母様は当然考えていたし、この席にいないイリアもちゃんと考えていた。
とても恥ずかしい。私はルーデンマイヤーの当主になる自覚が足りていなかった。
「フレイヤ、何しているの? 領民に挨拶へ行きましょう」
「…… はい」
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