第69話 爵位を懸けた模擬戦闘 Ⅰ


 クラウディオ団長が乗る馬車が敷地に入って来た。この馬車に乗って帝城へ向かう。

 模擬戦闘のために帝城へ行けるのは私とクラウディオ団長だけだ。

 お母様たちは屋敷で留守番になる。


「フレイヤ、マルクスの剣を持ったわね」

「はい、ここにあります」


 お父様からいただいた剣は腰に差している。模擬戦闘では使わないけど、お母様に持って行きなさいと言われた。

 お父様が側にいる気がして心強い。


「もし、無理だと思ったら逃げて。その時はクラウディオ団長が守ってくれるわ」

「お母様、心配しないでください。私、絶対に勝ちますから。勝って、お父様に報告しに行きましょう」

「…… フレイヤ、ありがとう。頼みます」


 私は馬車に乗って帝城に向かった。



 ◇◇◇



 馬車が走り出してしばらくすると、クラウディオ団長が口を開く。


「緊張してないか?」

「緊張しています。戦っている姿、色んな人たちに見られるんですよね? ドキドキします」

「そっちかよ」


 クラウディオ団長が小さく笑った。


「じゃあ、怖くないのか? 帝国騎士三人と戦うんだぞ?」

「それは怖くありません、私の先生はもっと強いですから。でも、家を背負って戦うことは怖いです。お父様はいつもこんな想いをされていたのですね」


 お父様の剣に触れて言った。


「流石マルクスの娘でオスカーの弟子だな。だが、本営の奴らには気をつけろ。心ない言葉を平気で浴びせてくる。腹立たしいと思うが、我慢してくれ」

「…… 分かりました」


 悪口を言われるのは嫌だな。

 お父様の悪口とか言われたら…… 睨むくらい良いよね?


 クラウディオ団長が突然頭を下げて言う。


「フレイヤ、何もできなくて悪かったな。中立派の貴族たちは皆、皇帝派が怖くて協力しようとしなかった」

「謝らないでください。クラウディオ団長は私たちを助けてくれています」

「それは当然だ。マルクスの家族だからな」

「ありがとうございます」


 クラウディオ団長は優しい人だ。皇帝派保守勢力に睨まれるかもしれないのに、私たちのために動いてくれた。


「レオのもとに一度も帰ってないんですよね?」

「レオンハルトなら大丈夫だ。しばらく帰れないって手紙を出したからな」

「そうですか。レオはクラウディオ団長のことが大好きですよ。直ぐに父上がって言うんですから」

「あいつが?」

「本当です」

「そうか、レオンハルトが……」


 クラウディオ団長が嬉しそうだ。


「これが終わったら、早く帰ってあげてくださいね」

「分かったよ」


 ふと窓の外を見ると、帝城の敷地に入ったところだ。

 目的地は敷地内にある修練場。帝国騎士三人とそこで戦う。


「フレイヤ、もう直ぐ着くぞ。心の準備をしておけ」

「はい」



 ◇◇◇



 修練場で待っていると、お腹が真ん丸の男たちが沢山現れた。騎士服を着ているけど、本営の奴らだと直ぐに分かった。

 本営の奴らの周りにちゃんとした騎士たちもいる。その中の三人が私の戦う相手だろうか。

 クラウディオ団長が右手を胸に当てて騎士礼をしたので、私はクラウディオ団長に倣った。


 無精髭を生やした男が前に出て、薄笑いを浮かべながらクラウディオ団長に言う。


「ヴェルナフロ団長、その娘が戦うのか?」

「その通りです」


 本営の奴らから笑い声が聞こえる。私を馬鹿にしているのが分かった。

 腹立たしくて睨もうと思った時、嫌な奴が現れる。


「アウゲルク! 面白いことをしているな、俺も混ぜろ!」


 カイルだ。どうしてここに!?


 全員が跪くので、私は嫌々跪く。


「皇太子殿下にご挨拶を申し上げます」

「固い挨拶は止めろ。アウゲルク、噂で聞いたが、面白いことをしているな。説明しろ」

「は!」


 無精髭を生やした男、アウゲルクはさっきまで偉そうにしていたのに、カイルには頭が地面に着くくらい低姿勢で話をしている。


「面白い! 全員立て、楽にしろ」


 私がゆっくり立つと、カイルがニヤリと笑って言う。


「ルーデンマイヤーの娘、フレイヤだったな。俺がお前の戦いを見てやる。せいぜい楽しませてくれ」


 無視したいけど、それは駄目だと分かる。

 私は畏まるふりをして言う。


「ありがたく存じます。精一杯頑張ります」


 アウゲルクが急に張り切って声を上げる。


「第五騎士団のメイナード、フレイヤ・フォン・ルーデンマイヤー、お互いに準備をしろ!」


 カイルと本営の奴らは修練場の両端に設営されている椅子に座る。

 本営の奴らがカイルの機嫌取りをしているのが分かった。


「フレイヤ、大丈夫か? 凄い顔をしているぞ」

「そうですか? いつもと変わりません」

「そ、そうか」


 クラウディオ団長に木剣を渡されたので、代わりにお父様の剣を預ける。


「相手を気絶、戦闘不能、負けを認めさせたらフレイヤの勝ちだ。魔法の使用もあるからな。万が一があれば、俺が助けに行く。分かったか?」

「分かりました」


 クラウディオ団長が微笑んで言う。


「その騎士服、似合っているな」

「ありがとうございます!」


 私は第十二騎士団の服を着ていた。

 気の早いお父様は私の騎士服を既に準備していた。

 大人用を準備していたので、手直しをして間に合わせた。それを褒められたのは凄く嬉しい。


「早くしろ! フレイヤ・フォン・ルーデンマイヤー!!」


 アウゲルクの声が聞こえた。


 私の相手であるメイナードさんは準備を終えて立っている。


「クラウディオ団長、行って参ります」

「ああ、頑張って来い」


 私はメイナードさんの前に立つ。


「よろしくお願いします」

「帝国に泥を塗った奴の娘はやはり愚かだ。いや、お前の母親が愚かなのか。素直に爵位剥奪を受けるべきだったな。泣き喚いても容赦はしないぞ」


 この人もか。

 第一騎士団から第五騎士団は特に保守勢力が多いと聞く。

 本営に選ばれて私と戦うくらいだから、本営の考えに同調している騎士だよね。


「お手柔らかにお願いしますね」


 私は作り笑いを浮かべて言った。


 そして、お互いに距離を取って木剣を構える。


「始め!」


 アウゲルクの声が響いた。


 その瞬間、私はメイナードに向かって走り出す。


「魔力操作」


 更に加速した。

 メイナードが目を見開き木剣を振り上げる。

 動きが遅い、胴もがら空きだ。

 初撃全力!

 私はメイナードの胴に横薙ぎの一撃を放つ。


「グヘッ」


 変な声を出して、メイナードが苦しい表情をしてその場に倒れた。

 鳩尾みぞおちを狙ったから、しばらく立てないと思う。

 私の勝ちだ。


 メイナードから目を離し、本営の奴らの方を向いて声を上げる。


「次の相手よ! 早く来なさい!!」



















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