幕間 老兵の活躍
マルクス隊が五〇〇と一〇〇〇に分かれて、一〇〇〇となった別動隊をオスカーとヴァジムが率いることになった。
本隊は猛者ばかりを中心に選び、別動隊には若い騎士と負傷者ばかりが残った。アノーク騎兵たちとは五倍の戦力差があり、兵が更に削られている。このアノーク騎兵五〇〇〇を足止めしておかなければならない。
後方でオスカーと一緒に指揮を取るヴァジムが言う。
「オスカーさん、あんたが出るべきだ。このままだと、アノーク騎兵たちを足止めできねぇ」
「任せても良いのですか? ヴァジム、一人で指揮ができますか?」
太股を布できつく縛っているが、出血はずっと止まっていない。
ヴァジムは青白い顔で笑って言う。
「俺はまだくたばらねぇよ。大丈夫だ、指揮を任せてくれ。それに、尊敬するあんたの戦う姿を見てみたい。くたばる前に見せてくれよ」
オスカーは傭兵から貴族となった成功者で、傭兵たちが尊敬する存在だ。そのことはオスカー自身も知っている。
「…… 分かりました。黒騎士オスカーの戦いを目に焼きつけてください。…… ヴァジム、あなたは素晴らしい戦士です。騎士として私もあなたを尊敬します」
オスカーは右手を胸に当てて騎士の礼をすると、ヴァジムと拳を合わせた。
傭兵は損得勘定で動く。
マルクスの父ガルムの頃から懇意にしているとは言え、ヴァジムは義理堅い男だと思う。ヴァジムが率いる百勇の面々や百勇以外の傭兵たちも命を懸けて戦っている。
(ここで戦う全ての者たちが素晴らしい戦士です)
オスカーは後方から前に移動して馬から下りると最前線へ走り出す。
(私は馬上で戦うのが下手ですからね、全力を出せません。そう、全力です! アノークのクソども、覚悟しなさい!)
最前線で若い騎士のジェスが三人のアノーク騎兵たちに囲まれていた。防戦一方になっている。
オスカーはジェスを囲むアノーク騎兵の一人に背後から近づき、気配を感じさせないまま剣で背中を貫いた。
更にもう一人のアノーク騎兵に向かって跳び上がり、左肩から斬り下げる。鮮血が舞い、その騎兵は馬から落ちた。
(最後の一人はジェスだけで問題ありません)
オスカーはアノーク騎兵同士の間を機敏に移動しながら、アノーク騎兵の脚を剣で斬り裂く。
(致命傷にはなりませんが、脚に力が入らないでしょう)
馬上で戦うには馬から落ちないように脚の力が必要だ。力が入らなければ、アノーク騎兵は当然不利になる。これは長い戦闘経験のあるオスカーだからこそできる戦い方だ。
「調子に乗るなよ! 老兵が!」
五人のアノーク騎兵がオスカーを囲んで襲ってきた。一斉に攻撃をされるが、難なく躱して馬よりも遥かに高く跳び上がる。
「馬鹿ですね。黙って私を斬れば良いものを」
空中で身を翻すと、空を蹴って高速でアノーク騎兵に突撃し首を斬り飛ばした。
(残り四人ですね)
着地したオスカーにアノーク騎兵一人だけが反応する。
(この騎兵の武器は
戦斧を持つだけあって、この騎兵の体は人一倍大きい。
戦斧は武器として優秀で、持つことさえできれば誰でも扱える。遠心力を活かした一撃は剣で受け止めても衝撃は凄まじい。
頭を目掛けて戦斧が振られる。
オスカーは後ろに下がってギリギリのところで躱す。その間に他のアノーク騎兵たちが距離を詰めてきた。
三人のアノーク騎兵のうち一人に向かって、オスカーは剣を投げる。剣は頭に刺さり、アノーク騎兵は絶命する。
(戦斧を含めて残り三人)
武器を持たないオスカーは素早い動きで戦斧を持つアノーク騎兵の後ろに乗った。
アノーク騎兵が後ろを取られたことで暴れようとする。オスカーはその前に後ろからアノーク騎兵の首に両腕を回しゴキッと首をへし折った。
絶命したアノーク騎兵を馬から落とし、戦斧を代わりの武器とする。
残り二人のアノーク騎兵はオスカーに怯んだようで動きを止めている。
(私は逃がしませんよ)
オスカーは戦斧を剣のように操り、残り二人を倒した。
斧を捨てて、アノーク騎兵の頭から自分の剣を抜いて回収する。
オスカーが奮戦しても、この戦力差は埋まらない。別動隊の兵たちが地面に沢山転がっている。
(こちらの兵がどんどん死んでいますね。私が教えた若い騎士たちもいます…… このアノーク騎兵たちを率いる将を早く討つべきです。ですが……)
別動隊の士気は兵が死ぬ度に下がり続けていた。
「百勇のお前ら! 士気が下がってるぞ! 気合いを入れろ! 帝国騎士の坊っちゃんたちがへこたれてる時に活躍すんのがお前たちだろうが!! 俺たちはマルクス団長に任されたんだぞ! ちゃんと戦いやがれぇ!!」
後方のヴァジムから檄が飛んだ。
(あの体で良く大きな声を…… 最前線まではっきりと聞こえましたよ。何度も修羅場を
百勇の傭兵はもちろんだが、帝国騎士たちもマルクスの名前を出されて士気を上げないわけにいかない。百勇の傭兵たちや帝国騎士たちの士気が上がれば、百勇以外の傭兵たちにも伝播する。
「オオォォ!!」
倒れていた兵たちが立ち上がり、戦線に復帰する。戦っている兵たちも押し返し始めた。だが、アノーク騎兵たちの優位は変わらない。
(復活では駄目です、数の差を埋めれません。今を超える士気が必要です。私も檄を飛ばしましょう)
オスカーはアノーク騎兵の馬を奪い取ると、最前線中央で声を張り上げる。
「私は黒騎士オスカー! 兵たちよ! 私に続け!!」
「ウオオォォ!!」
オスカーの檄で別動隊の士気は最高潮となり、劣勢を盛り返し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます