第59話 マルクスの戦争 Ⅳ
マルクス隊の五〇〇名は帝国騎士と傭兵の猛者。
アノーク軍の左翼にいた騎兵五〇〇〇と戦う隊には指揮官としてオスカーとヴァジムを残した。
マルクスはユリステルと合流する。
「マルクス団長! ディルハイム団長が討たれたッス。スコルド団長は逃げたみたいで、大変なことになりました」
「そうみたいだ。ユリス団長は救えそうな兵たちを全力で救って欲しい」
「マルクス団長はどうするんですか?」
「僕は一番前で激励するよ。士気の下がったロギオニアス兵には支えが必要だ」
「分かったッス。気をつけてください!」
「ユリス団長も」
ユリステルと分かれて、マルクスは自分の隊に大きな声で命令をする。
「僕たちがロギオニアス兵の前に出る。今のアノーク軍は歩兵が中心だ。左から入る! 行くぞ!!」
「オオ!!」
兵たちから大きな声が上がった。
現在、アノーク軍は銃撃隊を後方に下げて歩兵たちを中心にロギオニアス兵たちを攻めている。士気の下がったロギオニアス兵たちにとって、この数のアノーク軍は最悪だ。二倍にも三倍にも見えてしまう。
ロギオニアス兵たちと戦う最前線のアノーク軍の左からマルクス隊は斬り込む。アノーク歩兵を薙ぎ倒すように進んで、中に入り込むことができた。
「エド、指揮を頼む。激励するから、敵が集まると思う。踏ん張ってくれ」
「承知致しました。マルクス団長には指一本触れさせません」
マルクス隊の現在地はロギオニアス兵たちの最前線右側。陣形がバラバラなので、右翼と表現することができない。
アノーク軍からの攻撃を真っ先に受ける位置だ。激励するならば、この場所しかない。危険に身を晒してこそ意味がある。
「聞け! ロギオニアス兵たちよ! 私の名はマルクス・フォン・ルーデンマイヤー。帝国第十二騎士団団長であり、君たちの指揮官だ」
アノーク軍の歩兵たちがマルクスの方へ一気に押し寄せて来た。指揮官がここにいるぞと自分から声を上げたのだから当然だ。
マルクス隊も応戦して、マルクスの邪魔をさせない。
「誇りある帝国騎士たちよ! 逃げるな、戦え! 君たちは何のために騎士になった! 侵略者から逃げるために騎士になったのか? 違うはずだ! 守るべきもののために戦え!」
「オオ!」
帝国騎士の応える声が小さい。
マルクスはもう一度声を上げる。今度は民である傭兵に向かって。
「勇敢なるロギオニアスの民たちよ。傭兵として奮戦し、感謝する。でも、まだだ! この戦いに破れれば、アノーク軍はまだ侵攻する! ベルティナ周辺の民は全て殺された! 更に侵攻が続けば、君たちの大切な人たちも殺されてしまう! そんなことはあってはならない! だから、この侵略者たちにここで勝つんだ! ロギオニアスの民たちよ、僕たちに力を貸してくれ!!」
「オオォォ!!」
一度目よりも大きな声が響き渡った。
アノーク兵たちが士気の高さに怯むのが分かる。
(士気が戻った!)
「ロギオニアスの同胞たちよ! 行くぞ!!」
「オオオオォォォ!!!」
士気の上がったロギオニアス兵たちは塊となって、アノーク軍に突撃を始めた。
◇◇◇
アノーク軍の壁は分厚い。
士気の上がったロギオニアス兵たちは善戦しているが、圧倒的に数が足りていない。
(特にスコルド団長が率いていた左が弱い)
自分の周りで戦うロギオニアス兵たちの様子を見て、マルクスは判断する。
(ここは大丈夫だ。ディルハイム団長が率いていた帝国騎士たちが奮戦している。僕が左へ行く)
左へ移動する正しい方法はこの戦場を一度離脱し、ロギオニアス兵たちを右に迂回して進むことだ。
(アノーク兵の中を進んだ方が良い。僕がロギオニアス兵たちの左側へ進めば、敵も兵を送るだろう。アノーク軍の左翼がかなり手薄になるはすだ)
「マルクス隊! 左へ移動する! 敵の中を行くぞ、僕に続け!」
「オオ!!」
マルクスが先頭で進む。敵の中なので、アノーク歩兵たちが集まってきた。
マルクスは馬上から剣を振り、アノーク歩兵たちを斬り倒していく。すると、アノーク歩兵たちの間を走って、アノーク騎兵の集団がマルクスに向かってきた。
(敵の指揮官は対処が早いね)
アノーク騎兵によってマルクス隊の進行が止められてしまう。
アノーク騎兵はおよそ一〇〇〇。力ずくで抜けるしかない。
マルクスは槍使いのアノーク騎兵と対峙した。
先に仕掛けたのはアノーク騎兵。マルクスの剣が届かない間合いで鋭い突きを放つ。マルクスは剣で受け止めるが、衝撃で馬と一緒に下がってしまう。
(他の騎兵と違う。この騎兵は魔力操作が使えるみたいだ)
アノーク騎兵は槍を巧みに扱ってマルクスに攻撃をさせない。
槍を避けると、マルクスは顔を
(…… 間合いに入れないのが厄介だね。馬に乗ってると、素早い動きができない)
再び槍が迫る。剣で受け止めると、そのままマルクスは馬から降りた。
マルクス隊の帝国騎士が叫ぶ。
「マルクス団長!」
周りからは落ちたように見えたはずだ。それはアノーク騎兵も同じで、好機と考えたのか、マルクスとの間合いを一気に詰めて槍を突き下ろす。
(間合いが詰まったら僕の勝ちだ!)
マルクスは半身で槍を躱すと、右に持った剣でアノーク騎兵の腹を突き刺した。
血が吹き出し、馬上から地面に落ちる。
マルクスはアノーク騎兵の馬に乗って前に進む。そして、ようやくロギオニアス兵たちの左側に到達した。
かなりのアノーク兵たちがロギオニアス兵たちの左側に向かって攻めて来ている。
アノーク軍の左翼にいた騎兵五〇〇〇はマルクス隊の別動隊一〇〇〇と戦闘中のため離れた場所にいた。アノーク軍はマルクスを討つために右翼に兵を集中させている。
アノーク軍の左翼が無防備になった。
(来い! クラウディオ!)
その時だった。
右の方から
「ォォォオオオオオオ!!」
無防備となったアノーク軍の左翼に向かって突撃する無傷の隊が見えた。
「クラウディオたちが来た!」
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