第53話 オリアナのお茶会 Ⅱ


「二人とも宜しいですか?」


 話し掛けてきたのはオリアナだ。

 折角の再会に水を差された気分。ロゼをぎゅっと抱き締めたかったのに。


「そんなに睨まないで欲しいですわ。わたくしはフレイヤとの約束をちゃんと守ったでしょう」

「ええ、感謝してる。ありがとう」

「友だちに優しくするのは当然ですわ。二人ともお座りになってください」


 ディアナ様の席の近くへ戻る。

 急に席を立ってしまったけど、もう一度座っても良いかな? 失礼だったかもしれない。


「ディアナ様、急に立ち上がって失礼しました。もう一度横に座っても良いですか?」

「もちろんです。私は気にしていませんよ」


 席に座ると、ディアナ様がロゼに挨拶をする。


「初めまして。私はツヴァイク侯爵の娘、ディアナ・フォン・ツヴァイクと申します」


 ロゼが少し遅れて挨拶を返す。


「グラストレーム男爵の娘、ロゼリーア・フォン・グラストレームと申します。よろしくお願い致します」

「ロゼリーア様はフレイヤ様と仲が良いようですが、以前から仲良くされているのですか?」

「あ、はい。以前から」


 ロゼが驚いているように見えた。私も少し驚いている。

 挨拶だけをして話を終えるのかなと思っていたけど、普通に話を始めている。

 ディアナ様も私と同じでロゼの容姿を気にしない方のようだ。 素直に嬉しい。

 思いの外、会話が弾んでいるみたいで私がロゼと話す間がない。少しだけ我慢をしよう。後から話ができる。


 ロゼをちらっと見た。

 髪が少し伸びて、背中まである。大人っぽくなった。体つきは華奢なままだ。ちゃんと食べているのかな?

 色んなことが訊きたい。


「皆様、本日は菊凛会きくりんかいに参加していただきありがとうございます」


 オリアナの挨拶が始まった。今から正式にお茶会の開始だ。


「バッケル子爵家のエルリナ様が来ていないようですが、始めることにします。皆様をお待たせすることはできませんから」


 オリアナが手を叩くと、メイドたちが部屋の中に入って来た。色んなお菓子やお茶がメイドたちによって運ばれる。


 私たちの机にもお菓子とお茶が置かれた。

 私の好きなお菓子の香りがする。美味しそう……


「当家自慢の料理人が作りました。お茶も皆様の好みに合うように各地から取り寄せていただきましたわ。この時間を楽しみながら、是非親交を深めてください」


 オリアナの挨拶が終わると、令嬢令息たちの挨拶回りが始まった。ディアナ様も挨拶があるらしく行ってしまう。


 私とロゼだけになった。

 何から話そうかと思って、少し緊張する。


「ロゼ、久しぶり」

「お久しぶりです。フレイヤは元気でしたか?」

「ええ、とても元気よ。今までどうしてたの?」

「心配しましたよね。ごめんなさい。男爵様はフレイヤのお父様を警戒しています。だから、フレイヤにも手紙を出せなかったんです。ごめんなさい」

「何度も謝らないで。ロゼは男爵に酷いことをされていない?」


 手紙を出せない状況だということはアンジェ様から聞いていたから別にいい。一番心配なのはロゼ自身のこと。


「大丈夫ですよ。私は酷いことをされていませんから。心配してくれてありがとうございます。フレイヤにまた会えて嬉しいです。会わないうちに、フレイヤはとても美人さんになりました」

「そんなことないよ。ロゼだって、とても可愛くなってる」


 お互いに顔を見合わせて笑う。いつもの私たちだ。凄く嬉しい。


「フレイヤがこのお茶会にいるとは思いもしなかったです」

「ロゼに会いたかったからね」

「あ、ありがとうございます」


 ロゼが少し頬を赤らめて言った。

 恥ずかしがり屋なところも変わってない。


「ロゼはこのお茶会に来て良かったの? カルバーン侯爵とグラストレーム男爵って敵対しているんじゃないの?」

「そうですけど、今は本気で敵対しているわけではありませんから。皇帝派の有力者で爵位も上の相手に表向きは逆らえないと思います」

「でも、敵対しているなら危ないよ」


 もし、何かあるようだったら、私が全力で守るけどね。


「男爵様には逆らえませんから」

「どうして? 何かあるんだったら、私がロゼの力になるよ」


 ロゼは色んなことを抱えていると思う。

 エルフ族のことも苦しんでいるはず。ロゼは大切な友だち、何かしたい!


「フレイヤ、ありがとうございます。その言葉だけで十分です」


 ロゼが朗らかに笑った。

 前と同じで何も言ってくれない。そんなのは嫌! 私がもっとロゼに踏み込むべきだ。


「二人ともお邪魔をしますわ。ロゼリーア様、あなたにお話があるのです」



 ◇◇◇



 お茶会の楽しい雰囲気が一気に変わる。冷たい視線がこちらに集中した。

 誰を見ているの? 視線の先にいるのはロゼだ。いったい何をする気?


「オリアナ、何のつもり? ロゼに何かする気なの?」

「落ち着いてください、フレイヤ。荒事はしませんわ。ロゼリーア様とお話をしたいだけです」

「話?」


 きっと単なる世間話ではない。この雰囲気は絶対におかしい。


「ロゼリーア様、あなたの父、グラストレーム男爵の悪行をご存知ですか?」

「分かりません」

「本当ですか? エルフ族を奴隷として他国に売っていることを知らないと仰るのですか? ロゼリーア様、あなたがグラストレーム男爵の悪行を公にしてください。娘の告発であれば言い逃れもできないでしょう。グラストレーム男爵が失脚後のことは心配なさらないでください。爵位と領地はロゼリーア様が継ぐように手を回します。困ることがあれば、カルバーン侯爵家が力を貸しますわ。良い提案のはずです。この提案、受けてくださいますよね?」


 酷い要求が始まるのかと思ったけど、オリアナの提案って、良いよね? ロゼが嫌な目に遭うことはない。


「お、お断りします」


 ロゼが声を震わせながら言った。


 え!? どうして断るの? 断る理由なんてないはず。


 オリアナから笑みが消えて、目がきっとなる。


「その発言の意味を分かっていますか? グラストレーム男爵が失脚すれば、あなたも無事では済みません。今は分水嶺ぶんすいれいなのです。そこを越えてしまえば、お父様たちも手段を選ばなくなります。血が流れるかもしれません。それでも、わたくしの提案を断ると言うのですか?」


 それは貴族同士で争うってこと?

 休戦したばかりなのに国内が乱れたら、アノーク王国にとって絶好機になってしまう。それに、犠牲になるのは関係ない人たち。


「貴族の争いに巻き込まれるのはいつも民よ。皇帝派は揃いも揃って馬鹿しかいないの?」


 入口の方から声が聞こえて、全員が一斉に見た。

 その人物を見て、私は声を上げる。


「アンジェ様!?」





















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