第52話 オリアナのお茶会 Ⅰ


 帝都にあるカルバーン侯爵の屋敷に馬車で向かっている。

 先日、オリアナ様からお茶会の招待状が届いた。オリアナ様が開くお茶会は菊凛会きくりんかいと呼ばれるもので、招待状があれば、誰でも参加は可能らしい。


 この招待状が届くと、お母様はとても驚いていた。

 菊凛会はカルバーン侯爵家が主催する格式の高いお茶会。カルバーン侯爵家に近い関係の貴族や関係を深めたい貴族などに招待状が届く。今回はカルバーン侯爵令嬢のオリアナ様が主催者となっているから、その令息令嬢が対象だ。

 招待状が届いた理由を聞かれたので、ロゼに会うためと答えた。お母様は納得してくれて、頑張りなさいと言ってくれた。

 頑張りたいんだけど、オリアナ様と会うのは気が重い。

 あ、敬称は駄目なんだよね。敬語もなしって言っていたわ。ロゼと会うために頑張ろう。


「フレイヤ様、着きましたよ」


 前に座っているシオンに教えられた。

 このお茶会にシオンが来てくれたら心強いけど、一緒に行くことはできない。


「ありがとう」


 シオンの手に掴まって馬車から降りる。


「シオン、行ってくるわね」

「行ってらっしゃいませ。お気をつけて」


 私は深く頷いた。

 今から向かうのは貴族の戦場だ。オリアナのことだから単なるお茶会になるとは思えない。気を引き締めよう!


 私はカルバーン侯爵の屋敷へ足を踏み入れた。



 ◇◇◇



 受付に招待状を見せて、メイドに案内される。

 屋敷の中は天井が高く、壁は温かい色味をしている。廊下には色んな絵画が飾られていた。


 メイドが扉の前で止まる。


「こちらが会場になります。お進みください」

「ありがとう」


 扉を開けてもらって部屋に入る。


 大広間ではないけど、お茶会をするには丁度良い広さだ。大きな窓があって、敷地の庭園が見える。色んな花々が咲いていた。


 何人か座っているけど、まだお茶会は始まっていない。空席がまだ多い。

 座席の数を見ると、参加者は二十人くらいかな?

 既に座っている参加者は固まって話をしていた。私よりも歳上の人が多い印象だ。ロゼはまだ来ていないみたい……


「フレイヤ、良く来てくれましたわ。嬉しいです!」


 赤と黒のドレスを着たオリアナが私に笑顔を向けていた。


「本日はお招きいただきありがとうございます」


 ドレスの裾を摘まんで言った。


「もしかして、約束事を忘れていませんか?」

「覚えてる。敬語は使わないから」

「それで良いのですわ。名前は呼んでくださらないの?」

「…… オリアナ」

「ありがとうございます! 友だちに名前を呼ばれるのは嬉しいですわね。どうぞ空いている席へお座りになってください」


 座る前に確認しておくことがある。


「ロゼは本当に来るのよね?」

「もちろんですわ。約束は破りません」


 オリアナはにこりと笑って言った。


「それなら良いの」


 オリアナから離れて席を探す。

 あそこの席が空いているんだけど、近くの人たちが私を睨んでいる。他を探そう。

 私を睨む理由はオリアナへの態度からかな?

 オリアナがそうしろって言うんだから仕方ない。どこに座ろうか……


「フレイヤ様?」


 私に声を掛けたのはディアナ様だった。


「先月ぶりですね。お元気でしたか?」

「はい。私、フレイヤ様ともっとお話をしたいと思っていたんです。宜しければ、私の横の席に座りませんか?」

「良いんですか?」

「もちろんです。色々とお話を聞いて欲しいですから」


 レオのことかな? ちょっと私も気になる。あれからどうなったんだろう?

 席に座ると、ディアナ様は早速レオの話を始める。


「フレイヤ様の言われた通りにアプローチの量を減らしましたら、手紙が返って来るようになったんです。ありがとうございます! レオンハルト様の字、とても綺麗なんですよ」

「良かったですね。私も嬉しいです」


 レオは綺麗な字を書くよね。どんな手紙をディアナ様に書いたんだろう? 妙な言い回しとかも書いたのかな?

 レオからの手紙には時々妙な言い回しがある。私が読んでも分からない時があるから、その部分だけイリアに訊いている。

 私が分からないと思って、わざとしている。ディアナ様にもしているのかな?


「実は一つ心配事があるんです。聞いてもらっても宜しいですか?」

「いいですよ。レオのことですよね?」

「違うんです。私の許嫁のことなんです」

「え!? 許嫁の方がいらっしゃるのですか?」

「ストガーム伯爵のご令息でロイスといいます。幼なじみで昔から仲が良いんですけど、最近避けられていまして。どうしてだと思いますか?」


 何を言っているの!? 許嫁がいるのに、レオへアプローチしていたの?


「許嫁は結婚される相手のことですよね。宜しいんですか? そんな方がいるのにレオにアプローチしても」

「仰りたいことは分かります。十八歳になれば、ロイスの妻になります。だから、今だけなんです。レオンハルト様に恋ができるのは。今の気持ちを大切にするのはいけないことでしょうか?」


 うーん、そう言われると困ってしまう。

 私には許嫁がいないし、恋をまだ知らない。本当に好きな人ができたら、ディアナ様と同じ気持ちになるのかな? やっぱり分からない。


「私には何とも言えないですけど、ロイス様はディアナ様に好きな人がいることを知っているのですか?」

「はい。何度か相談をしましたから。でも、それからなんです。避けられるようになったのは。理由が分かりません」


 ディアナ様は首を傾げて言った。


 それを聞いたら、私でも何となく分かった気がする。相談をしてから避けられるようになったんでしょ。


「ロイス様は嫉妬をされたのではないでしょうか?」

「嫉妬? ロイスが? あり得ません。そんなことを思いませんよ。いずれ結婚する関係ですが、今はロイスも私のことを幼なじみとしか見ていないはずです」


 私でも分かるくらいだから、ディアナ様はかなりの鈍感だ。恋に夢中で、自分への好意に気づかなかったのかもしれない。


「例えばですけど、私がレオのことが好きだったらどうしますか?」

「嫌です! やっぱり好きなんですか!?」

「…… 例えばの話ですよ。ロイス様はどうだったんでしょう?」

「そんな、まさか、ロイスが私のことを…… ?」

「本人ではないので、ロイス様のお気持ちは分からないですけど、一度話し合ってみてはどうでしょうか?」

「そうですね、そうします。フレイヤ様、ありがとうございます。私一人では気づけませんでした」

「お役に立てて良かったです」


 ロイス様の件は終わった。

 どんな方かは分からないけど、ディアナ様と元通りの関係なってくれたら私も嬉しい。


 ふと周りを見ると、空席がどんどん埋まり始めていた。

 ロゼはまだかな? と思って入口に目を向ける。丁度、グレーの髪の少女がこの部屋に入って来た。

 私は直ぐに立ち上がって、入口の方へ向かう。


「ロゼ!」

「フ、フレイヤ、どうしてここに?」


 どうしてなんか決まっている。


「ロゼに会いに来たの!」

















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