第48話 舞踏会 Ⅱ
私はディアナ様を連れて、会場内の人が少ない場所に移動した。
「急に何ですか? 私はレオンハルト様と話をしていたかったんですよ!」
「それですよ。ディアナ様はもう少し気持ちを抑えて行動した方が良いです」
「気持ちを抑える? 私は侯爵令嬢ですよ。完璧です」
それは本気で言ってるの? 全然完璧じゃない。
「レオのこと好きなんですよね?」
「どうして知っているんですか!?」
ディアナ様が驚きの表情になる。分からない方が難しいと思う。
「レオにアプローチし過ぎです。もっと抑えてはどうですか? レオが困っていましたよ」
「レオンハルト様を困らせるつもりは…… 私はただレオンハルト様をお慕いしているだけで」
「お気持ちは分かります。でしたら、レオを困らせないためにアプローチを少し控えてはどうですか?」
ディアナ様から返事がない。俯いて黙ってしまった。
「ディアナ様?」
「私、レオンハルト様に嫌われてしまったのでしょうか?」
ディアナ様は悲しそうな声で言った。
「レオはディアナ様を嫌いになっていませんよ」
「本当ですか?」
「はい。アプローチを控えて欲しいだけです」
「良かった。私、嫌われたわけじゃないんですね。安心しました」
ディアナ様はホッとした表情で笑った。
「ところで、フレイヤ様もレオンハルト様のことがお好きなんですか?」
「私!? 私は…… レオの友だちです。恋をする気持ちはまだ分からないので」
「そうなんですね。フレイヤ様はレオンハルト様と仲が良いので、てっきり、私と同じだと思ってしまいました」
「私とレオは友だちとして仲が良いだけです」
ディアナ様が会場の真ん中で踊っている男女を見ながら言う。
「レオンハルト様にダンスのお誘いをするのは控えた方が良いのでしょうか?」
ディアナ様から誘うつもりだったのね。とても積極的で改めて驚く。
「誘ってみてはどうですか? 今後、お手紙の頻度を控えると言ったらダンスを受けると思いますよ」
「本当ですか!? お誘いに行って来ます!」
「あ、はい」
ディアナ様はあっという間にレオのもとへ行ってしまった。ちょっと心配なので、ディアナ様を見守る。
レオが頷いたのが見える。ディアナ様の誘いを受けたらしい。
会場の真ん中に移動して、二人はダンスを始めた。二人とも上手い。周りから注目を浴びている。
ディアナ様の件はこれで落着かな。あれ? 人酔いでもしたのかな? 胸の辺りが少しモワッとする。
壁際に椅子が並んでいる。休憩に使っている人たちが何人かいた。
私も使わせてもらおう。壁際の椅子に座って息を吐くと、一瞬で楽になった。
「二年ぶりですわね。お元気でしたか?」
「オリアナ様……」
オリアナ様が話し掛けに来てくれた。
私から行こうと思っていたところだ。座ってては失礼だと思って立ち上がろうすると。
「
「はい」
オリアナ様が座ると、私は頭を下げる。
「二年前は失礼な態度を取って申し訳ございませんでした」
「フレイヤ様は真面目ですね。二年前のことなんて全く気にしておりませんわ。
良かった。気にしていないとは思っていたけど、少し不安ではあったから。
オリアナ様には訊きたいことがある。できれば、力を貸してもらいたい。
「ロゼリーア様とは以前と変わらず仲良くされていますか?」
「ロゼとは……」
訊きたかったのはロゼのことだ。オリアナ様から切り出してくれたので話しやすい。
「ロゼとは文通を続けていますが、最近は手紙が来るのも遅くて。しばらく会っていません。オリアナ様はロゼのこと何かご存知ありませんか?」
「監視が厳しいとだけ聞いています」
それは私も知っている。家同士は敵対関係にあるみたいだから、オリアナ様でも無理なのかな。
「
「え?」
「ロゼリーア様と会いたいんですよね?」
「はい! そうです! オリアナ様、お願いします!!」
「三つ条件がありますわ。この三つの条件を呑んでいただいたら、ロゼリーア様と会えるように
「分かりました。その条件を教えてください」
オリアナ様が指を一本立てる。
「一つ目は
「公式の場でなければ、できると思います」
「それで構いませんわ」
二本目の指を立てる。
「二つ目は来月のお茶会に参加してもらうこと。その場でロゼリーア様と会えるように図らいますわ」
「絶対に参加します! よろしくお願い致します!」
三本目の指を立てる。この条件で最後だ。
「三つ目は来月のお茶会が終わるまでアンジェリーナ様と連絡を取らないこと。何度も文通をされているくらいなので仲が良いんですよね」
言葉を返せない。私は固まってしまう。どうしてアンジェ様との文通をオリアナ様が知っているの?
「数ヶ月前にアンジェリーナ様とお会いしてましたよね。驚きましたわ。フレイヤ様が貴族派筆頭エイルハイド公爵家の令嬢と仲が良ろしいなんて」
「私のことを見張ってたのは……」
「ええ、
「そんな…… いつから私のことを見張っていたんですか!?」
「フレイヤ様とお会いする前です。パウラお姉様から聞いた時からですわ」
二年前から!? 意味が分からない。どうして?
オリアナ様の表情を見ても、後ろめたさは何も感じられない。ずっと笑顔のままだ。身体中を這いずり回られる嫌な感覚がする。気持ち悪い。
「どうして私を? 意味が分かりません」
「フレイヤ様は我が家の家紋をご存知かしら?」
この屋敷の門に刻まれていた家紋を思い出す。確か、三匹の蛇が一つの果実を一緒に食べている様子が描かれていた気がする。
「
座ってて良かった。立っていたら腰を抜かしていたかもしれない。初めて会った時はこんな人だとは思わなかった。
私に好意的なのは痛いほど伝わる。最初に思った怖いという印象は当たっていた。
「それで、どうされますか? 三つ目の条件も呑まれますか?」
迷うことはない、当然呑む。オリアナ様への感情は後回しだ。どうにでもなる。私はロゼに会いたい。
「三つ目の条件も呑みます。お茶会が終わるまでアンジェ様と連絡を取りません」
「分かりました。
「ありがとうございます」
オリアナ様が椅子から立ち上がって言う。
「お茶会の会場は帝都の屋敷になります。後日、招待状を送らせていただきますわ。お茶会の時は
「…… はい」
失礼しますと言って、オリアナ様が満足したような笑顔で去って行った。
オリアナ様がいなくなって、凄く疲れを感じる。
「フレイヤ」
「何だ、レオか。ディアナ様との件は上手くいったの?」
「アプローチは控えると言われたから安心だ。お前のおかげだ、感謝する」
「そう、それなら良かった。でも、断らなかったのね」
「遠回しに断ったが、伝わらなかった」
そうでしょうね。遠回しに断っても分からないふりをすると思う。ディアナ様はレオのことが凄く好きだから。
「ディアナ様は素敵な方だと思う。ちゃんと向き合いなさいよ」
「分かっている。俺のことはもういい。お前は何かあったのか? オリアナ嬢と話していたようだが」
「何でもない、気にしないで。ちょっと疲れただけ」
「そうか、それなら良いが。でも、何かあったら言ってくれ。今度は俺が力になる」
「そう、ありがとう」
私が微笑むと、レオが目を丸くする。
「その顔は何?」
「何でもない、気にするな。これ以上いたら遅くなる、帰るぞ」
レオが肘を曲げる。
「エスコート役は終わりでしょ?」
「父上が言っていた。エスコートは最後までするのが礼儀だと。だから、終わりじゃない。帰りもさせてくれ。誘ったのは俺だ」
「父上が言っていたは余計よ。素直に最後までエスコートするって言えば良いでしょ。仕方ないから、エスコートされてあげる」
来た時と同じように帰りもレオにエスコートをしてもらった。
―――――――――――――――――――― 【後書き】
これにて第三章は終了です。
沢山読んでいただきありがとうございました。
第四章はマルクスが帰って来る場面から始まり、ロゼと再会する場面もあります。
楽しみにお読みください。
期待できるぞと思われた方は★やフォロー、感想をお願いします! 作者の励みとなります!
レビューをいただけると、最高の励みとなります。
よろしくお願い致します!
↓こちらから行けます。https://kakuyomu.jp/works/16816927863069774684
第四章もお読みいただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願い致します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます