第45話 レオの頼み


 アンジェ様からの手紙が届いた。

 手紙を持って来てくれたのはエイルハイド公爵家の騎士だった。

 貧民街でのソフィアのことを手紙でお伝えしたので、この手紙はその返事だと思う。

 自室に戻って、直ぐに手紙を読んだ。

 感謝が色々と書いてある。

 良かった、アンジェ様のお役に立てた。でもこれは……


「私が見張られている!?」


 アンジェ様の手に入れた情報だから間違いない。

 甘かった。派閥は違っても子ども同士の付き合いだから誰も気にしないと思っていたのに。


「でも、皇帝派の誰が私のことを見張っているんだろう?」


 失礼かもしれないけど、お父様は皇帝派の末端だ。ルーデンマイヤー家自体にも力はない。娘である私の動向まで気にする必要なんてないと思う。

 手紙の最後には、今後注意して欲しいことが二つ書いてあった。

 文通の頻度を減らすこと、手紙を届ける際には十分気をつけること。


 アンジェ様が言うなら、文通を控えるしかない。凄く残念。本当に……

 ロゼの手紙が減って、更にアンジェ様まで手紙が減ってしまう。私は大きな溜め息をついた。


 肩を落として下を向いていると、ハッと思い出す。

 そろそろレオが来る! シオンに言ってお菓子の準備もしてもらわないと。

 姿見の前に立って、一応、自分の服を確認する。今はワンピースを着ている。楽な服装で可愛くはないかも。


「…… 着替えた方が良いかな?」


 でも、レオに会うだけだよ? 別に良いと思うけど、うーん……

 結局、どの服を着るのか悩み始めてしまった。



 ◇◇◇



「何の話かな?」

「分かりません」

「私も分からないから聞いてるのに」


 シオンとお喋りをしながらレオを待っている。

 今日の訪問は稽古ではないと手紙に書いてあった。私に話したいことがあるらしいけど。


 服について悩んだけど、動きやすい紺のドレスを着ることにした。

 可愛過ぎないし、無難だと思う。気にし過ぎだよ。レオなんだからいつもと変わらない。でも、何だかソワソワしてしまう。


 馬車が敷地に入って来て、レオが降りた。


 レオの服装に驚く。いつもの動きやすい服装じゃない!

 上品で落ち着いた服を着ている。良く似合っていた。とてもお洒落。私と会うだけなのにそんなにお洒落をしなくても。私ももっと可愛いドレスを着れば良かった。


「レオ、こんにちは。今日は本当に稽古じゃないのよね?」

「この服で稽古はできないだろ。手紙にも書いたが、今日はフレイヤに話があって来た」

「分かったわ。取り敢えず、入って」


 レオを客間に案内する。

 客間はお父様とお母様でも滅多に使わない。訪問客が少ないから。私は客間を初めて使う。ちょっとだけ背伸びした気分になる。


「そこに座って。シオンがお茶とお菓子を持って来てくれるから。甘い物は食べれる?」

「いただくよ。ありがとう」


 持って来てくれたお菓子はケーキだった。

 フォークを持って早速食べる。プチプチとした食感がして、ナッツに似た香りがする。初めて食べる、何のケーキ?


「これはケシの実だな。最近、若い女性の間で人気らしい」

「そうなの? 良く知ってるわね」

「…… ある令嬢から聞いたんだ」


 どうして暗い表情になっているの? 何か嫌なことを言ったかな?

 こんなにはっきりとレオが暗い表情をするなんて珍しい。私は明るい話題を切り出す。


「もう直ぐお父様たちが帰って来るわね。本当に良かった」

「父上が手紙で七月頃には帰れるだろうと言っていた。マルクス団長は?」

「お父様も同じ頃よ。後二ヶ月ほどね。早く帰って来て欲しい」

「そうだな」


 レオが柔らかな笑みを見せた。

 良かった。少し気持ちが戻ったみたい。


「フレイヤ、二人で話せるか?」


 シオンを下がらせたいのね。でも、そんなに真剣な話なの? 仕方ないなと思いつつ、シオンには下がってもらった。


「これで良い?」

「ああ、すまない」


 と言って、口を閉じる。

 レオが緊張しているように見えた。黙って話を待つ。


 レオが私の目を真っ直ぐ見て言う。


「俺と舞踏会に出てくれないか?」

「えっ……」


 今、私を舞踏会に誘ったの? その意味を分かって言ってるの? だって、舞踏会よ。舞踏会に私を誘うってことは、つまり……


「すまん、誤解しないでくれ。そういう意味ではないんだ」


 意味が分からない。そういう意味じゃないって?


「好き合っている令嬢のふりをして欲しい」

「ふりをするの?」

「ああ。フレイヤはツヴァイク侯爵を知っているか?」

「知らないけど」

「マルクス団長と交流があるかは知らないが、彼も皇帝派の一員だ。そのツヴァイク侯爵のご息女にディアナ嬢がいるんだが、その、俺へのアプローチが凄いんだ」

「は?」

「だから、ディアナ嬢を諦めさせるために協力して欲しい。頼む!」


 レオが頭を下げた。私はその姿を見ながら悩む。

 本気で困っているみたい。どうしようか? でも、何だかムカムカする。騙されたみたい……

 いやいや、騙されたって何よ。私は何も騙されていないから!


「フレイヤ、やっぱり駄目か?」

「一緒に行くのは構わないけど、私、デビュタント前よ」

「それは問題ない。フレイヤのデビュタントは六月の初めだろ? 舞踏会は六月の真ん中辺りだ」

「そう、それなら良いけど。この際だから、ちゃんと断りなさいよ。ディアナ様に失礼だわ」

「…… 分かった」


 少し意外ね。レオは女性に対してもはっきりと物を言う人だと思っていたから。

 …… 友だちの私が助けてあげる。

 そう言えば、私以外に頼める人いなかったのかな?


「私の他に協力してもらえそうな人はいなかったの?」

「女の友人はお前しかいない」

「ふーん、そっか、なるほどね。それなら私に頼むしかないわね」


 その後、しばらく私と歓談すると、レオは帰って行った。





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