第二部 英雄を継ぐ者
第三章 新たな出会い
第38話 私の変わったこと
「レオは舞踏会に出るの?」
開脚して地面に座るレオの背中を押しながら訊いた。
ぺたんと頭が地面につく、柔らかい。
「小さめの舞踏会には出るつもりだ」
「
「アノーク王国が攻めてきた日だな」
「うん」
帝国暦一〇五五年一月二十九日、アノーク王国軍が突然侵攻してきた。
出回っている情報によると、敵は約五千人の小規模だった。本気で私たちの国と戦争するつもりはないと言われている。
お父様やクラウディオ団長、他の騎士団長が中心となって敵を迎え討つ騎士団を新たに編成し、更に傭兵を引き連れて向かった。
国境近くの都市ベルティナが占領されていたけど、騎士団が近くに来ると戦うことなくベルティナは解放された。
アノーク王国軍は国境のリーベル山脈まで下がり、今も騎士団と睨み合いを続いている。時々、小競り合いがあるらしく、死傷者も出ているらしい。
手紙のやりとりはできているけど、お父様が心配だ。
「フレイヤ、痛い。いつまで押す気だ」
「あ、ごめん」
レオのおでこが赤くなっていた。
考え事をしながらレオの背中をずっと押していたから、レオのおでこが地面につきっぱなしだったみたい。
「おでこ、真っ赤」
私のせいだけど、つい笑ってしまう。
「笑うな、お前のせいだ。さっさと始めるぞ」
戦争が始まって最初の頃はオスカー先生が変わらず稽古をつけてくれていたけど、結局オスカー先生も戦争に行くことになってしまった。
ケイト先生も最近は魔獣討伐で忙しく来ることができない。
特異魔法の鍛練はお父様から手紙で指示を受けながら行っていて、上達はしている。
剣術の鍛練もオスカー先生から手紙で指示を受けていたけど、一人で鍛練するのは物足りないと感じていた。だから、レオと少し前から一緒に稽古をしている。
私とレオは木剣を構えて向かい合う。
お願いしますと同時に言って、稽古が始まった。
心の中で『魔力操作』と念じる。一瞬で全身の能力が向上した。
私はレオより先に動く。間合いを詰めて、初撃全力。
何度も私と稽古をしているから当然読まれている。レオは半歩下がって私の攻撃を躱し、そのまま攻撃。
だけど、私も読めている。
魔力感知をして、レオの振り下ろす木剣に合わせて私は木剣をぶつけた。
衝撃を受けたが、お互いに跳ね返されることなく、木剣の押し合いになる。
私は空かさずレオの腹部を目掛けて蹴りを入れた。レオはまたそれを読んでいて、脇を閉めて両肘で私の蹴りを止める。
私の蹴りでレオが後ろに下がったので、間合いができた。
やっぱりレオは強い。だけど……
心の中で『魔力吸収』と『魔力操作』を念じる。魔力の増大を感じた。
大丈夫、
私は木剣を構え直して、静かに長く息を吐く。
今までよりも格段に速い動きでレオの前へと移動した。
レオが驚いたように目を見開き、木剣を斜めに構えようとする。
受け流しをする気だ。
今の私は感知能力も上昇しているから、レオの動きに余裕で対応できる。
レオの構える木剣の上から突きを放って寸止めする。
「参りました。俺の負けだ」
私たちは木剣を下ろして互いに礼をした。
魔力吸収はとても疲れる。もっと鍛練をして、早く使いこなせるようになりたい。
「フレイヤ、さっきのは何だ」
「何のこと?」
私は首を傾げて誤魔化す。特異魔法についてはレオにも秘密だ。
「そうか、秘密なんだな」
「もちろん秘密だよ! …… あ」
しまったと思って、両手で口を閉じるけど意味がない。
レオが小さく笑って言う。
「フレイヤは騙し合いに向いてないな」
「うるさい。私だってこの正直な性格を気にしてるの!」
レオが言ったように、貴族の世界は騙し合い。アンジェ様の力になるなら、そういう力も少しは必要だと思う。
「俺はフレイヤの真っ正直な性格、良いと思うけどな」
「な! ななな」
急に褒められたから動揺してちゃんと言葉が出てこない。
言い返そうと思ったけど、レオの馬車が来てしまった。
「迎えの馬車が来た。稽古の手紙はまた手紙で調整するぞ。じゃあな」
「…… うん、分かった。レオ、またね」
レオの馬車を見送って私は屋敷に戻った。
◇◇◇
自室に戻ると、私はアンジェ様からの手紙を読み始めた。
「良かった」
私からアンジェ様に出した手紙で会うことはできないかとお伺いを立てていた。
アンジェ様からの手紙には、週末帝都グランディアに来て私と会うと書いてある。
お時間を作って欲しいとお願いをしたのは、アンジェ様のデビュタントについてお話したいことがあるからだ。
帝城で行われるデビュタントには侯爵以上の令嬢のみが参加するので、私は参加することができない。
前世の記憶にあるアンジェリーナ様の話によると、そのデビュタントに聖女が教皇と共に現れるらしい。
そして、カイルが聖女に恋をする。
デビュタントの前にこの情報をアンジェ様に伝えたいと思った。
今までは私が強くなってアンジェ様を守れば良いと考えていたけど、それだけだとあの結末はきっと変わってくれない。
アノーク王国との戦争もそうだけど、前世では起きなかったことが起きた。だから、私はもっと色んなことをする必要があると思う。
剣聖になるだけじゃ足りない。もっとあの結末を変えるための行動をしないと。
アンジェ様のために、私が未来を変えるんだ。
「アンジェ様に会うことお母様に伝えなきゃ」
ドアを開けようとしたら、急にドアが勢い良く開いた。
驚いて思わず変な声を上げる。
「ふぉう!」
ドアを開けたのはシオンだった。
文句を言おうと思ったけど、直前で言葉を飲み込む。シオンが青ざめていたからだ。
「どうしたの?」
「コルネリア様がお倒れになりました」
「…… え?」
私はお母様の部屋に走った。
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