第34話 照魔の儀式
私は寒さで体がブルッと震えて目を覚ました。
いつもはシオンが起こしに来るまでベッドの上にいるけど、今日は直ぐにベッドから起き上がる。
窓を開けると、冷たい風が入って来た。冷たい風に思わず目を細める。
風が弱まって目を開けると、敷地全体が銀色に輝いていた。昨日のうちに雪が積もったみたいで、その雪に太陽の光が反射している。
ドアがコンコンと鳴った。
どうぞと言うと、シオンがドアを開ける。
シオンが私の姿を見て目をパチクリさせた。
「おはようございます、フレイヤ様。もう起きてらっしゃったのですね」
「おはよう。驚いたでしょ。今日は
「そうですか。皆様、食堂にお揃いです。服を着替えて参りましょう」
シオンに服を着せてもらって、私は食堂へ向かう。
家族全員が席に座っていた。イリアも眠たそうな顔で座っている。結局、いつもと同じで私が一番遅かった。
皆、起きるのが早い。
「お父様、お母様、おはようございます。イリアもおはよう」
全員に挨拶して私も席に座った。
朝食を食べ始めると、お父様に声を掛けられる。
「フレイヤ、ナイフとフォークの手が逆だよ」
「あ、気づきませんでした」
フォークを右手、ナイフを左手に持っていたから、食べずらかったのか。
ナイフとフォークを持ち直すと、お母様とイリアが小さく笑った。
だって、緊張してる。
照魔の儀式の結果は分かっているけど、特別な儀式だから、どうしても緊張してしまう。
朝食を食べ終えると、教会に行くための準備を始めた。
私はお気に入りの赤のドレスをシオンに着せてもらう。
「シオン、いつもありがとう」
「当然のことです。フレイヤ様はお気になさらないでください」
シオンにはこれからもお世話になるんだろうな。感謝の言葉は大切にしたい。
準備を済ませたお父様とお母様が居間で待っていた。イリアは留守番だ。少し不満そうな顔をしてる。
ごめんね。帰ったら、一緒に沢山遊ぶから。
へドリックに御者をしてもらって馬車で私たちは教会に向かった。
◇◇◇
照魔の儀式は一月二十三日から一月二十八日の間で行われる。今日は初日だ。
私は貴族街の教会で照魔の儀式を受けるけど、他の殆どの貴族は自領地にある教会で照魔の儀式を受ける。
私が貴族街の教会で照魔の儀式を受けるのは領地のラヒーノに教会がないからだ。
教会を建てるにはミュトス教に多額の献金をしなければならない。お父様は無駄と仰って、献金の誘いがあったけど断った。私もお父様の意見に賛成だ。
教会の前には他の貴族の馬車が何台か停まっていた。 馬車が順番に並んでいたので、へドリックが一番後ろに馬車を着ける。
貴族街には教会が十件あって、この教会は一番古い。貧民街の教会に比べたら、大きくてとても綺麗だ。
少し待つと、前に並んでいた全ての馬車が去って行った。
私たちの番だ。馬車を降りて、お父様たちと一緒に教会へ進む。
お父様が受付の人に話をして許可を得ると、教会の中に入った。
私は思わず上を見上げる。
天井が高い。教会は立派な造りで大きな柱が目立つ。回廊が長くて聖堂まで距離がある。貧民街の教会は扉を開いたら直ぐに聖堂だった。
「フレイヤ、今から司教様に会うよ。ちょっと愛想がない人なんだけど、礼儀正しくしてね」
「分かりました」
司教は司祭の上の位だ。
お父様はその司教様と知り合いみたい。お父様にご迷惑を掛けないように私はきちんと淑女の振舞いをしよう。
「入るよ」
お父様が聖堂の扉を開けた。
◇◇◇
奥の壇上に黒のローブを着た男性が立っていた。鋭い眼光を私たちに向けている。
お父様は司教様と言っていたけど、聖職者には見えない。
がっしりとした体型に首筋には痛々しい傷痕。茶髪は短く刈上げられて、武人のような雰囲気を漂わせている。年齢は四十代くらいだろうか。
「ライナルク様、お久しぶりです」
「貴様か、マルクス。横にいるのがお前の娘だな」
「はい。フレイヤ、挨拶して」
私はドレスの裾を摘まんで挨拶をする。
「お初にお目にかかります。私はフレイヤ・フォン・ルーデンマイヤーと申します。本日はよろしくお願い致します」
「俺はライナルク・フォン・シェーンバリステン。この教会の責任者で司教をしている」
やっぱりただの聖職者じゃない。この人から威圧を感じる。
「ライナルク様は元
お母様がそっと耳打ちで教えてくれた。
オスカー先生に教えてもらったことがある。
神学校を卒業した魔力のある平民が組み込まれる組織だ。
「フレイヤ嬢、壇上に上がれ。今からお前の照魔の儀式を始める」
「よろしくお願い致します」
私は壇上に上がった。
壇上の中央には台があって、その上に五芒星が刻印された水晶玉がある。
「フレイヤ嬢がその水晶に手を翳すと儀式が始まる。宣誓するので、少し待て」
ライナルク様は五芒星のロザリオに手を当てて言う。
「私はフレイヤ・フォン・ルーデンマイヤーの真の力を秘匿することを神に誓う」
照魔の儀式に関わる聖職者は大勢の魔法属性を知ることになるので、その情報を漏らさないよう神に約束するらしい。神に約束して意味があるのか私には分からないけど。
「フレイヤ嬢、この水晶玉に手を翳せ」
「はい」
私が水晶玉に手を翳すと、水晶玉が微かに光始めた。
「今この水晶玉はお前の魔力に反応し、魔力属性が分かれば色がつく。火であれば赤、水であれば青、土であれば茶、風であれば緑だ」
手を翳してしばらく経った。光ってはいるが、水晶玉に色はつかない。
前世のフレイヤは火属性だから、水晶玉は赤色になると思うんだけど……
「どうして変化しないんですか?」
「魔法属性があれば必ず水晶玉に色がつく。どうやらお前には魔法属性がないようだ」
「え? 魔法属性がない? おかしいですよ」
「おかしくはない、前例がいくつかある。前例の者たちは四属性魔法が使えなかったそうだ。お前には魔法属性がない。手を退けろ、儀式は以上だ」
「そんな……」
私の照魔の儀式は予想外な結果で終わってしまった。
◇◇◇
「お父様、お母様、ごめんなさい」
馬車での帰り道、私は二人に謝った。
お父様とお母様はお互いに顔を見合わせて不思議そうな顔をする。
「どうして謝るの?」
お母様が私に問い掛けた。
「どうしてって……」
私は悔しさと信じたくない気持ちで下を向いた。
多分、お父様とお母様は私の魔法属性を知ることを楽しみにしていたと思う。
まさか魔法属性がないなんて。しかも、四属性魔法が使えない、最悪だ。前世のフレイヤは魔法も超一流って聞いていたのに。
このままだと、一番重要な『魔剣』が習得できない。
私の手をお父様が握る。
「お父様、私……」
「大丈夫。フレイヤにはフレイヤしかない力があるだろ。四属性魔法が使えなくても強くなれるさ」
そうだ、私は特異魔法が使える。四属性魔法が使えなかったら、『吸収』と『放出』の特異魔法を極めれば良い。
もしかしたら、『放出』が『魔剣』のことかもしれない。お父様は放出が魔剣に近いかもと稽古の時に言っていた。
だから、下を向く必要はない。
「お父様、お母様、私頑張ります!」
二人は微笑んで私の頭を撫でてくれた。
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