第29話 魔剣の使い手


 魔力操作で身体能力向上。初撃に全力の力を込める。

 狙いはジェス様の下腹部。ジェス様は高身長なので、そこが一番狙いやすい。

 ジェス様は私を懐に入れないように木剣を振り下ろす。

 速いけど、オスカー先生よりは遅い。

 初撃の狙いをジェス様の下腹部から振り下ろされる木剣へと切り替える。

 ジェス様の木剣と私の木剣が衝突した。

 ジェス様の振り下ろしに対して、私は振り上げだから不利だと思ったけど。

 ジェス様の攻撃、重くない!

 私はジェス様の木剣を跳ね返した。

 衝撃の余波でジェス様が後ろに下がる。

 胴がガラ空き!

 一気に懐へ入り込み、横薙ぎの一撃。

 当たる直前に寸止めをした。


「それまで! フレイヤの勝ち!」


 オスカー先生の声が上がると、見物していた周りの騎士から大きな歓声が沸いた。


 ジェス様は私に負けて信じられないという顔をしていた。

 オスカー先生がジェス様のもとへ行く。


「ジェス!」

「は、はい」

「子どもだと思ってフレイヤを侮りましたね。ジェスには相手の力量を察知する力が足りません。フレイヤに負けて悔しいと思うなら、もっと稽古をしなさい!」


 オスカー先生に叱られてジェス様は肩を落としていた。

 その姿を見て、私は素直に喜んで良いのか分からなくなる。私も気を引き締めよう。


 オスカー先生が私のもとに来て微笑んだ。


「フレイヤ、とても素晴らしい戦いでした」

「ありがとうございます」

「実は会わせたい騎士がいるんです。移動しましょうか」


 オスカー先生が歩き出したので、後ろをついて行く。

 少し奥の方へ行くと、『ドォン!』と聞いたことない音が更に奥から聞こえた。

 何かなと思って耳を澄ませる。


「フレイヤ、こっちですよ」

「あ、はい。すいません」


 もう少し歩いて、オスカー先生が立ち止まった。


「フレイヤ、あの騎士を見てください。魔力の流れを見ることができれば、面白いはずですよ」


 オスカー先生の視線の先にいたのはとても小柄な女騎士。

 淡い金髪をポニーテールにしていた。前を向いているから顔は分からないけど、身長は私よりも少し高いくらい。周りの騎士と比べたら子どもみたいな体つきだ。


 魔力の流れを見ろって言ったけど、あの女騎士は今から何をするんだろう?

 私はゆっくりと息を吐いて、集中する。


 女騎士の目の前には大木から切り出したような丸太があった。

 女騎士はその丸太に向かって木剣を構える。今から丸太を木剣で叩くのかな?


 すると、女騎士の魔力が見えた。

 この人の魔力はをしている。

 青色の魔力が両腕に集中して、その魔力が木剣へと移動した。青色の魔力はとなり、魔法へ変化する。

 まさか、これって……


「魔剣?」


 私が呟くと、オスカー先生は少し驚いた表情をして私に訊く。


「マルクス団長から聞いたのですか?」

「え、あ、はい」


 私は嘘をついた。

 お父様からは魔剣のことを一度も聞いたことがない。

 剣に魔法を乗せて放つ斬撃、魔剣。前世の剣聖フレイヤが得意とした攻撃だ。魔法を乗せた斬撃は恐るべき破壊力を持つ。

 

 女騎士は木剣の切先を右に構えて、そのまま横薙に振る。

 丸太と木剣が衝突した瞬間、強い風が吹いて、私の髪がなびいた。

 ドスンと大きな音を立てて丸太は横に真っ二つとなった。


 魔剣の威力に私は呆然となる。まさか木剣で丸太を切断するなんて。


「流石ですね、パウラ」


 オスカー先生が声を掛けると、女騎士は振り向いた。

 大きな瞳に高い鼻、頬は少し赤くぷっくりとした唇をしている。可愛らしく、おしとやかな印象だ。


「あら、オスカー先生、どうされたのですか?」

「パウラに会わせたい子がいましてね」

わたくしにですか?」


 私はパウラ様に挨拶をする。


「マルクスの娘、フレイヤと申します。本日はオスカー先生のご厚意で騎士団の稽古に参りました」

「まぁ、マルクス団長の娘様。会えて光栄ですわ。わたくしはパウラ・フォン・ニーグリャーギと申します。フレイヤ様はもう誰かと手合わせはされたのですか?」

「はい、ジェス様と」

「最近入った若い騎士ですわね。それで、どちらが勝ちましたの?」

「…… 私です」


 少し遠慮がちに言った。

 ジェス様に悪い気がしたので。


「まぁ、凄いですわ。マルクス団長の娘様ですから、やはりお強いのですね。オスカー先生、この子と手合わせをしても宜しいのでしょうか?」


 パウラ様はとても嬉しそうな表情でオスカー先生に訊いていた。


「もちろんそのつもりで来たんです。怪我させない程度に鍛えてあげてください。私はちょっと用があるので、少しフレイヤのことを頼んでも構わないですか?」

「もちろんですわ」


 オスカー先生が私の肩に手を置いて言う。


「パウラは第十二騎士団の女性の中で一番強いです。男性を含めても五本の指には入ると思います。全力で戦いなさい。パウラから沢山のことを学ぶのです。私は少し用があるので出ますね、直ぐに戻りますから」


 オスカー先生はこの場から離れて建物の方へと戻って行った。


「パウラ様、よろしくお願い致します」

「もちろんですわ。わたくし、楽しみです。早速始めますわよ」


 直ぐにパウラ様との稽古が始まった。



 ◇◇◇



 今から二本目だ。一本目の打ち合いは全く歯が立たなかった。

 パウラ様の剣は苛烈だ。雰囲気からは全く想像ができない。

 私が一回攻撃すると、三回攻撃が返って来るので、防戦一方になってしまう。


「もう一本お願いします」

「はい、よろしくお願いしますわ」


 初撃全力、それは変わらない。でも、一本目とタイミングを変える。

 パウラ様と私の間合いは殆んど同じ。一気に距離を詰めると、右へ跳んだ。

 パウラ様の左側から全力の攻撃。

 だけど、ブン! と木剣は大きく空を切った。

 パウラ様は既に距離を取っている。


「一本目の時、初撃全力を止められたのに二本目も初撃全力とは良い度胸ですわ。ちゃんとオスカー先生の教えを守って偉いです。それに、一本目と違って工夫もされている。素晴らしいと褒めたいですが、せっかく良い目をお持ちなのに勿体無いですわ。わたくしの数手先を読んでみなさい。さ、再開しますわよ!」


 先読みは魔力の反応で読める。

 でも、数手先を読むのは…… あー、もう! 悩むのは良くない。集中しろ!


 パウラ様が動いた。

 速い!

 右からの攻撃、木剣で止める。

 次は左、もう一度止める。

 魔力反応の流れが変化した。

 横薙ぎが来る!

 パウラ様が横薙ぎの動作へ入る前に、私は間合いの外へ出た。だけど、猛追される。

 どうする? また下がれば、猛追が続くだけだ。

 私は魔力操作で脚力を更に向上させる。


 パウラ様が横薙ぎの動きに入った瞬間、私は大きく跳び上がった。

 木剣が足の下をスレスレで横切る。

 そして、そのまま空中でパウラ様の右肩に向かって木剣を振り下ろした。

 が、パウラ様の木剣が私の振り下ろす木剣に向かって振り上がる。

 空中で踏ん張りのきかない私はパウラ様の攻撃の威力に押し負けて吹き飛ばされた。

 地面から起き上がろうと頭を上げると、目の前にパウラ様の木剣があった。


「参りました」


 と言って、私が立つと、パウラ様に両手をぎゅっと握られる。


「パウラ様?」

「す、凄いですわ! わたくしが助言した直ぐ後に、数手先を読めてましたわね! 私、強い女の子は大好きなんです。フレイヤ様は必ず私よりも強くなれますわ!!」


 パウラ様に両手を握られたままブンブンと手を振られる。


「ちょ、あ、え、手を振るのが強過ぎます」

「ああ、ごめんなさい。嬉しくて興奮してしまいましたわ。…… あら? マルクス団長とオスカー先生、……」


 後ろを向くと、こちらに歩いているお父様が見えた。











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