第28話 第十二騎士団
整備された道を私の乗った馬車が走っていた。
窓からは綺麗な貴族街が見える。全ての建物が新品のようで、貧民街とは大違いだ。
貧民街に行った時のことを私は思い出した。
トール様やマルティス、子どもたちは何をしているかな?
もう一度貧民街に行きたいけど、しばらくお母様の外出予定はない。お母様がまたお茶会に行ってくれたら、私は貧民街に行けるんだけど。またレオにも会えるかな?
「フレイヤ、聞いてますか? フレイヤ!」
「…… はい! すいません、オスカー先生」
「緊張するのは分かりますが、気持ちを引き締めなさい。今から騎士団の稽古に参加するのですよ」
私たちは第十二騎士団の基地へ向かっている。
オスカー先生は私が行くことを騎士の誰にも言っていないらしい。大丈夫なのかな?
「でも、何も伝えずに行っても良いんですか?」
「問題ありませんよ。騎士の子どもが騎士団の稽古に参加することは良くあることですから。ですが、参加する騎士の子どもはフレイヤより歳上の子どもが多いですけどね」
「…… やっぱり、もっと強くなってからの方が良かったんじゃないですか?」
「意外ですね。てっきり、フレイヤは自信満々だと思っていました。昨日までやる気に満ちていたと思いますが」
「やる気はあります。でも、稽古の相手は帝国騎士ですし」
帝国騎士の強さを前世で確りと体験しているから、今の私で相手になるのかなと思ってしまう。
「でもが多いです。なぜ、そんなに不安なのか分かりませんが、フレイヤ、あなたは忘れていることがありますよ」
「何ですか?」
「私も帝国騎士です。しかも、並の帝国騎士ではありません。そんな相手といつも稽古をしているんです。フレイヤ、自信を持ちなさい。
オスカー先生が今日のことをお母様に前もって伝えていた。
騎士団の基地へ出発する前、自分の全力を精一杯出しなさいとお母様から言われた。
「オスカー先生、私、全力で頑張ります」
「ええ、頑張ってください」
オスカー先生は優しく微笑んだ。
しばらくして、私たちが乗る馬車は第十二騎士団の基地へと着いた。
◇◇◇
帝国騎士団の基地は二十ある騎士団にそれぞれ一つ割り当てられている。
基地の大きさは騎士団の規模によって異なる。一番大きい第一騎士団の基地は
基地の門まで来ると、門衛の帝国騎士二人が立っていた。
オスカー先生に気づくと、二人とも右手を胸に当てる。騎士が仲間同士でする敬礼だ。
オスカー先生が立ち止まって答礼したので、私は慌ててオスカー先生の真似をする。
基地に入ると、直ぐに建物が見えてきた。その向こう側から色んな音が聞こえる。
「目の前に見える建物が第十二騎士団の本部施設です。一番上のあの部屋を見てください。あの部屋で、マルクス団長は仕事をしています」
あの部屋でお父様が仕事をしているのか。会いたいな。やっばり、忙しいのかな?
「裏へ回りましょうか。訓練場で騎士たちが稽古をしています」
オスカー先生の後をついて建物の裏へと向かう。
建物の裏には大きな訓練場が広がっていた。訓練場の奥までかなり距離があって、ぼんやりとしか見えない。
訓練場にいる騎士たちは様々な稽古をしている。
木剣で打ち合う騎士たちもいれば、木剣で丸太を叩いて鍛練している騎士もいた。
こんなに沢山の騎士がいるなんて。この全員がお父様の部下なんだ。
「凄い」
「凄いですか。驚いてくれて良かったです」
少し離れた場所で稽古をしていた騎士の集団がオスカー先生に気がついて、急いでこちらに走って来る。
騎士の集団はオスカー先生の前に並ぶと、息の合った動作で全員一緒に敬礼をした。
二十人ほどいるだろうか。この騎士たちは周りの騎士たちに比べて若い。
「この騎士たちは最近入ったばかりの若い騎士で、私が教育係をしています。早速ですが、打ち合いを始めましょうか。ジェス、来てください」
オスカー先生に呼ばれたのは高身長の騎士。オスカー先生よりも頭一つ分大きい。
「ジェス、この子と打ち合い稽古をしなさい」
「え? この女の子とですか?」
高身長の騎士は明らかに嫌そうな顔をした。
私のような少女と稽古をしろといきなり言われても、素直に頷けないと思う。
「命令です。打ち合いなさい」
オスカー先生が凄みのある声で言うと、高身長の騎士はそれ以上何も言わなかった。
「フレイヤ、この騎士の名前はジェスです。私が始めと言ったら、ジェスと打ち合いを始めてください」
「はい」
「私と稽古する時と同じように戦いなさい。頑張るのですよ」
オスカー先生は私の頭を撫でて離れて行った。
オスカー先生に撫でられた頭を思わず触る。
何だか凄いやる気が出てきた。うん、全力だ。やってやる!
近くにいた騎士から木剣を受け取って、ジェス様の前に立つ。
見物をしに来たのか、周りには騎士たちが集まっていた。
「ジェス様、よろしくお願いします」
「…… 怪我だけはしないでくれよ」
少し距離を取って、木剣を構えた。
ドキン、ドキン、と心臓の音がうるさい。今になって緊張してきた。
心を落ち着かせるためにフーッと深く息を吐く。
落ち着くのが分かる。もう大丈夫。ちゃんと集中できる。
オスカー先生が右手を上げるのが見えた。そして、右手を勢い良く振り下ろす。
「始め!」
私はジェス様に向かって全力で飛び出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます