第24話 貧民街九番地区
私とシオンは平民街を歩いていた。
貧民街に向かっている。
今日、お母様はお茶会で留守だ。お父様はもちろん仕事中で、イリアは勉強で忙しい。
お母様に上流街へ買物に行くと伝えたので、お母様は私が上流街で買物していると思っている。
御者兼護衛のへドリックはお母様につくことが分かっていたため、私たちは辻馬車を頼んだ。辻馬車には帰りも屋敷へ送ってもらうように頼んであるので、屋敷からの迎えはない。
これで、私たちが貧民街に行っていることは屋敷の誰にも知られることはない。
今の私たちはドレスやメイド服ではなく、平民が着てそうな服を着ている。ドレスやメイド服では当然目立つので、シオンが調達してくれた。
平民街を進むほど、浮浪児が目立つようになった。
特に橋の下や小さな空き地に多かった。集団で根城としているようだ。
浮浪児だけではなく大人も当然歩いていて、全員痩せていて格好も薄汚れている。今気づいたけど、周りと比べて私たちは健康そうで服も綺麗だ。
上流街の平民と比べると、平民の貧富差が激しいことが良く分かる。
貧民街が近くなってきた。
この平民街の中でも明らかに異質な路地を見つける。路地の奥は暗く、その路地だけ避けるように人が通っていた。この路地が貧民街への入口だ。
「フレイヤ様、ここが貧民街九番地区の入口です」
「うん」
シオンに教えてもらわなくても、前世の記憶があるので最初から分かっていた。
「シオンも本当に入るの? 目的の場所を教えてくれたら良いよ」
貧民街は子どもを拐う奴らが多くて危険だ。できれば、戦うことのできないシオンはここで待っていて欲しい。
「危険でも構いません。邪魔になるのでしたら、その場で私をお捨てになってください。それでも、私を連れていかないのでしたら、今からコルネリア様のもとへ行き、全てを報告します」
私は驚きで目を見張る。
まさかシオンがこんなことを言うなんて。黙ってここで待ってくれるかなと思ったのに。
「主を脅迫しないでよ」
「では、脅迫をさせないでください」
私は観念して小さく息を吐く。仕方ないな。
「もう分かったよ。でも、これだけは約束。私から離れないでね」
「ありがとうございます。決してフレイヤ様から離れません」
私はシオンと手を繋いで貧民街へ足を踏み入れた。
◇◇◇
帝都グランディアの平民街には貧民街が何ヵ所か存在する。
正確な数は知らないけど、私が生活していたこの貧民街は昔から九番地区と呼ばれていた。
貧民街の中は鼻を突く嫌な臭いが辺りに漂っている。シオンと同じく私も顔を顰めたけど、その臭いを懐かしいと思ってしまった。
貧民街には崩れそうな建物が多い。
丈夫そうな大きな建物もあるが、その建物も所々壊れている。
壊れた大きな建物は貧民街に住む浮浪児の生活場所になっていることが多い。その周りの建物の陰から嫌な視線を感じた。部外者の私たちを見張っているみたいだ。
私たち、ここの住人じゃないって丸分かりだからね。
歩いていると、服かどうかも分からないボロボロの服を着た男が近寄ってきた。
男が私たちを見て舌舐りをしている。私たちを襲おうと考えているんだ。馬鹿じゃないの!
ギッと私が睨むと男は怯んで逃げて行った。
まぁ、少女が二人だけだから、簡単に襲えると思うよね。
「シオン、目的地はもっと先よね?」
「…… は、はい」
「大丈夫?」
「何がでしょうか?」
いつもの無表情で言葉を返しているが、私と繋いだシオンの手が震えているのが分かる。さっきの男のせいかもしれない。大丈夫かな?
「やっぱり引き返す?」
「いいえ、戻りません! フレイヤ様が危険な場所へ行かれるのでしたら私はお供します。もう二度とフレイヤ様の側を離れたくはありません!」
「シオン……」
魔獣事件の時のことを思ってシオンは言ったんだと思う。
シオンは滅多に泣かない。でも、私が目を覚ました時、シオンはとても泣いてた。
お母様とイリアはもちろんだけど、シオンにも心配を掛けたから悪いことをしたと思っている。
「分かったよ、ごめんね。じゃあ、私の側にいて」
「はい」
嬉しそうに答えると、シオンは可愛い笑顔を見せてくれた。
先へ進んで路地を曲がった時にチラッと後ろを見ると、三人の男たちが私たちを尾行していた。
シオンの手を確りと握って足を速める。すると、前から四人の男たちが現れて、私たちの道を塞いだ。
茶髪で長髪の男が優しそうな笑みを浮かべて私たちに話し掛ける。
「おーい、お嬢ちゃんたち、こんなとこでどうしたんだい? もしかして迷子かな? 俺たちが出口に案内してやるよ」
この男は私たちを下から上へとじろじろと見ている。
値踏みをしている目つきだ。その笑顔も嘘っぽい。私は何度もこんな奴らを見たことがある。
それに、私たちに話し掛けてきたこの男には見覚えがあった。少女専門の奴隷商人……
「フラド・アビエーフ」
思わず口から出てしまった。
しまったと思ったが、もう遅い。
「なぜ俺の名前を知っている?」
優しそうな笑みが消え、フラドが私を睨んだ。
「その見た目からただのガキじゃねぇと思っていたが、どの地区から来た? まぁ、良い。捕まえて体に訊けば済むことか。おい!」
フラドが周りの男たちに私たちを捕まえるよう命令した。
「シオン、私に任せて」
「はい、お願い致します」
前に四人、後ろに三人、計七人。
フラドは何もしないだろうから、戦うのは六人。
男たちはナイフを出す。私は剣を持って来てないから体術だ。
魔力操作で身体能力を向上させる。これで大人が相手でも対応できる。
この男たちは素人だ。オスカー先生とケイト先生に鍛えられている私の敵じゃない。
私が体術の構えをすると、後ろにいた三人の男たちが前の方に勢い良く吹っ飛んで来た。
「はぇ?」
驚いて変な声が出てしまう。
なに? どうしたの?
「下がってろ」
と誰かが私に言った。
そして、私の目の前に黒髪の少年が颯爽と現れた。
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