第21話 私の友だち


 今日はイリアの誕生日会。

 私は今から来る招待客を敷地で出迎えている。と言っても、招待客はほんの数人しかいない。招待客は知り合いのみだ。

 イリアは誕生日会のために御粧おめかし中で、お母様がイリアのために服を選んでいる。

 お父様は科学ギルドに行って、誕生日プレゼントの顕微鏡を受け取りに行っている。

 敷地内に馬車が入ってきた。

 馬車から降りたのは、オスカー先生だ。

 いつもの騎士服ではなく、礼服を着ている。とても素敵。カッコいいです。


 私はドレスの裾を持ってオスカー先生に挨拶をする。


「オスカー先生、本日は私の妹イリアの誕生日会に来ていただきありがとうございます。妹の喜ばしい一日を一緒に祝ってください」

「丁寧な挨拶をありがとうございます。フレイヤのドレス姿、良く似合っていますよ」


 オスカー先生が褒めてくれたドレスは先日お母様と一緒に選んだ。いつもの青系の色ではなくて赤色にした。選んだ赤色は派手ではなくて、落ち着いた暗めの赤色だ。

 オスカー先生が褒めくれたことが嬉しくて、私は笑顔になる。


「私は先に中へ行きますね」


 私の側に控えていたシオンがオスカー先生を誕生会の会場に案内した。

 しばらくすると、別の馬車が敷地に入って来た。

 女性が降りたけど、誰か分からない。

 黒いドレスを着ている。この人は誰?

 茶髪で短髪。もしかして……


「うそ!! ケイト先生ですか!?」

「うそってなんだよ。あたしだよ、見たら分かるだろ」


 本当だ。この口調は間違いなく、ケイト先生。もう一度、下から順番にケイト先生を見る。

 いつも露出の高い服を着ている時は色気を感じないのに、黒いドレス姿のケイト先生は色気をムンムンと感じる。体の凹凸がはっきりと分かるからかもしれない。何て言うのか、細くて大きい。

 ケイト先生に大人の女性の凄さを実感させられて、私は負けた気がした。


「失礼なことを考えてるだろ?」

「そんなことないです。ケイト先生も来てくださってありがとうございます。オスカー先生が先に来て会場にいらっしゃいます」

「オスカーの旦那がもう来てんのか? そっかそっか、あたしも行くよ」


 ケイト先生はとても嬉しそうな顔をして、足早に屋敷の中へ入って行った。

 あんなに嬉しそうな顔をするなんて。だけど、いつもと少し違う笑顔のような……

 ケイト先生がとても可愛く見えた。


 最後の馬車が敷地に入って来た。

 私はこの馬車を一番待っていたかもしれない。

 少女が馬車から降りると、私は直ぐに駆け寄る。


「ロゼ!!」


 私は気持ちが抑えれなくてロゼを抱き締めた。


「フ、フレイヤ…… 様」


 ロゼも私と会えて喜んでくれると思ったけど、なぜか困った顔をしている。

 私は御者の嫌な視線を感じて、手紙で教えてくださった内容を思い出す。

 私がロゼから離れると、ロゼはドレスの裾を持ちながら腰を少し折って挨拶をする。


「フレイヤ様、本日はお招きいただき感謝致します。イリア様の誕生日を一緒に祝えることを光栄に存じます」

「ありがとう。さっきはごめんなさい。ロゼに会えたのが嬉しくて。早く屋敷に入りましょう。もう直ぐ、誕生日会が始まるから」

「はい」


 私はロゼの手を引っ張って、一緒に屋敷へ入った。屋敷へ入るまで御者の視線をずっと感じていた。


「ロゼ、大丈夫なの? あの御者、ずっとロゼを監視してた」

「いつもそうなんです。でも、監視されるのは慣れてます。それに、アンジェリーナ様のおかけで、前より私への待遇が良くなりましたから」


 エルフ族の血を引くロゼはグラストレーム男爵の屋敷で良く思われていない。

 私と文通している手紙の内容もグラストレーム男爵に把握されている。私はロゼの置かれている状況をアンジェ様からの手紙を通して知った。アンジェ様からの手紙にはグラストレーム男爵に公爵の権力を使って文句を言ったとも書いてあった。

 ロゼが言うには、アンジェ様のお力で良くなったらしい。あの御者の態度から考えても、本当に少しなんだと思う。いくらアンジェ様でも他貴族の家中のことはこれ以上介入できない。

 ロゼは大丈夫なの? 私は何もできないのかな?


 会場となっている大広間に向かっていると、ロゼが途中で足を止めた。


「どうしたの?」


 すると、ロゼはドレスの裾を持ち膝が床につくぐらいに腰を落として深々とお辞儀をした。

 挨拶をする時の一般的なお辞儀ではなく、相手に敬意を表す時の最敬礼だ。普通は滅多にしない。


「フレイヤ様、魔獣事件の時は私を命懸けで助けていただきありがとうございました。このご恩をどう報いて良いのか分かりません。フレイヤ様は私の命の恩人です」


 私はロゼを立たせて、小さな溜め息をつく。そんなことどうでもいいのに。


「ねぇ、ロゼ。手紙の中でも散々感謝されたよ。これ以上感謝されると、ロゼの感謝でお腹一杯になりそう。ご馳走食べれなくなったらどうするの」

「で、ですが」

「はい! もう感謝は終わり! 前にも言ったけど、様はつけない。私たち友だちなんだから」

「はい 。…… フ…… フレイヤ 」

「聞こえないよ?」


 本当は聞こえてたけど、わざと聞き返した。

 まだ恥ずかしそうにしてるし、声も小さい。


「…… フレイヤ」

「もう一回」

「フレイヤ」

「聞こえたけど、もう一度」

「フレイヤ! 聞こえてるじゃないですか」

「あれ? そうだっけ、今聞こえたよ。ごめんごめん、からかいすぎたね。…… ロゼ、これからもよろしくね」

「はい! フレイヤ」


 私はロゼと手を繋いで、一緒に大広間へ向かった。



 ◇◇◇



 誕生日会の招待客はオスカー先生、ケイト先生、イリアの先生たち三人とロゼ。貴族の誕生日会にしては少ないけど、私たちは前からこんな感じだ。

 シオン、リエッタ、へドリックや他の従者たちも一緒にイリアの誕生日を祝ってくれる。イリアはきっと喜んでくれるはずだ。


 オスカー先生とケイト先生が会話しているのが目に入った。

 ロゼを紹介したいんだけど、ケイト先生が今まで見たことのないような笑顔をしている。邪魔しちゃ悪い気もするけど……


「ええっと、お邪魔しても良いですか?」


 私が話し掛けると、オスカー先生は直ぐに反応する。


「もちろんですよ。おや? そちらの可憐な女性は?」


 オスカー先生に可憐と言われてロゼは真っ赤になる。

 ケイト先生の顔をちらっと見ると、怖い顔で私を睨んでいた。私、ケイト先生に睨まれることをした?


 ロゼは顔を真っ赤にしながらオスカー先生に挨拶を返す。


「私はグラストレーム男爵の娘、ロゼリーア・フォン・グラストレームと申します。どうぞよろしくお願い致します」

「ご丁寧な挨拶をありがとうございます。私はオスカー・フォン・エルガーバーウェン。準男爵の地位を賜っており、第十二帝国騎士団では若騎士たちの教育役をしています。それと、フレイヤの剣術の師匠もさせてもらっています。ロゼリーア嬢のことはフレイヤから大切なお友だちと聞いておりましたので、会えて光栄です。これからもフレイヤのことをよろしくお願いします」

「は、はい!」


 ロゼは笑顔で答えた。今日一番の声量だった気がする。


「ほら、ケイトも挨拶しなさい」


 オスカー先生がケイト先生に小突いて言った。


「え、あ、分かってるよ。あたしはケイト・フォン・ホルツマンだ。あたしもオスカーの旦那と同じでフレイヤの師匠みたいなことをしている。よろしくな」

「はい、よろしくお願いします」


 自己紹介を終えると、オスカー先生が入口を見た。


「そろそろ主役が登場しそうですね。静かに待ちましょう」


 入口が開き、イリアが大広間に入って来た。








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