第6話 世界の国々について習う


 屋敷の一番静かな部屋で勉強をすることになった。机には鉛筆とメモをするための紙が用意されており、机の前には黒板がある。

 私が椅子に座ると、オスカー先生は黒板に大きな絵を描き始めた。

 どうやら中央大陸と南大陸の地図のようだ。中央大陸に比べて南大陸を大きく描いている。

 両大陸の絵に線を引いて国を区切っていた。区切った場所に国名を書いていないので、どこの国なのか分からない。

 オスカー先生は地図を描き終わると、私の方を向く。


「フレイヤ、今から中央大陸と南大陸の国々について授業をします。授業は問答形式で行います」

「えぇっと…… 問答形式ですか?」

「そうです、問答形式です。私が質問したらフレイヤが答え、フレイヤが質問したら私が答える。大切だと思うことがあれば、その紙に書き写すと良いでしょう。では、始めます」

 「はい」


 オスカー先生は黒板を指差しながら私に質問する。


「中央大陸にある国の名前をフレイヤが知っている範囲で構わないので言ってみてください」


 私には分からない難しい質問をされると思ったが、意外に簡単な質問だ。

 中央大陸の国名くらいなら私でも答えられる。国の位置は覚えていないけど。


「全部答えられます。私たちの国はロギオニアス帝国で、他はブリュノール王国、アノーク王国、イルガラン聖王国、ヨマーニ共和国、フィルニカ王国、シュリトラン王国、ヴィスト帝国です」

「良く覚えてますね。ですが、もう一国忘れていませんか?」

「え? もう一国? …… あ! メッチェ海洋連合国です!」

「その通りです。では、フレイヤが答えてくれた国々の名前を地図に書いていきましょう」


 国の名前が地図に記載されると、国の位置と大きさが詳細に分かってくる。

 ロギオニアス帝国は中央大陸の西の方にあって、南にブリュノール王国、東の方にヨマーニ共和国、イルガラン聖王国、アノーク王国と接している。

 ロギオニアス帝国は大きな国だ。地図で見ると、他の国と比較できて良く分かる。

 その地図にはロギオニアス帝国よりも大きな国があった。


「オスカー先生、ヴィスト帝国が一番大きいんですね」

「その通りです。ヴィスト帝国がどんな国かは知っていますか?」

「すいません、知らないです」

「謝る必要はありません。これから覚えていきましょう」


 他の国については国名くらいしか知らないので、覚えておこうと思って鉛筆を手に取った。

 

「簡単にですが説明します。ヴィスト帝国と呼ばれることが多いですが、正式な国名は神聖ヴィスト帝国です。皇帝を頂点とする国で、今はかなり高齢のフェルディナンド四世が皇帝としてヴィスト帝国を治めています。国教は私たちと同じミュトス教ですが、ヴィスト帝国のミュトス教は東方教と呼ばれております。ミュトス教についてはフレイヤも分かっていますね?」

 

 ミュトス教は預言者ミュトスが中央大陸に広めた神の教えとして伝わっている。

 神の教えに従った行いは善行とされ、その善行を行う人間は神によって救済されるとミュトス教徒は信じている。

 ミュトス教は家族全員が信徒になることが一般的だ。お父様たちが信徒ではないので、私も信徒ではない。

 

「はい、預言者ミュトス様が広めた教えだと聞いています。ですが、ヴィスト帝国のミュトス教はどうして東方教と呼ばれているのですか?」

「教義の解釈が違うからです。例えば、預言者ミュトスは最初にどこで教えを広めたとか、この教えの意味は正しくないとかですね」

「んー、難しいです」

「理解しなくても構いません。ただ、覚えておいて欲しいのです。信じている宗教が同じでも国が違えば中身は異なります。異なるのは宗教だけではなく、戦い方や食べ物、価値観など様々なものが異なるのです。だから、他の国の者と関わる時は気をつけなければなりません」

「分かりました。良く覚えておきます」


 私は確りと紙に書き留めた。

 オスカー先生の授業は今までの家庭教師の授業と違って楽しく感じた。今までは眠気との戦いだったが、今の私はとても集中できている。


「中央大陸の他の国々については次回話しましょう。次は南大陸の地図に国名を書いていこうと思います。この地図を見比べても分かるように、南大陸は中央大陸よりも大きいですね。その南大陸の国についてどこか知っている国はありますか?」


 南大陸の国名は一切頭に浮かばなかった。分かりませんと言って、私は首を横に振った。

 

「知らなくても気にする必要はありません。むしろ、南大陸の国を知っている方が珍しい。知らなくても困りませんから。ですが、覚えておくと何かのためにはなるでしょう」


 オスカー先生は南大陸の地図に左上最北西の国から国名を書き始めた。

 私はその国名を紙に書き写していく。

 ウォーレ自由都市国、ギルザーレ大公国、ノーデン王国、ガリア連邦共和国、エーゴ王国、バラク王国。

 南大陸の中で一番大きい国はガリア連邦共和国で、ヴィスト帝国よりも大きい。

 オスカー先生は南大陸中央の国と一番右上最北東の国の名前を書かなかった。


 「この二つは国ではありません。今はこの名前で呼ばれています」  


 中央の国がヴィスト帝国属領国家スラン、右上の国名がヴィスト帝国属州ショクトル。


 「え? この二つはヴィスト帝国なんですか?」

 「その通りです。ヴィスト帝国が占領した領土で、元はどちらも王が統治する国でした。今は王ではなく、ヴィスト帝国によって任命された者が統治しています」


 オスカー先生が描いた地図を見て比べてみると、南大陸の領土を合わせたらヴィスト帝国はロギオニアス帝国の三倍以上の大きさはある。ガリア連邦共和国よりも大きくなってしまった。


 「こんなに大きかったなんて知りませんでした」

 「今から知れば良いだけです。さて、南大陸の話に戻りますが、ロギオニアス帝国と関わりがある国が南大陸には二つあります。こことここです」

 

 オスカー先生が指差したのは、ウォーレ自由都市国とギルザーレ大公国だ。


「どんな関わりでしょうか?」

「ウォーレ自由都市国と私たちの国では貿易関係があります。ロヴィリアという町をご存じですか?」

「いいえ、知りません」

「ロヴィリアは帝国の最も南にある大きな都市です。この都市を中心に私たちの国はウォーレ自由都市国と貿易を行っているのです」

「分かりました、覚えておきます」

「はい。次はギルザーレ大公国についてです。私たちの国が最大領土の時はどのくらいの大きさだったか分かりますか?」


 その答えはアンジェリーナ様から教えてもらった気がする。


「確か…… 私たちの国は南大陸にも領土を持っていたんですよね」

「その通りです! 良くご存知ですね、失礼ですが、フレイヤはご存知ないと思っていました。こちらも本で学ばれたのですか?」

「はい。でも、それだけです。他のことは分かりません」


 勉強嫌いの私が本を読んでいるわけがない。アンジェリーナ様に教えてもらったことだから覚えている。

 オスカー先生を騙した感じがして、嫌な持ちになった。ついつい答えてしまうけど、少し気をつけた方が良いのかもしれない。


「知識があることは良いことです。さて、話は戻りますが、帝国が最大領土になったのは約七百年前のことです。かつてギルザーレ大公国はドラスと呼ばれた地域で帝国の領土となっていました。帝国は南大陸でも順調に領土を増やしていましたが、それと同時にある問題を抱えることになりました。それは支配した国の反乱です。ある時、ドラスでも大規模な反乱が発生しました。しかし、その反乱は数日のうちに鎮圧されました。その鎮圧の指揮を取ったのが騎士としてドラスに派遣されていたギルザーレ伯爵です。ギルザーレ伯爵は鎮圧の功によって大公に任命されて、ギルザーレ大公国となったのです」

「じゃあ、今でもギルザーレ大公国とは仲が良いんですね?」

「その通りです。貴族の中には自分の子どもを留学させる者もいると聞きます。では、今日の勉強はこれくらいにしておきましょう。続きはまた後日ですね」

「はい、ありがとうございました」


 オスカー先生を見送ると、私は直ぐに自室へ戻った。今日の授業を忘れないようにノートへ書き写すためだ。

 ノートを開き、今日学んだ講義の内容を思い出しながら、丁寧にノートへ書き写す。

 オスカー先生から剣術だけではなく、色んな知識も学べると思う。

 もしかしたら、アンジェリーナ様を救うために何か役立つかもしれない。







 ――――――――――――――――――――


 いつも読んでいただきありがとうございます。

 下手くそな絵で申し訳ございませんが、イメージしやすいように地図を書いてみました。


 中央大陸 https://kakuyomu.jp/users/koneka/news/16817330649974803804


 南大陸 https://kakuyomu.jp/users/koneka/news/16817330649974866050



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