第64話 侯爵家の威光




青葉生い茂るタイ・クォーン公爵領の森林。


その森林に沿う様に敷設ふせつされた四車線幅の街道を......



ドドドドドドドドドドド!


ガラガラガラガラガラガラガラ!



六頭立ての箱馬車が、激しく激走している。


白地を基調とした格調高い意匠が、センス良く飾られた馬車なのだが、


想定外の激しい振動で、アチコチの装飾が吹き飛んでいる。


「シルフ・アロー!」


「クレイ・バレット!」


「火炎弾!」


馬車のルーフが広く開いており、上半身を出した若目の護衛三人が、得意な攻撃魔法をランダムに放つ。


ズシャ!


ギャウン!


ドゴンッ!


ギャ!


ボワン!


ギャワン!


それぞれの攻撃魔法が、背後から迫るグレート・ウルフの群れに届き、数体ずつ屠る。


が、迫るグレート・ウルフの群れは、ざっと百体以上は数えられ、数体ほふっても減る様子は見えない。


両目を紅く光らせ、全頭バーサーク化している。


殲滅かいめつさせない限り、止められないだろう。


「慌てるな!互いに休みながら、交互に放て!」


御者台で馬達にムチを振るう先輩護衛が、ドラ声で叫ぶ!


「「「はいっ!」」」


それからは連携しながら、馬車に近づいたグレート・ウルフをほふる。


グレート・ウルフは一体が子牛程はあり、一体でも数人がかりでほふらねばならない。


今は馬と馬車に無理をさせて、グレート・ウルフの瞬足と拮抗させているので、何とか対処できている。


が、馬が持たない。

じきに、潰れる。


後少しで、味方舞台が常駐する仮設砦には、たどり着く。


上手く砦に駆け込めれば、何とか......


同時にこれだけのグレート・ウルフを、味方陣営トレインしてしまう。


しかし、馬車内の要人ようじんを守るには、ほかに手が無い。


それに......


「ジェク!我も出るぞ!」


御者席に開く小窓から、その要人が叫んでくる。


「ダメです!守られてなさい!」



「クレイ・ウォール!」


ドカン!


ギャワン!


急に立ち上がった、競技ハードル程の土壁に、全速のグレート・ウルフがぶち当たる。



「我も、広範囲壊滅魔法こうはんいかいめつまほうを!」


「ダメです!貴女の『壊滅魔法かいめつまほう』の使い所は、今ではありません!温存しておきなさい!!」


「むぅ!」


我が使える主人、バーデン侯爵様の孫娘の一人。

要人であるリリアーナ・フォン・バーデンは、幼少の時『魔法素養』が確認された。


先日九歳の誕生日を迎えた今『四枚魔法使いフォー・ウィザード』として、頭角を表している。


が、戦略・戦術面での経験値が圧倒的に足りないので、ジェクの様な歴戦の騎士の指導の元に、魔法を運用している。


現在の危険な戦況で、極大魔法を放ちたいのはわかる。

戦力の頭数として数えられるのは、たすかる。


だが、まだ、手が無くなった訳では無い。


この際、カードの使い方を学んで貰うには、良い危機的状況だ。


(ふ。こんな極限でも『良い経験』かよ......我ながら、図太くなったモノだ......)



ドドドドドドドドドドド!


ガラガラガラガラガラガラガラ!



「火炎弾!」


ズドンッ!


大砲が着弾した様な爆発が起こり、数等が天高く舞う。


......が、すぐ後続の群れに飲まれて、追ってくる見た目は変わらない。



すぅっ


ジェクの顔に、影が刺す。


見上げると、天使!?......が......三人?


爆走する馬車の速度に合わせて、優雅に飛んでいる。


『こちら、タイ・クォーン教会衛兵隊所属。

第一天羽アマハ小隊。

即時そくじ合力ごうりき出来るが、

如何いかが?』


「......どの様に?」


『武器弾薬のみ、提供できる。

貴君きくんらの場合は、魔力供給かな?

戦い方は、御随意ごずいいに』


「助かる......御願おねがい致そう。で、どの様に?」


『聖光剣の勇者の御業みわざにて、こちらを渡す。

コレより魔力供給が成される。

ジェク殿も、指揮官として活用されたし』


馬車に居る全員に、水晶フラーレンが飛び、近付いて行く。

全員の左腕に、腕輪として装着される。


「お!?」

「まさか!?」

「ふぇえ!?」


(((魔力が回復した!?)))


「おう!?」


ジェクの視界に、マップが立ち上がり......青点の馬車と、

多数の赤点のグレート・ウルフの群れの位置関係が、一目で理解出来る。


「こ、このマップは、今現在状況を表すのか!?」

リリアーナも、一目で理解し、叫ぶ。


「キラド、セーチ、ワガンティ。それぞれの攻撃担当を決める!」


「「「はっ!」」」


「リリアーナ様」


「うむ!」


「この群れのボスを、仕留めて頂く」


マップに、一際大きい赤点が有る。

この赤点を中心に、群れが自在にこの馬車を追尾している。


少し、遠い。


「うむ!」


「三人は、周囲を各個撃破かくこげきは!」


「「「はっ!」」」


フシュルルルル!


ドドドドドドドドド!


ドン! ドン!ドン!ドン!ドン!


これまでの、彼女らの魔法の数倍の規模の魔法が、次々と群れに襲いかかる。


そんな強力魔法を放つ自分達に、自分自身が驚く。


一瞬、迎撃が止まってしまう。


ガウウウウウ!


一気に、馬車に迫る群れが、勢い付く。


「撃て!撃ち続けろ!魔力切れは無い!ガンガン撃て!」


「「「はっ!!!」」」


フシュルルルル!


ドドドドドドドドド!


ドン! ドン!ドン!ドン!ドン!


フシュルルルル!


ドドドドドドドドド!


ドン! ドン!ドン!ドン!ドン!


フシュルルルル!


ドドドドドドドドド!


ドン! ドン!ドン!ドン!ドン!



グレート・ウルフ達は、叫び声をあげる間もなく、みるみる刈り取られて行く。


「......!とらえた!」


リリアーナの認識ロックが、大きな赤点に止まる。


「......もう少し、引き付けましょう」


前衛のウルフが減るに合わせて、大きな赤点が近付く。


「リリアーナ様。七割の力で放って下さい」


「......なるほど、二発目への用心じゃな」


「はい。強すぎても弱すぎても『無駄』です」


「......このマップ......ステータスが分かるのじゃな」


リリアーナは、大きな赤点のステータスに合わせた、強さの魔力を込める。


「撃て!」


「撃つ!」


リリアーナの真上の空間から、リリアーナの体格程の光弾が現れ、後方に飛んで行く。


マップ上で、大きな赤点に向かって、同じ大きさの青点が飛んで行く。


赤点は急に動きを変えて、回避行動を取る。


「むぅー!逃がさん!」


リリアーナは、意識を赤点に集中する。


彼女の顔は、真っ赤に蒸気する。


チリチリ チリチリ


彼女の頭に小さな紫電が数本たち始め、その金髪が浮き上がり始める。


青点も赤点の動きに合わせて、方向を変える。


赤点は素早くジグザグに回避するが、滑らかな動きの青点に追いつかれ......


ドゴオオオオオン!


大爆発の大音量が、後方遠くから聞こえて来る。


「やったか!?」


「確認!」


大きな赤点は......まだ存在していた!......が、歩くぐらいな速度になっている。


「ステータスは......後二割......か」


「着弾の瞬間に、身体を捻ったのでしょう」


「群れが......引いて行きまぁす!」


「よーし!速度緩める!」


パカッ パカッ パカッ


ゴロゴロゴロゴロ


「一度止める!どう!どーう!」


カポカポ カポカポ


ゴロゴロゴロゴロ


ギィー


フシュー

フシュー

フシュー

フシュー

フシュー

フシュー


六頭立ての馬全頭の鼻息は凄まじく、全身に汗びっしょりかいていた。

選ばれ鍛え抜かれた軍馬達ではあるが、良くもまぁ、ここまで全力で駆け抜けてくれた。


「よし!全員で馬手入れをしよう。

リリアーナ様、皆のバケツに水を願います」


「「「はっ!」」」

「わかった!」


リリアーナは手際良く、馬車の下の荷物入れから出して来た空の木製バケツ六個を、

各馬の前に起き、それから順番に純水を作り出す。


水魔法は得意なので、冷えて美味い水を並々と、全てのバケツを満たす。


ブルル♪

ジャフジャフ

ゴクゴク


馬達は、嬉しそうに水をガブ飲みし始める。


ゴシゴシ ゴシゴシ

ゴシゴシ ゴシゴシ


リリアーナの配水の間にも、他は手分けして馬の汗をき取ってやる。


「ありがとうなぁ」

「助かったよ」

き終わったら、角砂糖をたんとあげよう♪」


リリアーナは今度は踏み台を出して来て、まだ汗をけていない馬を、あるだけの力でき始める。


「ありがとう」


ブルル♪


リリアーナの笑顔に、嬉しげに馬もこたえる。


侯爵令嬢こうしゃくれいじょうとは言え、手の足りない戦場で御荷物おにもつではならぬと、

リリアーナも馬の世話や自身の最小限の世話は、行える様に教育されている。


ふわり


馬車より数歩離れた所に、静かに三人の天使が舞い降りる。


いや。教会のファリス妖精王様の壁画の様な、乗馬服を着ている。

全て教会の基調色の白色に成っている。


カシュン


軽く金属が擦れ合う音がして、背中の羽が消える。


カシュン


揃いの白いヘルメットも、三人同時に消える。


「こんにちは。私はタイ・クォーン教会衛兵隊。

天羽小隊アマハしょうたいの、ケルゾと申します」


「デイツです」


「リーサです」


何と、最後の一人は女性であった。


リリアーナは、素早く騎士の礼を取る。


「御助力の程を、感謝する」


後の四名も馬の世話の途中だが、その場で騎士の礼を取る。


「......馬の世話に、今少し御時間が必要でしょう。

宜しければ、この群れのボスを運んで来ますが?」


「ジェク。如何いかがしようか?」


「ふむ」


少し考える。


「御貸し頂けたマップは、直ぐに御返しすべきだろうか?」


「いえ。『聖光剣の勇者』様より、『魔節』が終わるまでは、貸したままで良いと、下知を頂いております」


マップを見れば、大きな赤い点は止まっている。

ステータスも、ゼロ値に近い。


「では、群れリーダーは、こちらのリリアーナ様の魔法で仕留めた獲物。

馬の世話が終わりましたらお借りしたマップを頼りに、成果をこの目で確かめに参りたいと思います」


うけたまわりました。

......見事な戦ぶり、称えさせて頂きます」


「ありがとうございます。

また、御助力を感謝致します」


リリアーナが引き取って、返礼する。


「では、我らはこれにて」


カシャン


三人同時に、ヘルメットと天羽?が出て来る。


「お待ちを!この装備は、どう返却すれば?」

ジェクが問う。


「あぁ。役割を終えましたら、自然に消滅致します


「へぇ」


ワガンティは、素直に腕輪を見る。


「あ。どちらに御礼の連絡を?」


「腕輪に話しかけて下さいませ。疑問を全て回答してくれます」


「へぇー。そうなの?」


【はい。宜しくお願い致します】


「「「「「!?」」」」」


「へぇえぇ〜!凄いねぇキミ」


【ありがとうございます】


「では、また」


フワリ、と三人同時に浮かび上がる。


シュン! ドンッ!


急に速度が増し......ポツンとしか見えない高度まで上がると、

あっという間に音速突破し、タイ侯爵領方向の空の彼方に消えた。


「......なんだ......あの速度は!」


「ワイバーン所では無いな......待て!」


「はい?」


「タイ侯爵領まで、我らなら、どれだけ掛かる!?」


「あ!」


「......早馬で、一週間は......」


「......かの速さなら......数刻も掛からぬのではないか?」


「......ですな」


【御答えします。一分強です】


「うぇ!」


気がつけば、顔の左横に水晶フラーレンが、フワフワ浮いていた。


【『聖光剣の勇者』様は、『魔獣即応部隊が、即応で数日掛かったらダメでしょ』と、

ヤーディン大国内なら、数十秒で駆け付ける天羽小隊を編成されました】



リリアーナは、三人の天使が飛び去った空を、もう一度みあげる。


「なるほど。正しく『勇者の御業』の使われる......と」


ジェクを見る。


「この魔節は、何もかも違いすぎる......と、思う。

ジェクは、どう見る?」


「では。『聖光剣の勇者』様の御業で、人族が天使のごとき働きを得られると......


彼ら三人はこちらの人族ですな。


『侯爵家』は『助ける側でなければならぬ』を知っていた。

ちゃんと、建前を守ってくれた......


そして、三人とも『目』が据わっておりました。


......三人とも十代に見えました、が、あの『目』は、

何かとてつもない試練をくぐけてたような......印象を受けました。


若く見えようとも、油断ならぬ三人です。


『聖光剣の勇者』様の鍛錬とは、どんな物なのでしょうね。


ああ言う『目』をする戦士は、『死士しし』です。

息の根止まるまで、戦い抜くでしょう。


間違っても、戦ってはなりません」


「なるほど。『死士しし』か。初めて見れた」


リリアーナは、真剣な表情をする。


「......早急に手を打たねば『侯爵家である』と言えなくなる。


侯爵家の威光なぞ、過去の栄光になろう。


戻り次第、御爺様......いや侯爵様に報告するぞ」


「「「「御意」」」」


「さぁ、馬の世話が終わり次第、順番に向かおう」


「「「「は!」」」」


皆微笑みながら、まだあどけなさが残る見た目の侯爵令リリアーナ嬢を、頼もしそうに見る。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マンメイド・スーパーマン☆円鐘 猛は、断罪する。 円鐘 眺 @manmaru44

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ