第58話 自立勇者と紐付き勇者




ブリーフィング作戦会議を、始める」


正しく歴戦の傭兵たる風格の、壮年の男性が『作戦検討会議ブリーフィング』の開催を宣言する。


ガランと広い部屋に、一方向に椅子が多数並べられている。


周囲の窓は、カーテンがキッチリ閉められ、外からはうかがえない。


椅子にはそれぞれに、迷彩カモフラージュ?柄のツナギを着た、ふてぶてしい男たち......

いや、ふてぶてしい女性も混じっている。


全員の視線の先には、大きなホワイトボードが立てられ、ヤーディン大国全域の略図が貼られて居る。


どこぞの軍の、特殊部隊の作戦会議室ブリーフィング・ルームの様相だ。


「昨日タイ・クォーン教会に、新参勇者が召喚されたそうだ」


タイ公爵領の公都近郊の、教会敷地に、赤いピンが刺さって居る。


「へぇ」


「......『使える』のかな?」


「どうなんだろ、また『渡りギフト』素人じゃないの?」


「......また、『戦えるまで、修行』かい?」


歴戦の傭兵の風格を醸し出す男女達は、落ち着きながら苦笑いして意見を交わす。


「......喜べ、『有能過ぎる』勇者様の様だ」


「『有能過ぎる』?」


「召喚されて、即、御活躍したと?」


「そうだ。タイ公都教会でセルガ様が『聖光剣の勇者』様を召喚しょうかん直後、巨大魔神ギェンガーが神殿を襲撃した。


程なく龍神ニーグ様が参上されギェンガーと対峙された。

だが、ギェンガーのピッチ・フォークが教会建物に放たれ、ニーグ様は左腕で庇い......地に左腕を固定されてしまった。


そこに召喚されたばかりの『聖光剣の勇者』様が、即時に交代して、ギェンガーと奮戦され、最後にギェンガー自体を聖光剣の一撃で、ギェンガーを『焼き尽くした』そうだ」


「「「「「はい?」」」」」


「城砦都市壊滅級の、ギェンガーを?......一撃?」


「それだけじゃない」


壮年の男性は、レポ用紙を何度も読み返している


「......直後に空に『デモンズ・ゲート』も出現し、『魔族軍団』と『魔王の手』の出現も、確認された」



ガタガタ ガタガタ



傭兵達は思わず椅子を蹴り、一斉に立ち上がる。


壮年の傭兵は、右手ひらをあげ、皆を抑える。


「心配するな。既に......『聖光剣の勇者』様が『撃退済げきたいずみ』だ」


「「「「「はい?」」」」」


「まって、待って、その勇者様が......

『御一人』で?......撃退されたと言うの!?」



「事実だ。

『聖光剣の勇者』様はまず、万を数える『魔族軍団』に......万を越える『聖光の矢』を、打ち出し......

豪雨の如く魔族軍団に聖光の矢が降り注ぎ......『あっという間』に『万の魔族を壊滅』させたそうだ」



「「「「「......へ?......」」」」」


全員、棒立ちで絶句する。

信じられない。



「まだ『魔王の手』あるぞ......地上に居られた『聖光剣の勇者』様から、龍神ブレス?の如くの『まばゆい光線』が......え?九発?」


さすがに壮年の傭兵も、しばし絶句する。


「......とにかく九発の、龍神ブレスが地上から発せられ、『魔王の手』を、魔界に押し戻したそうだ......さらに?」


また、何度か読み返す。


「なにか強烈な『爆裂弾』を『デモンズ・ゲート』に放り込み、『ゲート』を無理矢理閉じ......

凄まじい爆発を、魔界側で起爆させたそうだ」


カチャ


掛けていたメガネを頭に乗せ、右手の指で自分の目を揉む。


「俺も今、詳しく読んだが......半信半疑だ」


誰も、答えない。


「だが、多方面の『耳目じもく』情報元から、ほぼ同じ項目の報告が来ている......

『聖光剣の勇者』様の『御業みわざ』は、全て事実と認識して良いだろう。凄まじい『戦闘証明コンバット・プルーフ』だ」


まだ、絶句している全員を見渡す。


「俺からの意見だが、しばらく『放置』が妥当と思う。『聖光剣の勇者』様の『情報収集』を優先しようと思う」


ガタガタ ガタガタ


ようやく落ち着いた傭兵達は、ゆっくり椅子を起こし直し、わざとゆっくり座る。


「賛成します」


「それが良い......どう言う『御方』なのか、確認してから、考えた方が良いと思います」


うんうん うんうん


全員が、同意する。


「......全て事実ならば『龍神ニーグ』様より『強い』のでは?」


「そうかもな......ん?」


壮年の傭兵は、レポ用紙の最後の方を、真剣に読み返す。


「どうされました?」


「マジか」


「え......まだ何か、すごい事が......」


「すごいな......ニーグ様が『聖光剣の勇者』様を......『我の夫』と、宣言したそうだ」


「「「「「!?」」」」」


「『夫』!?『あの、気難しい』ニーグ様が!?」


「まぁ、龍神ニーグ様も、『聖光剣の勇者』様に助けられたのよね」


「......つまり、『龍神ニーグ』様の系譜は、『聖光剣の勇者』様を、『親族あつかい』すると言うことか......」


「龍神と同格て......つまり、我々では『どうにも出来ない』って事ね」


「では......『静観一択』って事で」


うんうん うんうん


「でもさ、龍神ニーグ様が気に入られたって事は、『悪い人』では無いのかもよ」


「ふむ」


「情報収集は、するべきでしょう。それに寄っては『勇者同盟』を申し込んでも良いのでは?」


「そうだな。『日常の暮らしぶり』も、つぶさに観察させて頂こう。続報を待て」


壮年の傭兵は、承認する。


ぱらり


「おう!?」


壮年の傭兵は、最後のレポを見て、変な声をあげてしまう。


「?」

「どうされました?」

「まだ、何か?」


「『聖光剣の勇者』様は、タイクソ公爵の四肢を一本ずつ切り飛ばし、ワードマン第一守護天使様が順にヒールを掛け......最後にアソコを切り飛ばし、ヒールを掛けたそうだ」


「そりゃ、良かった♪......なんでまた?」


「『横取りしたセルガの肉を、楽しめば良いわ』と、タイクソ公爵が、のたまったそうだ」


「『聖光剣の勇者』様を、賛同さんどうする!」


「よくやった!」


「そうだ、そうだ!」


パチパチパチ パチパチパチ


全員の拍手で、ガランとした作戦室はにぎやかになった。




○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○




「ハナマサ長官が直々に、我ら『やみ』を御指名とは、珍しい」


「............」


青黒い顔色のハナマサ長官は、硬い無表情で、流石の『闇』の男も、不気味に感じる。


ゴトン


ハナマサ長官は、無造作にインゴットの様な白金貨を、無造作に机に置く。


「......」


『闇』の男はいぶかしむ。

いつものハナマサ長官なら、散々値切り、前金も1/3しか払わない吝嗇りんしょくな男だ。


それが『一括・前払い』なんて。


また『前払い』とは、引き受けたら『必ず仕留める』仕事を要求されるのが、『裏仕事』の強い慣例だ。


「......相手は?」


「......タイ教会の、新参勇者だ」


「......名は?」


「『新参勇者』を探せば......誰もが知っている」


「......」


危ない。


ハナマサ長官は、『新参勇者の必死』を怨念も如くおんねんのごとく念じている。


ガタン


『闇』の男は、白金貨を受け取らず、立ち上がる。


「......引き受けるかは、調べてからだ」


ギロリ


ハナマサ長官の、危ない目力が、凄まじい。


「引き受けねば、『闇』を潰す」


「......『ハナマサ長官』も、潰れるぞ!?」


「......」


彼の目力は、揺るぎが無い。

つまり、自ら死んでも良いと、腹をくくっていやがる。


『闇』の男は、渋々白金貨を持ち上げる。


「......とにかく、調べてからだ。少し待て」


「......」


ハナマサ長官は無言で、揺らぎなく『妥協だきょう』を許さない。


「ち」


『闇』の男は、仕方ないなと首を振りながら、退出してゆく。


残された男は、闇の一点を、強く見つめ続ける。





○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○




「『聖光の矢ホーリー・アロー』、だと?」


チェリコフは柔らかい布で、愛銃の銃身を丁寧に磨いている。


「あぁ。かなりな距離を、『ホーミング』した様だ」


ジェームスはスポッター・スコープに、細い精密ドライバーを当て、何か微調整している。


「サジタリウスも、出たそうだ」


事務方っポイ男が、レポ用紙を読む。


「ファザン、か」

チェリコフは、右眉を少し上げる。


「サジタリウスで、『相打ち』だそうだ」

事務方は、軽く頷く。


「だが、『聖光剣の勇者』様は、もう復活して......

早朝からの聖騎士大隊の討伐に、着いて行ったそうだ......うぇ、八体の大型蜘蛛型魔獣を、ワードマン様と倒したそうだ......ファザンは、まだ寝込んで居るな」


「すごいな......謁見えっけんして見たいな」

チェリコフは、まだ見ぬ『聖光剣の勇者』を思う。


「んで?バーデン侯爵が、何を騒いで居るんだ?」

ジェームスは、事務方に目を上げる。


「『王位簒奪さんだつの懸念』だとよ」


「へ?いまさら?......まあ、『聖光剣の勇者』様の実力なら『権利』は、あるだろ」


「自分以外に簒奪さんだつされる可能性が、嫌なんだろ?

だが、『触らぬ勇者にたたりりなし』だと思うが......」


「仕方ないだろう。スポンサーバーデン侯爵が騒いで居るんだ

......様子だけでも見て来てくれないか」


「オレは、いいぞ」

チェリコフは、気軽にこたえる。


「......相方の希望には、応えなきゃならんだろ......」

ジェームスは、渋々同意する。




○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○




「決死の『ハナマサ長官』になるなんて、何があったの?」


「......『無言』を貫いて、何も言わん。

まぁ『聖光剣の勇者』様がらみだろう......

タイ公都に寄って来たが、『聖光剣の勇者』様『八面六臂』の大活躍で持ち切りだ。

顔なじみの『噂雀うわさすずめ』とも飲んだが......

なんでも、セルガ様の捕縛も『奴隷の首輪』を一閃いっせんされて、失敗したんだと」


「うわ。『弱いクセに、強い立場でゴリ押しパワーハラスメント』ドS野郎のプライドを、

『聖光剣の勇者』様が粉々に砕いたのね」


「そんな事にプライド出すなら、自分で殺れよ。逆恨みには、付き合えん」


「うーん、困ったな。ドS長官も、本気だし......『闇』の弱みも、かなりつかんでやがるし......」


「『相手聖光剣の勇者の力量』を見えなく成っている馬鹿長官は、もう『切る』事も上に相談しなきゃね」


「まったくだ。ドS長官なりに、いじめる対象の弱点を責める塩梅は、職人級だったのに......」


その場の全員が、苦い表情で頷く。




○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○




「バーデン侯爵様」


「どうした?」


「『聖光剣の勇者』様の偉業をたたえる準備を、セムカ王は下知されたそうです」


「ち」


「......」


「......ドールの調整具合は、どうか?」


「『今少し』との事」


「うむ。完了次第知らせよ。で......」


「現在は、タイ教会神殿内に居られる様です」


「うむ。目を離すな」


「御意」


「『鷹の目イーグル・アイ勇者』達は?」


「準備を始めたそうです」


「よし......」




○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○





「なるほど。自立勇者と紐付きスポンサー勇者では、動きが異なるのですね」

猛は、つぶやく。


脳内COPを、三人で俯瞰ふかんしている。

早速各地の、活動を始めた勇者達の動向が、見て取れる。


「フン。身の程知らずが」


「バーデンは『立場侯爵』が、現実を見えなくしているのでしょう」

ワードマンは、やれやれと肩をすくめる。


「......統率には『見せしめ粛清』が必要ですね」

猛は、平穏な口調で、恐ろしい言葉をポロリと吐く。


ニーグとワードマンは、思わず猛を見る。


猛は、バーデン侯爵の経歴パーソナル・ヒストリーを立ち上げる。

思わず、眉をひそめる。


「バーデン侯爵は、王族でございとしても『悪辣あくらつ』過ぎます。

ここまで思い上がって腐り切った果実は、早急に取り除きます。

見せしめとして、粛清首斬りした方が効果的でしょう」


「そ、そうじゃの」


「どうしました?」


「いや、御主らしく無いかな?と」


「時間がありません。こちらの作法に合わせます」


猛は無表情で、断言する。


タケシは

バーデンのような男は

大嫌いじゃな


ニーグとワードマンは、目だけで会話する。







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