第57話 またまた、無茶苦茶




「よし。ホイロード村に、もう少しだ。戦術神官せんじゅつしんかんは、索敵さくてきを開始してくれ」


指揮官のバクスターは、発令する。


「「「はい!」」」


三人程の女性戦術神官が、祈りに入る。


そのまま、長閑のどかな『耕作地』の道を、やや早足で進む。


共通作戦状況図COP』を見る限り、魔獣達の動きは無い。


これまでの討伐とうばつを体験するために、あえて口出しをしない。


「二時方向の森の奥に、いくつかの魔獣が居ます......寝ている様です」

戦術神官のリルが、答える。


「数はどうかな?」



うん。八匹はちひき?......たい?......居るね。



「もう少し近づかないと......」


「......よし。リル班とキーラ班で三人づつ左右に分かれて、二点観測にてんかんそくしてくれ。

二班分隊と五班分隊は、それぞれの護衛ごえいに付いてくれ」


「「「「は!」」」」


パカッ パカッ パカッ パカッ


速やかに二手に分かれて、森の外周を左右に分かれて行く。


ピコン


む?


COPシー・オー・ピー』で認識する魔獣達に、動きが出た。


なに切っ掛けで、動き出した?


(......戦術神官さんたちの『索敵魔法さくてきまほい』のデータを、重ねてくれ)

(アイサ)


リル班とキーラ班を中心に、一キロ程の真円が、二つ現れる。

二班が移動と共に二つの真円は、離れて行く。


(そうか。こちらの索敵魔法さくてきまほうは、アクティブ魔力照射・レーダーなんだ。

魔獣たちは、飛んで来る索敵照射魔力さくてきしょうしゃまりょくに気が付いたのか)


ちなみに『千里眼せんりがん』は、

パッシブ(敵が発する音・熱・静電気・電磁波などの『すべての自然発生情報しぜんはっせいじょうほう』を受ける)探知なので、

ステルス作戦に向いている。


さらに索敵対象のシルバー・コードバック・ドア(裏口)からの、ひそかな森羅万象検索エブリシング・サーチ情報も、重なる。


索敵対象に完全に気が付かれずに、はるか遠方から索敵対象を『丸裸まるはだか』に出来てしまう。


『千里眼』も 『COPシー・オー・ピー』もフル稼働しているのだが、

魔素も魔力も全く動いて居ないので、これだけ魔法使いが居るのに、完全に気付かれない。



ピコン ピコン


魔獣たちのアイコンが、急速に動き出す。



おっと魔獣たちは、より近いリル班に向かい、移動を始めたか。


『ベルター。ハルバードを、もう一度貸してくれるかな?』


「は? あ♪ どうぞ!どうぞ」


ベルターは『新たな形でも、見せてくれるのかな?』と表情で、ハルバードを渡して来る。


『ありがとう』


右手にハルバードを持ちながら、『COPシー・オー・ピー』に、少し集中する。


パカッ パカッ パカッ パカッ


「! 十時から、魔獣接近!」リル、がさけぶ!


二班分隊が、十時方向に厚くリル達をかこむ。


バキバキバキ


十時方向の森の奥から、木がなぎたおされる大音量だいおんりょうが起こる。


「! 蜘蛛型! 巨大! 八体! 二時に退避たいひ!」


バキバキバキ ドッ、バアアアアァン!!!


突然、天高くそびえ立った土津波つちつなみの、大量の土砂や樹木まじり、

かなり巨大な蜘蛛型魔獣くもがたまじゅうの、長い前脚が鈍く光る。


二時方向に退避し始めた二班の最後尾さいこうびにいた、一騎の聖騎士は......


間に合わない......


われ......


ブン


ドッ、ゴオォン!


グシャッ!


凄まじく、勢いのある『何か』が突っ込んで来て、先頭の蜘蛛型魔獣の巨体を、一撃でバラバラにき飛ばす。


猛が、片手でブン投げた、ベルターのハルバードだ。


ハルバードが、大きな丸ノコギリのごとく凄まじく回転しながら激突し、バラバラに切り刻んだ。


ベルターは、自分のハルバードの『威力いりょく』に驚いている。


バクスター指揮官!』


「あ、えと、た、退避援護たいひえんごせよ!」


ボウン!


ビシュ!


ドヒュ! ドヒュドヒュ!


森から出て来た残り七体の蜘蛛型魔獣に、聖騎士本陣から、

火や水の戦術せんじゅつ魔法弾まほうだんやボウガンの矢を、次々と飛ばす。


二班は全員、完全に安全圏に退避出来た。


だが


七体の蜘蛛型魔獣は、一体を葬られて、八つの目が赤く輝いている。


「我々も、六時に退避!」


パカパカ パカパカ パカパカ パカパカ


二班を置いてきぼりにしない距離きょりで、撤退てったいを始める。


ドドドドドドドドドドドドドドドド


蜘蛛型魔獣達は、すさまじいスピードで向かって来る。


かなり怒っている。


これは、バーサーカー狂戦士化している!


ドドドドドドドドドドドドドドドド


更には昨夜、五十人の衛兵隊でやっと、一体ほうむれたのだ。


......逃げられらた、おんの字だ。


ドドドドドドドドドドドドドドドド


『良い判断だ!』


「後は、まかせよ」


え?


『聖光剣の勇者』様と、第一守護天使ワードマン様?


あ、ふろーとばいく? が、無い。


なにしてるの?


なに普通に、地面に突っ立って居るの?


ドドドドドドドドドドドドドドドド


魔獣の大津波が、目の前に来てるよ!


『ベルター、返して置くよ』


いつの間にか自分のハルバードが、ける愛馬と共に右側を飛んでいる。


「はい!」


大声を出して、ハルバードを右手でつかむ。


生きた魔獣をバラバラに切り刻んだ青黒あおぐろ鮮血せんけつで、ハルバード全体が、びっしりよごれている。


ベルターの篭手ガントレットにも、その鮮血が付いた。


生きた魔獣をいた鮮血は、洗浄せんじょうでは完全にちない。


切り裂いた鮮血しか、あとは残らないのだが、

鮮血が付いたと分かる様に、にぶくくすんだあとながく残る。


大概たいがいはどんなに奮戦ふんさんしても、ハルバード先端せんたん戦斧せんぷにしか鮮血せんけつあとは、かない。


ハルバード全体に残る鮮血の跡は『聖光剣の勇者様が、丸ノコギリの様にるったハルバード』の、証明だ。


更に魔獣の鮮血が付いたベルターの篭手バンプレストは、勇者と共闘した証だ。


なのでこのハルバード全体に付いた鮮血の跡は、このハルバードでの、生きた魔獣との奮戦ふんせんあかしとなり、

ゲルスタイト家の系譜に、代々かたがれるのだ。


凄まじい『プレミアム』が付いた。


もし価値かちを付けるならば、城一つは超えるだろう。


スチャ


馬のくらの『ハルバード掛け』に、しっかり収める。


(私は絶対に売りはしない! 使いこなして見せる!!)



ドドドドドドドドドドドドドドドド



『行きます』


ワードマンさんに声を掛ける。


「はい」


ドン!


す猛は一瞬いっしゅんで、ベイパー・コーンにつつまれる。


ドッ、ゴーン!!


魔獣津波つなみのど真ん中に、激突げきとつ大音量だいおんりょうと共に、大穴がポっかりく。


七体ななたい密集体制みっしゅうたいせいになっていた蜘蛛型魔獣達くもがたまじゅうたちは、受けたすさまじい衝撃波しょうげきはに、

ストライクを取られたボーリングのピンの様に扇状おうぎじょうたかぶ。


吹き飛ばされた蜘蛛型大型魔獣達は、その八本の長い脚を全開にして、天高く舞う。


八本の脚は何も無い中空ちゅうくうで、どこかに足掛かりが無いか、無意識にジタバタ動かしている。


自分達の魔獣トレインの大津波のはずが、それ以上のパワーで、吹き飛ばされてしまったのだ。


ドッ、ドサドサドサ!


地面に叩きつけられた魔獣たちは、しばし動けない。


自分達が圧倒的あっとうてき有利ゆうり確信かくしんしていたので、あまりにも驚き、目が七体とも青白あおじろくなっている。


だが、なんとか反撃しようと、めいめい動き出す。


ズバン!


ワードマンさん目前の蜘蛛型大型魔獣が、綺麗きれいに左右に分かれて行く。


ワードマンさんの愛剣よる斬撃ざんげきの、真っ向唐竹割まっこうからたけわりだ。


流石さすがは、第一守護天使。


(ワードマンさん)

(はい、なんでしょう?)

(一体、残します。ちと、調べたいので)

(かしこまりました。そちらの一際ひときわ大きいのにしますか)

(わかりました)


雷撃らいげき


バリバリバリバリ!


振るう漆黒六尺棒から、爆光と爆音と共に、稲妻いなずまが放たれる。


先程の、ヴォーグ神からの吸収していた雷撃だ。


だから、すさまじい。


目の前にいた一番大きい個体が、直撃した雷撃で『ビクン!』と一瞬で、活動停止におちいる。



(さて。失神しただけだから、異空間に収納して、そしてその空間ごと無限収納インベントリに収納しよう)

(アイサ)

(これで蜘蛛さんの『観察日記かんさつにっき』が、できるな♪)

(......夏休みの宿題では、無いのですが......)



動かなくなった目の前の、一番大きい個体は、消える。



「「「「「「あの、大型魔獣を、 収納が出来るの?! 無限収納インベントリ!?」」」」」」



第三聖騎士せいきし部隊は、全員無事に集合出来た。


絶対強者の二人がこす巨大竜巻トルネードごとくな、はげしい『戦闘区域』から離れて止まり、

そのまま、安全圏の遠目から観戦体制かんせんたいせいに入ったが......


広い視野で、俯瞰ふかんで観戦出来たら、二人の戦闘力の凄まじさが、余計よけいに良く分かる。



ズバン!


またワードマン様が近づいた大型魔獣が、一刀いっとうで綺麗に左右に分かれて行く。



第一守護天使ワードマン様の絶対強者ぜったいきょうしゃぶりは、相変わらずなんだけど......



ドゴン!



漆黒の八角六尺棒が、振るわれる。



ワードマン様が一とすると......勇者様は三倍、倒されてるわね......


ブォン


ドッ、ゴーン!


ズゴーーン!


『聖光剣の勇者』様の、あの八面六臂はちめんろっぴな戦闘力て、何よ。


ドグワッ、ギーン!


普通の人族の、大きさなのに......


あんな巨大な蜘蛛型魔獣たちを、一方的に赤子あかごあつかいじゃない!


「......『勇者様の御業みわざ』とは言え、無茶苦茶むちゃくちゃだは......」


リルは......常識じょうしきくつがえされつつある目前もくぜん事態じたいに、頭痛ずつうがとてもいたくなって来た。


ズドンッ!


漆黒の六尺棒は、最後の蜘蛛型魔獣の中枢ちゅうすうを、一撃いちげきたたつぶす。


「「「「「「「あはは、あはははは......」」」」」」」


全員があきぎて、ヘラヘラ笑いしか、出て来ない......


聖騎士と、戦術神官達は......絶対強者達の『別次元の戦い』に、一歩も、身動きが出来なかった。


助太刀なんて、とんでもない。

足でまといに成るのが、良くわかる。

もう、ただ、見ているだけしか無かった。


無茶苦茶むちゃくちゃだぁ......




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