第49話 根回し
「あはは。冗談では無いんだ。今から寝ることも『勇者への準備』と、なるんだ」
馬のズッコケって、頭が
思わぬ事実に、苦笑しながら説明を始める。
「君たちの身体の中に、精霊の素が入った。
そして身体の中で精霊は、早い勢いで増えてゆく」
すこし
「君たちの身体からすれば『
身体としては、『敵だ!』と
『副反応』と言う強い発熱も、出るだろう。
強く発熱すれば、君たちはどうなる?」
「......動けなくなる......の?」
「そうよね。全身が気だるくなるは」
「これまで『
へぇ〜
「だから、精霊の素を摂取したら『副反応で動けなくなるのだから、寝てしまえ』と言う
眠ったら、君は『夢』を見る。
その夢で、君専属の精霊と出会うだろう」
へぇー
「
そして『君たちの精霊』が会いに来てくれる。
そこから『見習い勇者』の修行が始まる」
皆に、真剣さが出る。
馬達も、静かに聴いている。
「『精霊』から、勇者の
修行と言うか『受け身の座学』だな。
だから『修行』と気負わずに、気楽にしてくれ。
寝ている間に新参の精霊と、君の身体との『慣らし』が行われる。
慣らしの完了までは、どうしても個人差が出る。
24時間〜48時間は、かかる。
だが、慣らしが終われば皆『勇者』たる身体になれる。
なので、安心して
今からしっかり寝る事が、君らの
タムとカムランは、目を交わし苦笑する。
「
「うぇ、それをいうなよ」
毎朝の朝礼に間に合えているのは、タムのお陰だ。
「ま、これからは
俺はやっと、
......しみじみと、微笑む。
「......ふん」
まぁカムランは、無意識にタムに甘えていたのだろう。
少し寂しそうに、
「では、後方の
あぁ、新たな戦闘服のまま、中のベッドに横になってくれ。
愛馬はその横に立つか、
服は自己修復するから『シワやヨレや汚れ』は付かない。
気になる者は『寝間着』と念じれば、転送換装される」
へーーー!
「『勇者の
おいおい、慣れてくれ。
では、解散!おやすみ!」
「じゃあなー」
「おやすみー」
「御前のデカいイビキで、馬に
「うるさい!御前こそ、寝相悪くて寝床から落ちるなよ!」
なんだが修学旅行の、宿の『
ブルル
ブルル
馬達も、互いに挨拶?しながら、自分の主について行く。
「あら♪新品の木の香り♪そして
ブルル♪
「じゃぁ、試して見ようかな......寝間着!」
ふわり
「わァ〜、
肌触りも優しくて、コレならグッスリ眠れそうだ。
気が付けばハーパンも、キャパリソン(馬用コート)が無くなり、裸馬となっていた。
ブルル♪
身が軽くなり、嬉しそうだ。
そして、愛しい
嬉しげに、主に鼻面を軽く押し付ける。
「私も貴方と寝れて、嬉しいは♪」
優しくハーパンの頬を撫でる。
「さて、じゃぁ寝ましょう!
ブルル
ハーパンは素直に、草の香りが真新しい寝草に、ゆっくり伏せる。
さくり
ちょうどよく乾燥された寝草は、馬にとって、羽根布団の様に寝心地が良い。
プゥ〜
ハーパンは、あっという間寝落ちする。
(はやっ!Σ(゚д゚lll)。
まぁ、そうよね。この三日間の激闘を考えれば......)
私も寝よう。
手触り良い、掛け毛布に潜り込む
うわぁー、寝心地いい......
ぐぅー
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
「さて、
なので、ちょっとヤボ用を片付けてきます」
「行きましょう」
ワードマンさんが、立ち上がる。
「いえ。先ずは私一人が、良いと思います」
「なんじゃ?セルガに『夜這い』か?」
「いいえ(苦笑)......タキタル隊長にです」
「......御主......
「そこまで
「タキタル隊長?......あ」
セルガさんが、思い出す。
「はい。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
「タキタル隊長。タイ公爵並びに、ハナマサ勇者管理局長への、魔法師の
そして王都衛兵隊は『半休シフト』に入りました」
ケイオ・リーグ曹長が、タキタルに与えられた
「ご苦労。......ケイオ、お前もゆっくり休め。今日はいろいろ『ありすぎ』た」
タキタルは彼に苦笑を向けながら、ねぎらう。
「ありがとうございます......まったくでした。えんりょ無く、休ませて頂きます」
ケイオも苦笑を返しながら、退出して行く。
「......さて、と」
ゴキゴキ
少し首を回すだけで、良い音を立てて鳴る。
三十路後半になってから、疲れが抜けにくくなって来ている。早めに寝なければ。
「......ふぅ」
特に今日は、『死』を現実に意識させられた。自分の
ぞくり
思い出すだけで、身体の芯に寒いモノが走る。
......寝よう。とりあえず寝よう。
こういう時は、短くとも深く眠り『寝逃げ』するに限る。
目のあいだを右手親指と人差し指でもみながら、寝室への一歩をふみ出す。
「疲れている所を、申し訳ありません。少し
誰もいなかったはずの背後の応接ソファーから、のんびりした男性の声がかかる。
シャキン
タキタルは無意識に腰の大剣を一息で抜き放ち、右手一本の豪腕にまかせて声の方向へ振りかぶる。
ソファーには、左眼にモノクルを装着している黒髪黒目の男性が、くつろいだ様子で座っていた。
タキタルの振りかぶる大剣は、男の頭を確実にカチ割るコースに進む。
しかし男はタキタルの動きを、まるで他人事の様に微笑みながら、静かにながめている。
「ぬぅ!」
タキタルは素早く左手も剣の柄をつかみ、両手の渾身の力で柄を
紙一重で男の頭の真上で、大剣はピタリと止まる。
タキタルはそのまま、男を見つめる。
何事も無かった様に微笑む男の右目は、静かに彼を見返す
ふう
シャキン
タキタルは一息ついて、大剣を鞘に戻す。
「......それで、
「はい。セムカ・ヤーディン国王を、御紹介頂きたくて」
けろりと話された『大ごと』な要請に、タキタルの奥二重な細い目は驚きに見開く。
「......なぜ、私に?」
「あなたは、『
セルガさんと同様に、庶民を救い現状を打開しようと『現実を
もちろんセムカ王にも、強く
......が、国王は、いろんな王室への
実力者同士、互いに
そしてあなたは、その『あえて
『聖光剣の勇者』は、
「......」
タキタルの眉は、目の前の男の並べられた言葉に、ピクリと動く。
指摘された点は、まぎれもない事実だからだ。
「その上で、わたしには、タキタル隊長......およびセムカ王に『事態の
「......何故、王に御目通りをされたいのですかな?」
「この国のトップと握手しておいた方が、大ごとをたくらむのに、なにかと話が早いからです」
「......」
たしかに。
......なるほど、王へ面談したいなら、我がたしかに最短距離だ。
しかし昼間に剣を向けられた相手に、その夜のうちに気軽に
タキタルは改めて『聖光剣の勇者』を分析しようと、彼に分析力と認識力を集中する。
彼は、絶対強者まかせの力押しだけではない。
ふむ。状況判断は的確。相手の長所と弱点を一目で見抜く戦略眼も申し分ない。
作戦開始タイミングの見切りも的確で、行動力もありすぎる。
......そう言えば、どうやってここに侵入した?
タキタルは眼の前の話しやすい雰囲気の男は、これまでの様な『平民出身で、戦闘の素人勇者』では無く、
あきらかに軍属で鍛えられた、底の知れない戦術・戦略のプロフェッショナルであると確信する。
タキタルは静かに、男の
何も、迷いがない目だ。しかし、大ばくちを打てる
「......」
「......あぁ、今更ですが、『聖光剣の勇者』事、
タキタル隊長、宜しく御願い致します」
「タケシ殿......ならばあなたが、ヤーディン王朝を
「......私が直接、庶民の生き死にに口を出せと? それは非常に『めんどうくさい』ですね。
またそれでは、まわりまわって庶民のためにはなりません」
巨大魔人ギェンガーを一撃で葬り去る男が、
王位を『めんどうくさい』と価値無いモノと切り捨てるだと?
タキタルは、少し、タケシに興味が湧いてくる。
「......あなたは、あなたの世界では、どう言う生き様を?」
「
「へいわ......いじ?」
「はい。平和を維持するため、いさかう同士の間に、
中立の絶対強者として立ちはだかり、両者を取り持つ
えーと......『聖光剣の勇者』の強大な戦力を背景にします。
国同士の停戦交渉から、内紛内乱の沈静化......その後の国内総生産の復旧を助けます。
最終的には、世界政府の樹立交渉を行いました」
「......平和......交渉......話し合い、ですか?」
「はい。『
紛争がぼっ発しますと、罪のない庶民にシャレにならない被害が出ますので」
「えと......格付けは、どのように?」
「格付け?あぁ。こちらでは、マウンティングが大事なのでしたね。
私の世界では、建前上は、平等・公平感が大事なので、行いません」
「ふぅむ......文化の違いですな......では『聖光剣の勇者』殿が、我やセムカ王にされる提案とは?」
「私『聖光剣の勇者』が、ヤーディン大国の勇者達を
セムカ王に『魔族連合に対抗する、勇者連合』をお渡しします。短期間で」
「......」
タキタルの思考は、しばし止まる。
......なるほど。巨大魔人ギェンガーを一撃した『聖光剣の勇者』の実力ならば......イケるか。
彼はもう一度、『聖光剣の勇者』を見る。
「......うけたまわりましょう。セムカ王の元へ、御案内致します」
「ありがとうございます。ニーグ様の言われた通り、信念の通った武人ですね」
タキタルはギクリと、違う恐怖を覚える。
「......ニーグ様は......他に何か......」
「あ......えーと」
『聖光剣の勇者』は、思っ切り右目を泳がせる。
「......結構です」
ニーグ様は『タキ坊』と、絶対言ったよね。
「あははは、では......」
猛は気まずい苦笑のままで、慌てて腰をあげる。
「明日の正午、今度は公爵亭の正門から、お
おやすみなさい」
『聖光剣の勇者』の姿が、みるみる光の粒子と消えて行く。
タキタルは、ポツンと後に残される。
「......寝よう」
彼は目の前の出来事と、ニーグ様が何を......に付いての思考をおもいきり投げ捨て、再度寝室に向けて歩き出す。
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