第44話 戦場音楽


ブォン


魔剣ドゴーからは、悪魔素デビル・マナを示す深紫ディープパープル色の輝きがし、銀色男へ斬りかかる。


ドッ、グワッシャン!


魔剣ドゴーの強い魔力と、銀色新参勇者が振るう六尺棒の凄まじい質量が、真っ向から激突する。


ブォン! ズシン!


強大な悪魔力デビル・マナと、凄まじい質量の『初の激突』は、激突点からの爆風と強い衝撃波で、周囲の大気を強く吹き飛ばす。



「ひゃぁ!......あ!あの、漆黒の六尺棒は!」

「うわ!......え? 新参勇者さま!?」

「きゃぁぁぁ!」



「む!」

「ぐ......こんなに!?」

「魔剣ドゴーに、打ち負けないだと!」



教会側、魔族崇拝結社デモナー側の双方が、吹き飛ばされそうになる。


(ぬぅ!?)


ファザンが魔族崇拝結社デモナーに組して以来、初めて経験する、凄まじく重い打撃だ!


シッカリ握り直さないと、愛剣を持って行かれてしまう。


なんなんだ? 銀色野郎の六尺棒えものの凄まじい硬さと、クソおも重量じゅうりょうは!


一合で、面頬フェイスシールドの下でファザンの表情は、焦燥しょうそうゆがむ。


フォン


重い質量のはずなのに、銀色野郎の手の中で、漆黒の六尺棒は軽やかに舞う。


ガキン

シュオン


八角の一面を、ドゴーの峰にピタリと当て、凄まじい斬撃さえもキレイにそらされる。


上手い。


ちくしょう! 銀色野郎の剣技が、俺より数段上だ!


ピキィィン

ガイーン!


魔剣ドゴーもファザンの見事な剣技で、落ちる木の葉の様な、六尺棒の変則的な動きに着いて行く。


グヮギーン!


六尺棒の最上段からの重い撃ち込みを、真っ向から受け止めてしまう。


「ぐぅっ」


ガシーン!


ちて大岩おおいわの様な、信じられない重量じゅうりょうを何とかいなして、打ち返す。


ダメだ! ドゴーの剣撃けんげきどころか悪魔力デビル・マナも、銀色野郎にダメージとして入らない!


はたから見たら、双方の得物武器から大音量だいおんりょう派手はで戦闘音楽せんとうおんがくかなで、双方の力量が拮抗きっこうしている大勝負おおしょうぶに見える。


しかしファザンからは、戦闘の余裕がジリジリらされてゆく。


銀色野郎は、俺の二手三手先読みしてやがる!

さらに一撃一撃が、凄まじく重い!

剣の芯に重い衝撃が、ズシンと染み込む。

剣を握る手にも、衝撃を喰らう。


確実に、後ろに下げられている!


クソう! あと何秒だ!


ピキィィン


しまった!


絶妙な巻き上げ技にファザンの右手は、魔剣ドゴーを離してしまう。


ブン


銀色男は、ファザンの頭に向かい、六尺棒を振り上げる。


ビュン!


キィン


六尺棒は、不意に背後から飛んで来た『矢』を落とす。


ハッ


ファザンは気合を発し、馬ごと横っ飛びし、まだ中空に浮かぶ愛剣ゴドーを掴む。


ブン


ファザンはそのまま、体制の崩れた銀色野郎の兜に、愛剣を叩き付ける。


ドゴン


凄まじい打撃と共に、凄まじい魔力も叩き付ける。


しかし大岩を紙のように斬る魔剣ドゴーでも、銀色勇者の兜を割れない。

むしろ。


みしり


ぐうう


あまりにも硬いものに斬りつけてしまった痛みを、右手首に感じる。


叩き付けた衝撃が、そのまま右手首に帰って来たのだ。


右手首の靭帯じんたいを痛め、いわゆる捻挫ねんざをし、痛みに握力が抜け、剣を保持出来なくなる。


銀色勇者は、打たれた時の体制のまま、その場で動きを止めている。


ファザンは咄嗟とっさに愛剣を左手に持ち替え、腰の動き一つで馬の体制を微修正し、再度斬りつけ......


シュン


え?


左手とは言えファザンは両手とも剣が使える。

が、愛剣ゴドーはスルリと巻き取られ、左手から抜ける。


ドン


え?


鳩尾に凄まじい衝撃が入り、後方に吹き飛ばされながらファザンの意識は、刈り取られる。


「転移」


女騎士団長の、落ち着いた発令が響く。


宙を舞うファザンと、愛剣ゴドーと、主の重さが消えて戸惑とまどう愛馬カテドラルは、深紫ディープパープル転移てんいの輝きに包まれる。


ファサッ


深紫ディープパープル騎士団は転移の先に消え、その場には六尺棒を斜め上前方に突き出した、銀色勇者だけが、残心を取っていた。



「タケシ殿」


上空で、見事みごと棒術ぼうじゅつに見惚れていたワードマンは、猛の側に着地する。


ヒュン


「うわ」


銀色の面頬フェイスシールド下で、焦点の定まらない目をしたたけしが振るう六尺棒が、ワードマンの顔面を狙う。


過去に鍛えた体捌きで、スルリと避ける。


ヒュン


シュオン


側から見て、そんなに早くは感じないのだが、ワードマンへ振るわれる一振り一振りの破壊力は、凄まじい。


しかし殺気は感じられない。


もしかして、先程のファザンの打撃で、『気絶』しているのでは?

本能で、六尺棒を振るって居られるのでは?


「タケシ殿!」

(タケシ殿!)


ワードマンは、音声でもそうだが、念話でも語りかけて見る。


(ワードマン守護天使様)

(おう? ハヤブサ殿か。タケシ殿は、意識を失われたか?)

(ハヤブサ、と呼び捨てでどうゾ。御明察ごめいさつでス。ファザンと呼ばれた敵の剣の打撃ニ、意識を奪われましタ)


(ファザン? え?当代王家・第七王子の名のはずだが?)


ヒュン


半分意識の無いたけしは、本能のままに六尺棒を振るう。



(よし、第七王子かどうかは、後でいい! ハヤブサ!彼は大丈夫なのか!?)

(はイ。一時的いちじてき脳震盪のうしんとうです。マスターの記憶データ・ベースガ、混乱して居りまス)

(記憶、でーたべーす?...... 混乱 ...... そうか。確かに戦闘の打撃で、記憶の混乱はありうる)


ヒュオン


ワードマンは猛の鋭い攻撃を、紙一重で避けながら、ハヤブサと相談する。


(ふむ。対処法は?)


数秒後すうびょうご、マスター『活動強制停止シークエンス』を発動させまス。

ワードマン様には停止後の保護を願いまス)


(承った! まかせよ)


ブォン


「む?」


急にたけしは、動きを止める。

聖湖へ振り返り、しばし上空を眺める。



◯ ◯ ◯



ブゥォン


暗く広い空間の、黒光りする床に、野球の内野程の深紫ディープパープル色魔法陣が出現する。


すぐ、深紫ディープパープル騎士団が出現する。


同時に、中空に浮かぶファザンと魔剣ドゴーも出現する。


ドサドサッ

ガラン


ズサー


ファザンと魔剣ドゴーは、銀色勇者に打ち飛ばされた勢いのままに、広い部屋のすみまですべって行く。


ブルル!


愛馬カテドラルが、ファザンにすぐにり、彼の面頬フェイスシールドを、鼻面でやさしくく。


「カテドラル。任せて、介抱かいほうするは」


その部屋で待機していた数名の黒いフードの人物の一人が慌ててファザンに駆け寄り、

柔らかな女性の声で、カテドラルに話しかける。


他の黒いフード達も、自分担当の騎士の馬に取り付き、世話をし出す。


ブルル!


カテドラルは素直に一歩ずれ、場所を明け渡す。しかし心配そうな瞳は、主人の顔をうかがうままだ。


黒いフードの人物は、左手をファザン甲冑の鳩尾にかざす。


左手と鳩尾の間に、小さな深紫ディープパープル色魔法陣が出現する。


解除オープン


パシュ!


ファザンの全身甲冑は、あちこちがパカリと開き、ファザンの肌がき出しに成る。


「ん?」


黒いフードの人物は、ファザンの鍛え上げられた生身の鳩尾に残る、浅黒い八角形のアザに気が付く。


(魔装仕様甲冑なのに、こんなに打撃が入るなんて......)


ファザンには言えないが、恐らくは『手加減てかげん』された。

銀色勇者様が本気であれば、ファザンには背中までの八角形の貫通穴が開いていた事だろう。


(......騎士団長に、こっそりお伝えせねば......)


黒いフードの人物は、再度ファザンの鳩尾に、小さな深紫ディープパープル色魔法陣をかざす。


(魔王様の祝福を!治癒ヒール!)


深紫ディープパープル色魔法陣は、強く輝く。


パシッ


すると、深紫ディープパープルの輝きに呼応して、八角形のアザは青白シャイニング・ブルーに光り出す。


(え!?)


ブワッ!


「きゃあ!」


八角形のアザから、青白シャイニング・ブルーの輝きが吹き出し、黒いフードの人物を吹き飛ばす。



◯ ◯ ◯




『...... 転移終了の最終敵性対象ファザンへ、ターゲット・ロック完了。

これより遠距離狙撃シークエンスを開始する』


猛の声ではあるのだが、合成音声の様にも聞こえる声で、シークエンスをよみあげる。



猛の頭上に、双刃そうばの聖光剣が現れる。


その切っ先は......ピタリと、王都に向いた。


キュイイイイイイイ


聖光剣は、うなり始め、細かく振動しんどうを始める。


それは、かつてないほど光子フォトンを集め、危険な程に光子魔素を、集約させてゆく。


すさまじく強く、光輝ひかりかがやきき出す。



◯ ◯ ◯


「えっ?」

「みやっ!?」

「?う?あるじー?」

【なに?】


セルガさんのかたわらで、雪花とシャナは一緒に寝転び、

チェピーや他精霊達は二人の背に乗り、これまたゴロゴロとくつろいでいた。


そこに突然、凄まじい強さの魔力波動が伝わって来た!


【むぅー。タケシ殿からか? なんでまたこんなに強力に、魔力を集める?】

ファリス精霊王が、怪訝けげんな顔をする。



◯ ◯ ◯



「え?」

「なに?」

「こわい!」

「なにこれ?」


王都や公都のあちこちで、魔力に敏感な者達が、『嫌な予感』にザワ付き出す。


ファザンが倒れて居る地点から、色んな生き物達が、一斉に遠ざかり始める。

生存本能からか、災害地から小動物達が、一斉いっせいに逃げ出す様に。




◯ ◯ ◯



キイイイイイイイイイイ


ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ



聖光剣の振動と、強い輝きがピークに達する。


がくり


ドサッ


ガラン


猛は急に倒れ、六尺棒は地面に転がる。


グイッ


聖光剣の切っ先は、急に真上を向く。


ドシュン!


ドォオオオオオオォン


龍神ニーグのブレスより、数倍すさまじい強さの破壊光線ブラスターが、真上に撃たれる。


ドドドドドド


シュオン


撃たれた後は、光子魔素は霧散し、聖光剣も、光の粒子にほどけてゆく。


(フウ。『活動強制停止シークエンス』が、間に合いました)

(......ハヤブサ。タケシ殿は、いったい何を?)

(気絶させられた、強敵ファザンを『完全壊滅かんぜんかいめつ』させる所でした......)

(......つまり、ファザンが逃げこんだ地点に、先程の魔力を撃ち込むつもりだったと?)

(はい。敵の転移ログと『共通作戦状況図COP』を重ねますと、王都中央の建物の地下の様です)

(......王都の街中に、『あの』魔素量が撃ち込まれる寸前だったのか!?)

(はい。ですので、私の判断で『強制停止』を行いました)


ぞっ


ワードマンの背筋に、寒気さむけが走る。


危なかった。


王都の街中に、巨大なクレーターの大穴が開くところだったのか。


なるほど、タケシ殿は『気を失う』事態も見越して、自動で反撃する手順を『組み込んで』いたのか。


同時に、従魔?であるハヤブサに、強制停止の権限を渡していたと......


しかし、武人として『タダでは負けぬ』タケシ殿の気概きがいは理解出来る。

気を失って居ても、ハヤブサの状況判断で『撃っても問題無い』とされれば、相手を壊滅かいめつ出来るのだし。


ううむ。


ワードマンは尚、タケシの用意周到よういしゅうとうさに感心・感服してしまう。





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