第43話 デモナー



ピピピピピピ


危険感知アラームが鳴る


猛の視線は、スっと『共通作戦状況図COP』に向く。


教会関係の集団を示す緑色アイコンの近くに、 悪魔素デビル・マナを表す深紫ディープ・パープルアイコンがまたたく。

つまり魔族系統まぞくけいとうが『転移』して来るアラートとして、鳴る。


「セルガさん! この緑色アイコンはどんな集団ですか?」


「え? あー、メルダ?」


『はいはい。えー、教会第三衛兵隊の、第四・六・八・十班分隊の四十名と、十五名の戦術神官せんじゅつしんかん分隊ですね。

先週からマヌーフ村より、『魔獣の巣』の討伐浄化とうばつじょうか以来が来て居ましたので、三日前から出陣して居りました』


保護ほごに行ってきます! 少数ですが強い魔力を感じる魔族系統まぞくけいとうが、分隊のすぐそばに転移して来ます!」


「よし」


「久方ぶりに、真剣を振るいましょう」


龍神ニーグとワードマンさんが、立ち上がる。


「いや、ニーグ様は左腕を欠損して居ますし。待機して下さい。ワードマンさんも、神殿を専守防衛するのでは?」


あなどられては困る。尻尾一本で、一軍を蹴散けちららした事もあるわ。また『我の男』の手助けをして、何が悪い?」


「現在の私はタケヨシ殿に使役される、ただの天使ですよ。タケヨシ殿の御手伝いを、させて頂くだけです」


「...... 分かりました。議論する時間がおしい。行きましょう。あ!ニーグ様はブレスは封印です! セルガさんはここで待機して下さい。戦闘終了次第、負傷者への対応を願います」


「...... 分かりました...... 御武運ごぶうんを」


「はい」



◯ ◯ ◯



キューン


神殿に接する聖湖せいこの岸辺に、野球の内野程の魔法陣が出現する。

その色は、深紫ディープパープルだ。

次の瞬間、深紫ディープパープルの甲冑に統一された十名の騎士団が、魔法陣の内側に現れる。


「......? 魔王様とギェンガー殿はどこだ?」


全身を深紫ディープパープルの甲冑に、その身を包む魔導騎士ファザンは、軍で戦闘種せんとうしゅとして掛け合わされた愛馬カテドラルの上で、あぶみに立ち上がり、周囲をうかがう。


「...... おかしいですね? 悪魔の門デモンズ・ゲートの座標情報は、ここの上空なのですが」


補佐役らしい年配の騎士も、左手に浮かんだ小さな魔法陣を見ながら空を見上げ、周囲を見渡す。


「...... 聖湖上空に浮かぶ、凄まじい魔力量を有する聖魔素ホーリー・マナの光塔は、なにか?」


「「え?」」


二人の上司の女騎士団長は馬ごと振り向いて居り、右手で聖湖上空を指差して居る。


深紫ディープパープル騎士団は、丁度聖湖に背を向けて居たので、その『聖光塔』に、すぐには気が付かなかった。


「アレは、瘴気を浄化して居る働きをしておる...... もしかして新参の勇者に、魔王様とギェンガー殿は、既に倒されてしまったやも知れぬ」


「まさか...... 」


悪魔の門デモンズ・ゲートの反応を探知してから、三刻をすこし過ぎたばかりですよ」


「おじちゃんたちも、えいへいたいさまなの?」


深紫ディープパープル騎士団の十名全員が、ぎょっと驚き、思いの外近くで聞こえた可愛い声の主の方へ振り向く。


馬上にある自分達の視線の遥か下に、ゴスロリ風の白いワンピースで着飾った、とても可愛い幼女が立って居た。


すこし首をかしげる姿も、ことさら可愛い。


全員、思わず苦笑してしまう。


全員が一騎当千の騎士達なのだが、こんな殺気のカケラもない無邪気な幼女なら、近付かれても気付けない。


なるほど、少し離れた背後に、結婚式が行われて居る聖湖教会が見える。


「そう。我々は『庶民を守る』騎士団である。お嬢ちゃん、ちょっと聞いても良いかな?」


「はい、どうじょ」


「聖湖の上に浮かぶ、あの綺麗な光の柱は初めて見るのだけど、何があったのかしら」


幼女はぱっと、弾ける笑顔を浮かべる。


「あのね!あのね!はじめりゅうじんしゃまがたしゅけにきてくだしゃたんだけど、つっごいおっきなまじんにまけちゃったの。でもしゅぐに『ひかりのけんのゆうしゃさま』の『ひかりのけん』が、つっごいおっきなまじんを、いちげきでけしちゃって、りゅうじんしゃまもたすけたの! そのあと、おそらから『まおうのて』がでてきゅて『まおうのぐんだん』が、いーっぱいとんできたんだけど、『ひかりのけんのゆうしゃさま』の『ひかりのや』も、いーっぱいとんできて、まおうのぐんだんをいっぴきのこらずたいじしちゃったの!」


深紫ディープパープル騎士団全員、幼女の話の内容に愕然がくぜんとする。


「...... お嬢ちゃん。その...... 『魔王の手』はどうなったかな?」


ファザンも優しい声音で、幼女に問う。


「えとね。そのときメネはきょうかいのなかにはいっちゃったから、みてないの。でも、おばあちゃまからのおはなしなんだけど、『ひかりのけんのゆうしゃさま』が『まおうをまかいにおいはらった』て。あの『ひかりのとう』も、『ひかりのけんのゆうしゃさま』がたててくじゃさったって」


幼女の舌ったらずの言い回しに、全員が微笑んでしまう。


「団長。出直しましょう」


同意セイムします」


全員がうなづく。


幼女の話は、事実と感じる。


『ひかりのけんのゆうしゃ』は、城塞都市壊滅クラスの巨大魔人ギェンガー様を一撃し、魔王様と魔王軍を押し返したのだ。


しかも、単独で。


前代未聞の戦闘力を有して居る。


いくら龍神を倒した事がある深紫ディープパープル騎士団でも、そんな勇者ならば、現在の準備・装備ではおもい。


もっと新参勇者の情報を集め、戦略戦術を考えねば。


十名全員が現実を見据える歴戦の騎士なので、一戦も交えずの撤退てったいも、ためらわない。


「我も同意セイムする。しばらくは探索方の魔族崇拝結社デモナーに、任せよう」


女騎士団長は、幼女メネを見る。


「メネ。ありがとう。貴女に(魔王小声)の加護が有りますように」


メネの左手首が、深紫ディープパープルに淡く光る。

メネの左手首に、可愛らしいブレスレットが出現する。


「わぁ♪ かわいい♪」


「メネ。それは『加護のブレス』よ。魔獣や魔族除けになるは」


「おねぇしゃま、ありがとう!...... あれぇ?」


「? どうしたの?」


「おねぇしゃま...... セルガしゃまにそっくりでちゅね?」

女騎士団長の笑顔が、急に引きつり固まる。


「で、では、行きましょう」

副団長でもあるファザンは、慌てて女団長を促す。


「メネ?」


とまどいの声の方を見れば、聖湖教会方面からメネとお揃いのゴスロリ風ドレスを着た美魔女が歩み寄り、メネに声を掛けつつ深紫ディープパープル騎士団をうかがう。


深紫ディープパープル騎士団は、ただ深紫ディープパープル色の装備なだけで、全員が一騎当千の威風堂々とした歴戦の騎士団なので、一見魔族側とは思われない。


「あ♪ おばあちゃま♪」

メネは、美魔女祖母に駆け寄る。


((((え! この美女が、祖母!?))))


流石さすが深紫ディープパープル騎士団も、意外いがい衝撃しょうげきにザワつく。


「メネの御親族かな?」

女騎士団長は、思わず苦笑しながら美魔女に問う。


「は、はい」


「メネに、新参勇者殿が魔王の手を魔界に押し戻されたと聞いた。事実なのかな」


「はい。龍神ニーグ様のブレスに匹敵する光線が...... 八〜九回繰り返されて、魔王の手を押し戻したと聞きました」


「え! 八〜九回!?」

女騎士団長や団員達は、驚きに眉を寄せる。


「はい。目撃した男どもが、興奮して話して居りました」


騎士団全員の表情は引き締まり、改めて真剣な表情で目配せをしあう。


龍神ブレスきゅう光線こうせんを八〜九回!? ...... そりゃぁ魔王様でも押し返される。


しかし、九回ものブレス級光線を連射するとは、新参勇者の魔力量はどれほどなのか......


女騎士団長は、聖なる光に煌めく柱を見上げる。




ドドドドドドドドド


丁度そこに、全身白い甲冑姿の教会衛兵隊の第四・六・八・十分隊が駆け込んで来る。


「ち。転移陣てんいじん作動まで、後何分か?」

「は。後、約五分程......」

「うむ。よし、さわぐな」


深紫ディープパープル騎士団は騒がしい衛兵隊を無視し、ただ静かに聖湖を眺める。


「はぁはぁ。確かにこの方向から、悪魔の門デモンズ・ゲートの反応が」

「はぁはぁ。私もです。でも...... 消えちゃいましたね」

「はぁはぁ。そうね、消え...... !」

一人の戦術神官少女が、深紫ディープパープル騎士団に気が付く。

「あ! 手配書に記載の深紫ディープパープル騎士団じゃない!」

少女の叫びに衛兵隊全員が、深紫ディープパープル騎士団に集中する。


「ち」


女騎士団長は、ネメの祖母に目配せする。

そして『立ち去れ』と言わんばかりに、聖湖教会へ行く様に顎をしゃくる。


それを受けたネメの祖母は、反射的に孫娘を抱え上げ、しかししっかりと女騎士団長へ一礼し、一目散に聖湖教会へ駆け出す。


「おねぇちゃま、ばいばーい♪」

メネが、祖母の肩越しから手を振って来る。


女騎士団長は、苦笑の微笑みを浮かべる。


「大人しくばくを受けよ!」


一番近くに居た衛兵隊六番分隊が、たった十名の騎士団と見て、捕縛ほばくしようと近付いて来る。


「後何分か?」


「三分です」


「デファン、マレー、ギエラ。あそんでやれ」


「「「はっ」」」


指名された三名は、第六分隊に向かいながら素早く長剣ロングソードを抜く。


「歯向かうか!」


四・八分隊も、左右から深紫ディープパープル騎士団を、押し包む様に回り込む。


雷撃らいげき


後方のギエラが、ポツリと呟く。


バリバリバリ


晴天なのに突然、真上から雷鳴らいめい大音量だいおんりょうひびき、第六分隊へ雷撃らいげきおそいかかる。


キカッ!


ドンッ!!


ドガーン!


「「「「うわあああ!」」」


凄まじい落雷の爆光ばくこう爆風ばくふう爆煙ばくえんに、数人の衛兵隊員がとばばされる。


「ぬ!?」


雷撃らいげき魔法を放ったギエラは、怪訝けげんな表情に成る。


爆煙が晴れると、衛兵隊と深紫ディープパープル騎士団の間に、一本の漆黒しっこく八角六尺棒はっかくろくしゃくぼうが、地面に垂直すいちょくっていた。


どうやら避雷針ひらいしんの役割を果たし、衛兵隊への雷撃の直撃を回避した様だ。


「ぬぅ」

「エイ!」


馬を駆ったデファンがその棒の右側から回り込み、衛兵隊へ迫ろうと、馬の方向を変える。

一拍後に、

マレーも、左側に方向を変える。


ドン


六尺棒がそそり立つ衛兵隊側に、銀色の全身甲冑フルプレートの男が地響じひびきを立て真上まうえから降り立ち、六尺棒を自然とにぎる。


ぞくり


一目で深紫ディープパープル騎士団全員ぜんいん背筋せすじに、ぞくりとつめたいものが走る。


コイツが魔王様を押し返し、ギェンガー殿をほうむった新参勇者だ!!


なぜか納得なっとくし、確信かくしんする。


コイツはコレまでの勇者の様に、『異世界渡りギフト』だけの一般市民などのいくさのド素人ではない。


所作しょさちがう。迫力プレッシャーが違う。


むしろ我々と同じ...... いや、我々以上の武技とパワーを有した武人出の、真の勇者だ。


ブン


六尺棒がひるがえり、デファンの顔を狙う。


ガキン!


「ぐっ」


デファンは慌てて長剣を振るい、鋭く重い打撃を、辛うじて弾く。


ブン


六尺棒はひるがえり、まっすぐマレーの右頭部を突く。


ゴッ


「ぐぁ!」


兜の右頭部を小突かれたマレーは、落馬さえしなかったが、馬上でフラつく。


「引け」


女騎士団長は、つぶやく。


デファン、マレー、ギエラの乗馬は、乗り手を無視して勝手に隊列へ向かう。



駄目だ、対応出来ない。


しかし、こんなところで捕まる訳にはいかない。

何としても撤退てったいせねば。


女騎士団長の目が、すっと細められる。


「ファザン。三十秒保たせよ」


御意ぎょい


ファザンは馬を銀色男へ向けながら、腰の愛刀『魔剣ドゴー』を抜き放つ。




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