第41話 平和と絶望


【 それで、その『悪の錬金術師マッド・サイエンティスト』は、どの様な手で、御主を変身勇者ヒーローにすると言うのじゃ? 】


「はい。初期案では『全身甲冑フルプレート』に、動力炉を付けて、装着者の力を倍増させるパワード・スーツに仕立てるとの事でしたが......」


全身甲冑フルプレートに、動力炉じゃと?】

ヴォーグ神は、思わずメルダを見る。


【出来るか?】

魔法技師マギ・エンジニアとしての意見を問う。


メルダは顔を、しっかり横に振る。

『動力炉としては、バスクじ......いえ、施設動力長しせつどうりょくちょうが昨年、組まれた炉が最小で最新です』


【......あの、地下の大広間おおひろま一杯に組まれたやつか】


『はい......』


「メルダさん、コレを」


猛は『コースター』ほどの白くて丸い円盤えんばんを、リモート映像のメルダさんに差し出す。


『はぁ.....』


メルダは、その白くて丸い円盤を、無意識に受け取る。


え? 『あれえ?』


目の前に映像として見えるタケシ様は、ワードマン様の霊廟マウソレイムに、居るハズだ!


ではなぜ、タケシ様がたった今まで持っていた、白くて丸い円盤が、今現在、自室のメルダ自分の手に存在しているのか?


つまり自然な流れで、白い円盤の『転送』が、成されたと言う事だ。


『この『さりげなさ』が、科学力の差......』


「メルダさん。その白くて丸い円盤が当時とうじ全身甲冑フルプレートに組み込まれた『動力炉』です」


『!』


メルダは、強い衝撃に、固まる。


『か、鑑定』


丸い円盤の中に魔素が通る『回路』が、ビッシリと細かく『書き込まれて』居るのが分かる。

一枚の広葉樹の葉に葉脈ようみゃくよりも、立体的に細かくからみ合っている。


バスクじいの最新動力炉の、魔素が流れる回路システムは、しっかり理解している。

この円盤に刻まれた魔素回路を、我らの技術で組み立てるとしたら......


『数千倍の、容量の格差が......』


タイ・クォーン教会建物すべての部屋の、容積いっぱいに魔素回路を組めるなら......何とかイける?


【それ程の格差か......いや待て!、御主タケシ。『当時』と言ったな!】


『あ!』


ヴォーグ神とメルダは、気が付く。現在の動力炉は?


にこり


彼はただ、やさしくる微笑ほほえむだけだった。


「次に、かの『悪の錬金術師マッド・サイエンティスト』が考案したのは、動力炉付き全身甲冑フルプレートと、装着者の身体との動きの『完全同期かんぜんどうき』です。


我々は意識せず『歩き』ます。

無意識にカトラリーを使いこなし、料理を口に入れながら談笑だんしょう出来ます。


それと同じレベルの、『完全同期かんぜんどうき』を望みました」


アイスコーヒーを、一口飲む。


「それを実行するには『脳での思考』を、リアルタイムで読み取れなくてはなりません。

なので彼は、読み取る働きの極小のゴーレムナノマシンを開発しました」


右手人差し指で、自分右側頭部を軽くつつく。


「私の身体に流れる『血潮ちしお』には、その極小ゴーレムナノマシンが、沢山たくさんざっています」


(本当は『勝手に自己増殖して、細胞内に入り込んでいる』状況で、

『ナノ』どころかもっと小さい単位の『ピコ』や『フェムト』のレベルで混ざっているのだけれども)


(こちらはまだ、細胞の概念が、今少しあやふやですシ)


(まぁ今は、にごしてこう)


【......そうか、タケシの世界の『かがくぎじゅつ』では、『小さな精霊』を『なのましん』と表すのじゃな。

しかし、そんなに沢山たくさん精霊なのましんを、一斉いっせいにに『使役しえき』させられるとはな 】


『はい。マルチ・ウィザード以上でないと、直ぐに魔力切れを起こしますね』



(へ?)

(なんですト!?)


これまた『新たな視点』だ♪


(そして、ナノマシンの感染と拡散は、見える人には見えるのか?)

(ふむ。感染ナノマシン量を、最小限に調整しまス)



「えーと?その『使役』って、どの様に行うのです?」


【うん? 御主は『息する様に』自然に行っているでは無いか。

とても生き生きと働いて居るぞ。

さらに御主の精霊なのましん達は、御主に使役される事を喜び、|誇りを感じて『綺麗に輝いて』居る。

だから御主の『オーラ』も、綺麗なのじゃ。

そこらのマルチ・ウィザードより『使役』が上手うまいぞ】


『本当ですね。タケシ様が存在するだけで、周囲が浄化されてしまいます。

自然の精霊達も心地よくて、集まってしまいます。

同時に、驚いているのは『なのましん』と呼称されている精霊さん達の演算処理能力が......圧倒的なのです。

また、魔力消費量も桁違いなのに、タケシ様は『ケロっ』と平然とされてられるんですもの......

どう、制御しているのですか?』


(魔力消費量!?)


(なるほど!私も含めて『ナノマシン』への、ユグドラシルエナジー光子=魔素は、シルバー・コード霊子線との直結で無尽蔵むじんぞうです)


(無尽蔵か......エネルギーの節約なんか、考えた事も無いな)


(太陽レベルのエネルギーで、60億年でしたね。一生で、使い切る事が『不可能』です)


(じゃぁ......このままで)


(アイサ)


「そこらへんは......」

苦笑してしまう。


『失礼致しました』

メルダさんは、察して疑問を引っ込めてしまった。


「まぁ、そのうちね」


『はい♪』


「それで、『悪の錬金術師マッド・サイエンティスト』は、『ナノマシン』を活用して、『全身甲冑フルプレート』と、装着者の思考との完全同期に成功致しました」


「ほう!ならば、入門してきた時点で......」

龍神ニーグ様も、話に食い付いて来る。


「はい。『悪の錬金術師マッド・サイエンティスト』は、自らの肉体で『安全検証』を済ませていました。

そうなれば次は......」


実証実験人体実験を、積み重ねたい訳じゃな】


「はい。ちょうど私も、格闘家として売れ始めてましたし」


「おや。我が愛しい夫は、名を上げたかったのか?」


「いえ。単に格流派に『出稽古』を御願いして回っていただけです......ですが『連戦連勝』してしまいまして」


ズソッ


アイスコーヒーを飲み切ってしまった様だ。


コトン


隼は、レモンティーのグラスを出す。


【ほぉーう♪ これまた『美しい』】

精霊王が、食い付いた。


コトン


同じモノを、精霊王にも出す。


【おおおお♪ 有難い!】



......こちらの人外さん達の、取り扱いに慣れてきたかな?。



「地球では、世界中から『何時でもどこでも誰でも閲覧えつらん出来る』映像と音声を再生出来る装置があります。メルダさんの様に」


【!。なるほど! 『時』と『場所』から、解放されているのじゃな】


「はい。そして『出稽古』先の誰かが、私の『稽古』を隠し撮りして、『全世界に公開』されました」


「それは......タケシ殿への、『道場破どうじょうやぶり』が増えませんでしたか?」


「はい。えました」


にこり


うれしそうに、微笑んだ。


名も知らぬ無数の『道場破り』達から、狙われると言うのに......本当に嬉しげに......



ぞっ



「私は一時的に『円鐘家』の籍を抜け、とある四方が開けた原野に小さな庵を立て、『道場破り』達を、待ちました」


ごくり


レモンティーを、一口飲む。


「庵へのアクセスも、世界に公開しましたので、来る日も来る日も、『道場破り』が現れます♪」


まるで『楽しい思い出』を語っている様だ。


「片端から、手合わせをして行きました」


右手の手の平を見る。


「でも。誰も、私に『勝ってくれない』のです」


右手を下ろし、頭を背もたれに預ける。


「試合すべて、公開しました......一年も経たないうちに『道場破り』は、一人も現れ無くなりました」


本当に、寂しそうだ。


「仕方がないので庵を畳み、円鐘家の道場に戻りました」


遠い目をする。


「あぁ......これでまた、『平和』な日々に戻ってしまうのかと『絶望』を感じ始めた頃、タイミングを測った様に『悪の錬金術師マッド・サイエンティスト』が入門して来たのです」




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