第40話 狂気と天才



やっと『最後の一人ヴォーグ神』が、精神的満腹感せいしんてきまんぷくかんたのか、本来の『ヴォーグ神をかこ御茶会おちゃかい』が始まった。


『勇者連合への作戦』も一区切り着いたので、お茶をしようと、先程の闘技場横の広い芝生に、皆で集まる。


それぞれにキャンプ用のチェアを出し、ゆったりと座ってもらう。


ヴォーグ神は、ハンモックスタンドに掛けた、ハンモックに寝転がらせている。

話したい時には、座れば良いし。


自分より上の存在天照大御神も消え、

気楽に、ごろごろくつろぐヴォーグ神の肌はツヤツヤし、満足気まんぞくげな微笑みを浮かべている。


【なぁ、タケシ】


「はい、御寝坊神おねぼうしんさま。なんでしょう?」


【お〜い。おちょくるでない......( 苦笑 )

参考までにの。タケシはどの様な過程かていて、さきの様に戦えて飛べる『超人スーパーマン』となった?】


「う〜ん......何から話せば、良いのやら......」


コチラもキャンプサイトで使う、ハンモックっぽいチェアに背中を投げ出し、くつろいでいる。

腹の上にはチェピーと雪花が、スヤスヤ寝ている。


「幼い頃は、『勧善懲悪かんぜんちょうあくな勇者のスーパーヒーローTV番組』が好きで、友人と勇者ヒーローごっこしてましたね」


ストローを刺したタンブラーから、アイスコーヒーを一口飲む。


「そうしましたら、円鐘家えんしょうけの修行が始まりまして」


【おう。武門の家系じゃったな】


「はい。結構喜んで、『これで勇者ヒーローになれる!』と、ノリノリで修行を始めた記憶があります。

......いつの間にやら『若い』師範代に成っていました」


【ほう。才があったのじゃな】


「お陰様で。

......しばらくして『人造超人マンメイド・スーパーマン』の開祖かいそ、『海良かいら しん』が入門してきまして......」


【ほほう。開祖かいそ弟子でしとな】


「はい。初見は......やたらに『鍛え上げられた肉体』の、オッサンでしたね......」遠い目をする。


【......胡散臭うさんくさいのう】


「そうなんですよ。『十分鍛え上げられて居るよね?』『これ以上強さを求めるのは、何故なぜ?』と、疑問符がわきました」


【ふうむ。で、開祖とやらの目的は?】


「......私を、誘惑ゆうわくしてきました」


【なんと!『そっち』じゃったのか!?】


「いいえ( 苦笑 )。彼が誘惑してきた言葉は......『本当の、変身勇者ヒーローに成りたくは無いか?』と」


【変身勇者ヒーロー?】


「はい。一般人族から、一瞬で『全身銀色甲冑』の勇者ヒーローに変身し、敵をバッタバッタと倒すのです」


【御主......言葉ことばのまんまに、ギェンガー倒したの】


「はい」


【そうか。その開祖からの『誘惑ゆうわく』に、い付いたのじゃな】


「そうです。開祖かいその探していたのは『高レベル武人ぶじん』と言う『被験者モルモット』でした」


ヴォーグ神は、思い切り怪訝けげんかおをする。

【......タケシ......正義の味方スーパーマンの、開祖かいその話をしてるのじゃよな?

......我には、どこぞの『悪の錬金術師マッド・サイエンティスト』の話に、聞こえるのじゃが?】


「あはは。『狂気きょうき天才てんさい紙一重かみひとえ』とでも、言うではありませんか」


『違います......前半が』

リモートでつながるメルダさんが、イチゴのショートケーキを堪能たんのうしながら、冷静に訂正ていせいしてくる。


「まぁ、ニュアンス雰囲気って事で」


また一口、ストローをくわえてアイスコーヒーを飲む。


「私もね、限界げんかいを感じていたのです。『人間の肉体』の」


ヴォーグ神を、妙に強い目で見る。


「そりゃあ『暗器暗殺武器の天才』と、言われるとか。

手刀一つで『相手の鳩尾から、心臓を貫く』事が、出来るようになるとか......してもねぇ」


【え!?......なにか、尋常じんじょうではない言葉ワードが出たぞ 】


「でも、いくらきたえても、変身人間以上の勇者ヒーローにはなれません」


【......タケシも、『狂気きょうき天才てんさい』......とやらのたぐい、ではないか?】


「否定は出来ません。私もどこか『こわれて』いるのでしょう」


アイスコーヒーを、また口にふくみ、ほろにが微笑ほほえむ。



○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○



横で聞いていたワードマンは、背筋せすじ旋律せんりつの様な寒気さむけを感じたものの、タケシ殿の言葉に何処どこ納得なっとくしていた。


ギェンガーを、壊滅かいめつさせた時も

タイ公爵を、きざんだ時も

模擬戦で、った時も


剣を交えて、やっと理解出来た。


タケシ殿は『敵の急所を破壊』する事に『躊躇ためらい』が、微塵みじんい。


彼は起こってしまった『死』を『事実』として受け止めるが、彼の心情には一欠片ひとかけらかげおととして居ない。


そう。タケシ殿自身の『死生観』に関しても。

死んでも『かまわぬ』と、見える。


敵対する武人からすれば『死を恐れぬ、強者タケシ殿』は、絶対にかなわない。


ユグドラシル・エナジー神の力を扱える事は、関係ない。


彼『一個人』の、武人としての力量が桁違けたちがいなのだ。


ワードマン自身が戦場でタケシ殿と、遭遇してしまったとしたら......

躊躇ためらいいなく、一目散いちもくさんに逃げる。本気で逃げる。

武器や武具を、すべて放り出してでも、一歩でも遠くに逃げる。


そんなタケシ殿は、どんな修羅場であろうとも、心は 平静へいせいのままだ。


災厄災害なギェンガーと遭遇しようとも、

絶対強者な龍神ニーグヘッズ様と遭遇しようとも、

『この世』の最高神ヴォーグ神様の目前であろうとも、


優雅ゆうがに茶をきっし、『恐れ多い』ハズの神とも、 平静へいせい談笑だんしょう出来るのだ。


心が冷めきって居られるのだろうか? 壊れているのだろうか?


いいや。


いわゆる『悟り』の境地にいたっている。

全身の力が、抜けている。

神位かむいとも、言える。


平静へいせいが故に些末さまつな事は気にならず、本質だけをれて、まよつかめるのだ。


むしろ、ほがらかで『表裏おもてうらが無い、おおらかな人物』とうつる。


だが確実に『敵』の弱点を、ピンポイントでつかmみ、破壊破壊するだけ、なのだ。


なので、ヤーディン大国を絶対に、タケシ殿とは敵対させてはいけない。


魔王以上に。


と、ワードマンは誓う。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る