第39話 わくわく模擬戦


サァー


御願おねがいたします」


御願おねがいたします」


雨上がりの霊廟マウソレウムさわやかな風が通り、木漏こもに包まれる広場に、猛とワードマンが木剣ぼっけんを手に対峙たいじする。


戦略せんりゃく検討けんとうしている時に、剣技けんぎの話をしたら、ワードマンさんがいて来ちゃったよ。


まぁ生前せいぜん、騎士団の筆頭指南役ひっとうしなんやくでもあった彼が、俺の剣技けんぎに興味あるのも仕方がない。


こちらの剣技けんぎるのも、悪くない。


流石さすがは、軍属だったワードマンさんの霊廟マウソレウムだ。


建物の裏に、バスケットボールのコート程の、石畳の広場が、たりまえの様に有った。


ざらりとした感触の石畳で、模擬戦もぎせん中もすべりにくそうだ。


広場のすみの石造りの倉庫には、模擬戦用もぎせんようの大小の木剣やら、防具が数十人分用意されていた。


右手の、上質じょうしつな木剣を見る。


これらは、定期的に手入れされてるよね?


いつ亡くなったんだっけ? ワードマンさんの子孫が、代々手入れしてるのかな?


あの世でも、鍛錬たんれんするとでも?


シャリーン


神楽鈴かぐらすずの、すずが、やさしくひびく。


天照大御神あまてらすおおみかみさま......まだ、いるよ。

忙しいんじゃ、無かったっけ?


アレ?隣の黒装束くろしょうぞく天狗てんぐは、八咫烏やたがらすさんかな?


【わかっておるよ。コレを見届けてからじゃ】


あぁ、高天原たかまがはらからの護衛ごえいけん、『最高神さいこうしん連れ帰る連行』お役目なのね......


烏天狗からすてんぐっポイ、COOLなクチバシ風マスクしているから表情は分からないが、

身体全体から『ゲンナリ』している気配は分かる。


お気の毒に......


さて......


ワードマンさんに、注目する。


「......ワードマンさん。若返わかがえりましたね」


「はい。全盛期ぜんせいきの私で、御相手おあいてさせて頂かないと失礼もったいないですから」


まぁ、互いに『生身』同士で、試合しあいしようと言ったけど。


「はいはい。遠慮なくたのしませて頂きましょう」


木剣を右手に、ワードマンさんの間合いに進む。


ひゅん


カッ!カカカカカッ!


猛は自然に近づき、自然に木剣を振る。

いや、彼の木剣は、すばやい連打れんだう。


「ぬ!」


ワードマンは、あせる。


「いきなり来るのは、やめてください(汗)」


猛は、にこりと微笑む。


猛が木剣を振り出す『起こり』が、読めない。

普通は息継いきつぎぎとか、攻める区切りとか、何かしらの動作のすきがあるはずだ。


行雲流水こううんりゅうすいは、こうなのだ!とばかりに、猛の木剣は舞続まいつづけ、とぎれない。

自在に動き、止まらない。


しかも彼は、するすると近づいて来たかと思うともう、ワードマンの木剣の間合いを、ギリギリ外す。


ガキッ ぎゅにゅ!


「うわっと!」


わずかにすきが出来れば、彼の木剣はしなやかなむちのように、ワードマンの木剣にしなやかにからみつき、はじばそうとしてくる。


ワードマンもかろうじて、木剣を逆回転ぎゃくかいてんわせ、巻き取りをほどく。


「くっ!」


ザッ


ワードマンはたまらず、後方に大きく飛び、間合いを取る。


「は、は、は、は、」


鍛え上げられた武人らしく、鋭い短息たんそくで、荒くなる息を整える。


猛は息も切らさず木剣を、静かに青眼せいがんの構えを取る。


打ち合う間、ワードマンは、猛の木剣しか認識出来なかった。

猛の気配は、どんどん木剣の影にかくれてしまうのだ。


そして、木剣の全てから、自在の打撃が放たれる。


さらに、一撃いちげきみょうおもい。


その重い打撃は、持つ木剣のしんに入り、手にガツンと衝撃が、ひびいてくる。


そのまま打ち合っていたら......木剣を持つ握力あくりょくくなっていただろう。


「フヒュー......タケシ殿は、何流でしょうか?」


真円流しんえんりゅうと申します」


「『真円しんえん』ですか」


「はい」


「武術の真髄しんずいでは無いですか」


「目指しています」


「なるほど。こちらも、トレアドールりゅう闘技とうぎ真髄しんずいを披露させて頂きましょう」


「喜んで」


「いざっ!」


ゴゥッ!


ワードマンさんは、木剣を中段に構え、一足で飛び込んで来る。


ガキッ


鋭い刺しこみを、木剣の凌ぎで弾く。


ワードマンさんは左手で、猛の右腕につかみかかる。


ビシッ


右肘を少しひねり、つかもうとする『指』を叩く。


弾かれた指を拳に握り、肘を打ち込んで来る。


半回転しながら、逆に肘をワードマンさんの肘に打ち込む。


ゴリッ


「ぐ」


ワードマンさんは身を下げ、足払いを掛けてくる。


その足首を、猛の足首が引っ掛け、引く。


「ぬ」


ワードマンさんは、引かれながらも身体を引かれた方に半回転し、反対足のかかとを猛の側頭部そくとうぶばす。


ゴッ


猛は額の真正面で、かかとを受け止める。


「ぐ」


ワードマンさんのかかとに、するどい痛みが走る。


ハンマーの様な頭突ずつきの威力いりょくが、かかとつらぬく。


「ふんぬ」


頭を下げた猛の首を、腕で締め付けようとしてくる。


ガバッ


右手に木剣を持ったまま、ワードマンさんの腰を両手でタックルし、める。


ブワッ

ズシン


ワードマンさんの身体を腰からすくい上げ、コンパクトに回して、石畳に叩きつける。


「ぐふっ」


咄嗟とっさに受身を取り、後頭部を石畳に打ち付けられるのは防ぐ。

背中は、強い衝撃が入る。

軽く息がまる。


ゴッ


肘打ちを猛の顔......いや、石頭で受け止められた。

打った肘が、痛い。

が、腰の締め付けが、わずかにゆるむ。

素早く腰をひねり、両腕から逃れる。


ヒュン

ガキン


猛は寝転がりながら木剣を振るい、ワードマンさんは寝転がりながら打撃をいなす。


パッ


ワードマンさんは体幹たいかんのバネだけで大きく飛びさり、一回転いっかいてんして片膝を着いて、猛に木剣を向ける。


「う?」


視界に、猛がいない。


するり


背後から、両腕が刺し仕込まれる。


無意識に半身をひねり、背筋せすじだけで、投げを打つ。


猛は、中空に投げ飛ばされる。


「ふん!」


ここぞとばかりに、猛の腹に刺突しとつける。


ガキッ! ぐにゅん!


見事に木剣で受けるばかりか、巻き込み技を繰り出し......


スタッ


ワードマンの木剣を『巻き込む力』をじくに身体をひねり、遠くに飛ぶ。


「は、は、は、は、は、は......フゥ〜」


ワードマンは青眼せいがんに構えながら、短息たんそくで荒れた呼吸を整える。


息も乱れていない猛は、静かに青眼で構えている。


「な......なるほど、全て『真円しんえん』の動きが、相手のしんつかみ、相手のしんうのですね」


流石さすがです。少しの打ち合いで、術理じゅつりはかるとは」


術理じゅつりが理解できただけでは、対抗できません」


「トレアドール流は、『げ』も『打撃だげき』も『組技くみわざ』もある、総合格闘技そうごうかくとうぎなのですね」


「そちらこそ......流石さすがです。

どれも決め技を放ったつもりなのですが、すべて『対応たいおう』されてしまいました」


「実は『真円流』も、総合格闘技そうごうかくとうぎなのです。『無手むてで、相手をたおす』鍛錬たんれんも」


「......参りました。私には、もうこれ以上の手はありません」


ワードマンさんは、木剣を静かに置く。


「......ありがとうございました」


木剣をさやおさめる動作をし、ワードマンさんに一礼する。



シャリーン


神楽鈴かぐらすずの、すずが、やさしくひびく。



パチパチパチ パチパチパチ


天照大御神あまてらすおおみかみを始め、その場の全員が、賞賛の拍手をする。


【 さすがね猛、また腕を上げたわね 】


「ありがとうございます」


【 すごい...... 】


何故か、後ろの護衛の天狗てんぐ八咫烏やたがらす』は、興奮こうふんしている。


【......たけし殿、申し訳無いが、我とも模擬戦もぎせんをお願い出来ぬか?】


「え?」


猛は、改めて八咫烏やたがらすを見る。

背の『からす漆黒しっこくの羽』も、見る。


空中戦も、おさらい出来るか。


「......よろこんで。で、私もんで良いですか?」


【!......良いのか?】

空中戦は、八咫烏やたがらすの得意だ。


「ええ。胸をお借りします」


【良きかな!】


カシャン

バサッ

八咫烏やたがらすは黒い羽根を広げて、錫杖しゃくじょうを右手に天高く飛ぶ。


「あ、戦闘区域せんとうくいきは、この霊廟マウソレウムの山の上空とさだめましょう」


おう!】

既に、かなりな上空を、とんびの様に飛んでいる。


「では......」


ドンッ!


飛び出した猛は一瞬で音速突破し、発生した白いベイパー・コーンに包まれる。


ボヒュン!


フワリと飛ぶ 八咫烏やたがらすの横を、かすめる様に飛びずさる。


【うわ!】


八咫烏やたがらすとしては、相手の上空を抑えれば、優位に戦えて来た。


が、天照大御神様・愛し子の、この速度はなんだ!?

まるで目に止まらぬ!


ヒュオン


猛は更に高い位置で、水泳のターンの様にクルリと身を反転させると、錫杖しゃくじょう同程度どうていどぼうを出し、 八咫烏やたがらすに振りかぶる。


ギャリーン!


錫杖しゃくじょう遊環ゆうかんを、派手に鳴らしながら、迫る棒を受け流す。


シュパッ


八咫烏やたがらすは翼を半分たたみ、最高速度で飛ぶ。


ドンッ!


再度ベイパー・コーンに包まれた猛は、亜音速で迫る。


猛の方が圧倒的に早いのだが、八咫烏やたがらす素早すばやい小回りがいて、絶妙ぜつみょうに背後を取らせない。


『零式艦上戦闘機(ゼロせん)』のごとく八咫烏やたがらすはその機動性を活かし、むしろ猛の背後に何度も迫る。


猛はその速度と、最新のトリッキーな機動運動性能きどううんどうせいのうけ、背後に回る。


キューン


シュシュシュシュ


しばらく背後の『取り合い』が続く。


シュパッ


「......なんですか?あの......二人の動きは! 」


ワードマンさんは、おどろきと......羨望せんぼうにつぶやく。

あの様に『飛べ』たら、生きていた頃の戦争に、どんなに有利だったか......


【......地球の人族は、かなり前から鳥を見て、飛ぶ事にあこがれていたの。

約二世紀前に『ライト兄弟』が初めて、人族が乗って飛べる『飛行機エアプレーン』を制作し、飛べたは】


シャリーン


天照大御神は、かろやかに飛ぶたけしを見る。


【それから、先人達が『空中戦ドッグ・ファイト』を研鑽けんさんしたの】


シュパー


戦闘区域を目いっぱい使い、互いの背後の取り合が続いている。


クルクル ギュン!


しかし、ジワジワと猛のが強くなって行く。


八咫烏やたがらすは現在で目いっぱいの、運動性能で対抗している。


猛はまだ、運動性能に余裕がある。


さらには『千里眼せんりがん』と言う『すべ索敵さくてき鑑定かんてい』アプリにより、

目視もくし出来なくても敵の位置を認識にんしきし、敵能力を測定そくてい出来る。

その索敵範囲さくてきはんいは、ヤーディン大国全土を余裕で把握はあく出来ている。


また『はやぶさ』と言う戦闘管制せんとうかんせいアプリは、『千里眼』で得た敵能力てきのうりょくデータを分析ぶんせきし、対応策を提案する。


八咫烏やたがらすの運動パターンも、だいぶデーターが取れ、少しずつ先手を取れる様になって来た。


【むぅ!】


ブワッ


急に黒い羽根の片羽だけ広げ、高速でくるりと体制を回し、迫る猛に『出会い頭』の打撃を打とうとする。


ガッ

ギャリン!


猛は錫杖の『棒』をとらえ、巻き込み技まきこみわざを繰り出して『錫杖しゃくじょう』をじくにくるりと回る。


八咫烏やたがらすの真正面だ。


ドンッ


八咫烏やたがらす鳩尾みぞおちに、右蹴みぎけりをはなつ。


【ぐ!】


八咫烏やたがらすは伸ばしていた片羽を閉じながら、反対の片羽を伸ばす。


一瞬で半回転し......たけしかえす!


惜しむらくは鳩尾みぞおちへの衝撃で、半回転の軸が、半歩分はんぽぶんズレた。


猛が蹴り脚を引きながら、反対脚で蹴り出す『間』が出来た。


ズン!


互いの足裏同士が、激突する。


【ぐ】


八咫烏やたがらすの動きが、一拍止まる。


シュッ


棒が、 八咫烏やたがらすの目前で、止まる。


【......参った】


八咫烏やたがらすは、手の錫杖を背中に背負い、両手をあげる。



「ありがとうございます」

猛は棒を収納し、空中で一礼する。


二人で、ゆっくり降りてゆく。


【真円流か】


「はい。私は熊野くまのに、お邪魔致した事があります」


【そうか。道場破どうじょうやぶりか?】


「いえ。出稽古でげいこ御願おねがい致しました」


【今回は、楽しかった。また稽古してくれるか?】


「こちらこそ、御願い致します」


【御主、良いな。祝福しゅくふく致そう】


「有り難き」


天照大御神の前に、降り立つ。


シャリーン


彼女天照大御神?は、ニコニコしている。


【どう?】


【十分かと】


【祝福感謝するは】


【いえ、望みました故に】


【......さて、行きましょう】


【......御意ぎょい......たけし殿】


八咫烏やたがらすは、木彫りの漆黒しっこく根付ねつけわたしてくる。


式神しきがみは、多い方が良いだろう】


見れば円形の木枠の中に、一羽の八咫烏やたがらすが収まっている。


「コレは......」


【必要とらば、呼んでくれ】


猛は、一礼する。


「心強いです。有り難き」


シャリーン


頭をあげると、もう、天照大御神あまてらすおおみかみ八咫烏やたがらすは、消えていた。






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