第38話 三種の神器





『......大まかな勢力は、以上です』


メルダはザックリと、主要勢力の説明を終える。

自室の椅子に、少しへたり込む。


「わかりました......では、メルダさん」


『は、はい』


「詳しい情報を、ありがとうございます。

助かりました。

この、こんがらがった事態収集の為に、これからもアドバイスをよろしく御願い致します」


たけしは、すっ、とメルダに一礼する。


たちまち龍神と守護天使と神官長は、驚きに目を丸くする。


「?…… なにか?」


『いやあの『絶対強者勇者』の方から、頭を下げてまで礼を払われるのは初めてでして』


メルダは、戸惑いの笑顔を浮かべる。


「えと。こちらでは、そこまで身分差みぶんさが?」


「そうじゃの。『格付かくづけ』や『序列じょれつ』は大事じゃ。『絶対強者勇者』は言葉では礼を払うが、誰にもは下げぬものじゃの」


「へぇ~」


「ほう。タケヨシ殿の世では、平等が?」


ワードマンは、興味深く問うて来る。


「はい。いくさでなければ『礼に始まり、礼に終わる』のが基本です。

私の感覚としては、最適な御意見ごいけん進言しんげんしていただければ、老若男女ろうにゃくなんにょどなたでもれいはらいたいですね」


「うーむ。タケヨシの意識いし尊重そんちょうしたいがの。

こちらでは『絶対強者タケシ』は、なるべくげぬ方がよいの。下々しもじも庶民しょみん戸惑とまどうゆえに」


「なるほど。留意りゅういいたしましょう…… 頭は下げなくても、れいべるのは構わないのですね」


「はい。多くはありませんが、『ずいぶんと御優おやさしい勇者様』と評判に成るでしょうね」


セルガは、楽しそうに微笑む。


「宜しくお願い致します」

たけしさげげずに、紳士しんしれいう。


「喜んで」

セルガは、優雅ゆうがに一礼を返す。


「あ、メルダさん」


『は、はい!』


すっかり油断していたメルダは、慌てて背筋を伸ばす。


「メルダさんも、お疲れ様でした。御食事ちゅうしょくは如何でしょうか? 異世界のメニューは、如何ですか?」


『!』


表情が、輝く。しかし、すぐに引き締める。


『いえ!お手数をおかけできません!』


「まぁまぁ。あー、では、『勇者からの要請』と言う事で、『食べなさい』」


『!......う』


「どうですか?」


『は......い。では......『ぴつあ』を、御願い致します』


「かしこまり。テーブルの上は片付けましたね」


(転送)

(アイサ)


『!』


メルダさんの目前に、焼き立てクリスピー・ピザを出す。

30cm位のLサイズで、四種の味のクワトロにする。

メルダさんの自室に、香ばしい焼き立ての香りが広がる。


『な......なんて良い香り......』


ピッチャーには、レモネードを入れる。

メープルシロップ

タバスコ

も、『注意書き』と一緒に出す。


御賞味ごしょうみ下さい」


『ありがとうございます♪』


早速、トマトとチーズのマルガリータを持ち上げる。


『きゃ〜! これが『チーズ』なのですね!びる〜』


サクリ


『んん〜♥ んんんー♪んーーーーー!』


(体調の変調に留意してくれ)

ちょっと興奮こうふんし過ぎかもしれない。


(アイサ)


さて、まだ確認しなくては。


「では、さらに質問させていただきましょう。

…… ヤーディン大国の現王は、どんな御仁ごじんでしょう?」


猛は、改めて四人に問う。


「おう! いきなりセムカねらうか!

流石さすが異世界地球で『歴戦れきせんの勇者』だの。

馘首戦法かくしゅせんぽう(いきなり敵のトップの首をる戦法)とはいな!

寡兵かへい(少数の戦力)での戦いを知っておるの」


龍神ニーグは、うれしげにほこらしそうに発言する。


「はい?」


えと、セムカ王の人となりを問うて、なんで王打倒おうだとうの話に成るんだい?


「...... うん? ヤーディン大国を征服せいふくするのじゃろ?」


龍神は、何を今更当たり前の事を聞く? と言う表情をする。


「...... えと? 何故なぜ征服せいふくの話に成るのです?」


「...... だから猛は『絶対強者ぜったいきょうしゃ』である。

巨大魔人と魔界の門デモン・ズ・ゲートを『片手間かたてま』で片付けたではないか!

ほこれる戦功せんこうである!

十分じゅうぶん王を目指す権利けんりを有しておる!」


だからって、征服せいふくするのが前提ぜんていなんておかしい。

第一、他人のめしかたまで支配しなければならない王の立場なんぞ、面倒臭めんどうくさい事態におちいるは真っ平御免まっぴらごめんだ。


「あの......」


なんとか止めないと。


「...... ニーグ様、御待ち下さい。話を先走り過ぎますと、タケシ殿が混乱します。

まぁ確かに実力は、王位請求権おういせいきゅうけんは広く認められるでしょう。

しかし現王も、易々とは王位を渡しません。...... つまり『戦乱』の世に逆戻りな可能性が」


「フンッ! タイ公爵すら放置しておる為政者なんぞ要らん!」


龍神ニーグは、どう言うわけか憤慨ふんがいし始める。


(...... これまでの俺の発言に、何か逆鱗げきりんれた様な内容があったかな?)


(...... いエ、人間としての常識的じょうしきてきにもマスターには落ち度は無いと判断出来まス。

龍神ニーグ様側ニ、何か事情を御持ちでハ?)


(聞くか)


「......え~と? ニーグ様。ワタシは何か貴女の『逆鱗げきりん』を、踏んじゃいましたか?」


「理由はセルガと同じじゃ。人族同士の血統だか順列だか知らぬが、くだらぬ『取り決め』を優先している間に、庶民はないがしろにされるのじゃ。

そんな役立たずな為政者なんぞ要らぬ!」


ニーグ様は、憤慨ふんがいしながらキッパリ断言だんげんする。


...... だから庶民の為に激怒りしてるんだよね。

つまり......


「...... ニーグ様は、人族がお好きでいてくださるのですね」


龍神ニーグへの『不意打ふいう爆弾ばくだん』な言葉を、ポツリと転がす。


ボンッ


ニーグ様の顔は、一瞬であかくなる。


「わ、悪いかっ!」


「いえいえ」

「めっそうもない」

『とんでもない』

「ありがとうございます」


いちおう人族にカテゴライズされる四人は、軽くニヤニヤしながら頭を下げ、紅い顔の龍神ニーグを生暖かくでる。


「で、でっ、ヤーディン大国王の人物像かの?」


龍神ニーグは、照れる自分を誤魔化すように問うて来る。


「ええ。どんな御方でしょう?」


「はん。人族ながら、えぬやつじゃな。中々のしたたものよ…… それに……」


「…… それに?」


「…… まぁ、油断大敵ゆだんたいてきじゃ」


「…… 確かに、てもいても食えない御方おかたですな」

と、ワードマンさんは、ニーグ様を横目で見る。


「おい。ワードマン」


「どうされましたか?」


「…… ぬぅ、何でもないは!」

ニーグ様は、そっぽを向く。


「「???」」

猛とセルガは、二人のやり取りの意味が、わからない。


『......』

メルダは、無言で含み笑いをしている。


「で、王の事を聞いて、どうする?」


魔族討伐まぞくとうばつの打ち合わせに、いずれは、お会いしませんと」


公爵の件は置いといて、魔王討伐の件はヤーディン大国の統治政府軍とうちせいふぐんとも、連携れんけいを取らねばならない。


「…… ふむぅ、確かにそうじゃのぅ」


しかし、龍神ニーグの浮かない顔は晴れない。


ふとひらめく。

龍神ニーグこのひとは、絶えず『強いオス』を求めて居たよね~


(王て、『強いオス』の象徴だよね~)


(...... 龍神様が過去ニ、王と『深き関係』が有ったカモ? と?)


(そうだ。『別れても好きな人族』かも知れない...... だからこの件は俺が動こう)


「では、王の件は私自身が動きましょう。幸い先程『ツテ』が出来ましたし」


「ツテですか? いつの間に?」


「はい。タキタル隊長です」


ほかの三人は、ポカンと口を開ける。


「...... あの、勇者様にさえも『叛意有はんいあり!』と、突っかかって来ちゃう方ですよ?」


『そうだったんですか......』

あぁ、『奴隷首輪』を切った時は、メルダさんは居なかったよね。


「...... 何故タキタルと?」


「...... セルガさんとディグリーさんやメルダさんの他に、タキタル隊長も腹くくって『この世界の現実』に立ち向かって居られるお方です。

一度、腹を割って話したい人物です」


にっこり微笑む。


龍神ニーグは、ふっ、と苦笑する。


「...... タケシ。

我はセムカの事を『えぬやつ』と評したが......

御主も中々に『えぬやつ』よの。そうか、ヤツか」


「...... もしかして、タキタル隊長とは顔見知りで?」


「うむ。タキぼうが八歳の時に、冒険者見習いとして我のパーティに転がり込んで来ての」


「「『タキぼう!?』」」


「おうよ。ヤツがタキ坊と呼ばれるのを嫌がるでな。周りに人が居る時は、タキタルと呼んでやるが」


いやいや、さっき、しっかりタキ坊でしたよ!


(セルガさん。タキタル隊長の御年は?)

ヒソヒソ


(はい。今年で三十八歳とお聞きしておりますは)

ヒソヒソ


(...... そりゃぁ、イヤがりますねぇ)

ヒソヒソ



コトン



【こ、コレは、オーサカの『クラーケン焼き』か!】


はフッ ハふっ はふっ


まだ喰ってるのか。


......そうだ。


(ワードマンさん、セルガさん)

ヒソヒソ


(?なんでしょう?)

(はい?)

ヒソヒソ


(『あの』素体は、タイ・クォーン教会に『寄進きしんいたします)

ヒソヒソ


コレで『有望な人材』を、『依代よりしろ使役しえきから守れるだろう。


(おお♪ がたき♪)

(ありがとうございます♪)

ヒソヒソ


(それで、デスね。素体の『使用開始と終了の権限』を、タイ・クォーン教会の『神官長』と『第一守護天使』に委ねます。御二方が、『同時どうじ認証にんしょう』といたします)

ヒソヒソ


(......!)ニヤリ

ワードマンさんは俺のたくらみを、さっした様だ。

(えーと?わたくしとワードマン様が、同時に?)

ヒソヒソ


(セルガ)

ヒソヒソ


(はい)

(かの『素体』は、タイ・クォーンでしか『使えない』のだ。しかも第一守護天使御主神官長の『同時に許認可』が無いと『使えない』のだ)

ヒソヒソ


(!......使用停止も、我々守護天使と神官長が、決めると......なるほど!)

ヒソヒソ


たけし

ヒソヒソ


おう!急に天照大御神様が、密談に入って来たよ。


【貴方に『神剣しんけん』『神鏡しんきょう』『神勾玉かみのまがたま』の分霊ぶんれいあずけてくは】

ヒソヒソ


(え!『三種さんしゅ神器じんき』を!?)

ヒソヒソ


【ええ。特に『神鏡しんきょう』の働きで、素体の『使用制限』は『グルメヴォーグ神』でもはじいて破れなくなるは♪】

ヒソヒソ


(有り難き)

(ありがとうございます)

ヒソヒソ


ワードマンさんとセルガさんは、天照大御神最高神様の気遣いに感謝する。


【良いのよ。見習いヴォーグ神には、まだまだ何本か手綱たづなは必要よ。

そもそもだけど、我の様に『依代なんぞ必要無い』くらいにならないと駄目ダメよ】


(......あ、はは)

(......ははは)

ヒソヒソ


ヴォーグ神を『信仰』する立場の二人は、

ヴォーグ神が『見習みならい』あつかいされてしまった事に、微妙な( 苦笑 )になる。


【まぁ、あなた達が手綱たずなにぎるなら、安心よ】

ヒソヒソ


天照大御神は、少し意気消沈いきしょうちんする二人をはげますように微笑ほほえむ。

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