第37話 十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。




自室からリモート参加しているメルダは、座っている机の引き出しから、使い込んだ分厚ぶあついノートを取り出す。


パラパラめくりながら、あるページで止め、読む。


ずは代替わりしたばかりの『カール・フォン・タイ・クォーン公爵』です。

代替だいがわりの瞬間しゅんかんから圧政あっせいを開始しました。


希望公きぼうこう』と呼ばれた先代様から打って変わっての強力な増税ぞうぜいは、

軍備拡張ぐんびかくちょう画策かくさくでは?ともっぱらの評判です』


パラりと、ページをめくる。


『ハナマサ勇者管理省長ゆうしゃかんりしょうちょうとは、かなり前から交流が確認されています』


「やはり、そうですか」


二人は、馴染なじぎていた。

先代公が亡くなるのを、待っていたな。


「では、メルダさんも『共通作戦状況図COP』を見ながら、御指導下さい」


メルダにも『共通作戦状況図COP』が閲覧えつらん出来る様に、セルガの視覚情報しかくじょうほうともメルダの魔法通信式とリンクさせ、

タイ ・クォーン公爵領を色付けする。


「な! て! あの...... なぜ『ヤーディン大国領土全域地図オール・マップ』がここに!?」


「私が上空を飛んだ時に『測量そくりょう?』魔法で測量しましたが?」


メルダの口はあんぐり開けられ、驚きの表情のまま彼女の動きが止まる。


「そ、『測量魔法』!?こんなに広域こういき詳細しょうさいに!?

......初代ヤーディン王様が測量宣言され、三代様でヤーディン大国領土全域の地図オール・マップが、やっと完成しましたのに......」


「成る程。全域地図オール・マップは『軍事機密ぐんじきみつ』扱いなのですね」


「はい。原本は『王の間の北壁ほくへき』一面に有ります」


「今度、拝見はいけんしに行きましょう」


メルダは思わずジト目で武良を見る。


「...... 話を認識されましたか? 『軍事機密』の機密漏えい『も』叛意はんい有りと認識にんしきされます」


「はい。ですが『これ』は、私が測定した『個人的情報こじんじょうほう』ですよ...... 現在進行形リアルタイムのね」


「え?」


ザァーザァー


「あら。先ほどタケヨシ様が申されてた通り、本当にり始めましたはね」


オーバル鍋ハウスの外壁がいへきに当たり始めた雨音に、セルガは反応する。


「ふむ。これも 現在進行形リアルタイムの『測定そくてい』かの」


「はい」


(...... どの様な技術テクノロジーで、測定して居るの?)


メルダは思わず、鳥瞰図ちょうかんずのタイ・クォーン教会の地点を確認する。


確かに 現在進行形リアルタイムで、西から東へ流れる雨雲を確認出来る。


コレを有する軍隊は、無敵だろう。

敵がどんな絶妙ぜつみょう布陣ふじんを取ろうと、筒抜つつぬけだ。


(...... 神よ......)


自分はヤーディン大国で最先端魔法技術さいせんたんまほうぎじゅつほこる、教会『聖魔法士せいまほうし十指トップ・テンに入る、 魔法技術者マジック・エンジニアだと、自負じふしていた......


が...... 勇者様の世界異世界技術テクノロジーとの、寒気がするほどの格差かくさを感じる。


もう神の領域だと思うが、ちゃんと理路整然りろせいぜんとした科学技術かがくぎじゅつであると理解りかい『は』出来る。


(......『上には上がある』とは、この事なのね...... 何だか切ないは......)


副司祭メルダの表情は、哀愁あいしゅうちる。


【......主の気持ちは、ようわかるぞ......】


巨大なマルガリータ・ピザを、ガツガツらっていたヴォーグ神が、

指や口周りの油を紙ナプキンでりながら、少し切ない表情で、メルダにつぶやく。

連続れんぞく配膳はいぜんされるグルメに集中している、どこかの貴族の幼女かと思っていた。


『はい?』


そんな『微妙』な幼女に、年上のごとく声を掛けられて、驚いた。


が......改めて注目すれば、メルダの意識の奥底から、彼女の『真名』が、浮かんでくる。


『へっ? ......ぶ、ヴォーグ神様?』


【めげるな、メルダ。主はよう頑張がんばっておる】


『は?......あ、ありがとうございます?』


【我も、タケシの美食チートとやらに、胃をがっちりつかまれてしもうた】


『......はぁ』


【けしからんのは、この『素体よりしろ』か?......うてもうても、はらちぬのだ!

しかもだ!

先程から、『甘い・しょっぱい』『温かい・冷っこい』を交互に出してくるのだ!

無限むげんるうぷ』と言う状態じょうたいでは無いか!

......なのでタケシの美食を、永遠えいえんえてしまうのだ!

けしからん!コレではタケシの思うがままではないか!】


コトン


はやぶさは、ヴォーグ神の前に天然氷のイチゴの、かき氷を置く。


コトリ


横に、白い練乳れんにゅうがタップリ入ったミニ・ピッチャーもかれる。


【ぬおお!イチゴかき氷に、思うまま練乳れんにゅうを、かけろだと!】


渡された新たなさじで、猛然もうぜんとかき氷をい始める。


『......』


......自分は...... 何を信じて来たのだろう......。

メルダは、何やら残念な......物悲しい気持ちを味わう。

ちょっと、頭痛もして来た。


「ではメルダさん。次の勢力せいりょくを、御願いします」


たけしは、口を封じたヴォーグ神に邪魔じゃまされない事を良いことに、仕事をサクサク進める。


まぁ、ここまで『放置ほうち』して事態をこんがらがせたヴォーググルメ残念神にも物申ものもうしたいが、今更いまさらどうにもならないだろう。

ヴォーグ神は、棚上たなあげ『放置ほうち』だ。



『は、はい!次は......』


メルダは『天におわす神の視点』から『実物リアル』を見ている様な、詳細しょうさいな地図に視線を向け、話す順番を考える。




○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○




カポ カポ カポ カポ カポ カポ


タイ・クォーン教会衛兵隊きょうかいえいへいたい進軍速度しんぐんそくどは、あきらかにちた。


天にのぼる光の柱の出現の後に、怒涛どとうの様に事態が立て続けに起きた。


大魔人ギェンガー襲来しゅうらいからの龍神ニーグ様の危機、からの新参勇者様の八面六臂はちめんろっぴ大活躍だいかつやくを、

聖湖せいこ対岸たいがん街道かいどうから、呆然ぼうぜんと見ていた。


見ているしか、無かった。


今度の勇者さまは、規格外きかくがいぎる。


ギェンガーが『無茶苦茶むちゃくちゃだ!』と、さけんでいたけど。


はげしく同意どういする。


多分現場に居ても、人外同士の戦いに、砲塔員ほうとういんの様にまどうしか無かっただろう。


全員が足を止め、呆然ぼうぜんながめていたら、あっというおわわってしまった。


アレから一人の神官が、通話魔法陣マギコールで教会建物に居る同期と、連絡取れた。

建物など黄色警報イエロー・アラートのままだが、事態は沈静化ちんせいかしたのであわてずに帰投きとうして欲しいとの事。


一気に気が抜けてしまったら、三日間の遠征での満身創痍まんしんそういの足取りは、重い。


新たに、聖なる光にきらめく柱を右手にあおぎながら、とぼとぼと歩む。



カポ カポ カポ カポ カポ カポ



「...... なぁ、タム」


急にカムランは乾いた唇を動かし、うつろな表情のまま、乾いた声で話しかけて来る。


「うん、どうした?」


カムランの目は、ハッキリ開いている。


「......イけるな」


ふっ


タムは、軽く微笑ほほえむ。

「......そう、だな」


周囲の人間も『うんうん』と、頷いて居る。


三日間の魔獣との激闘げきとうで、全員が薄汚うすよごれてボロボロだったが、表情は『希望きぼう』にちていた。



カポ カポ カポ カポ カポ カポ




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