第26話 相互理解



苔むした、ワードマンさんの霊廟れいびょうの石畳に降り立つ。


カシャン

パタパタパタパタ


猛の全身甲冑はパーツに分かれながら、

フワリと浮かんで身体から離れ

勝手にインベントリに入ってゆき、消える。


「あぁ。やっぱりさわやかですね♪ やっと深呼吸しんこきゅう出来る」


セルガさんをお姫様抱きしながら、少し背筋を伸ばし、深く息を吸う。

さわやか新緑の香りが、怒りで重くなった頭のこわばりを、やさしくほぐしてくれる。

裸眼の右眼は、やさしくなる。


「はい〜......私も運営方針うんえいほうしんに『行き詰まりどうどうめぐり』になりましたら、コチラにお邪魔します〜」


「隼、また簡易ベッドを......いや」


腕の中のセルガさんの、様子をうかがう。

まだ、気だるそうだ。室内での安静が良いな。


「隼、今出せる『部屋ルーム』のグレードは何だ?」

『はイ......スイート・クラスまで出せまス。現在の人数ならバ、プレジデント・スィートではいかガ』

「そうだな。皆さんにも、一息ついてもらおう。そこの石畳に出してくれ」

『アイサ』



ワードマンさんの墓陵の一番広い石畳広場に、発射点のわからない紅いレーザー光点が、ひとつ当たる。


『インベントリ開放』


光点の真上から、大型トレーラーが牽引する海上コンテナほどの大きさで、

戦場では目立たない、ダーク・グレーなオーバル型の大鍋おおなべみたいな大箱が、ゆっくりと降りてくる。


ニーグ、セルガ、ワードマンの動きが固まり、ゆっくり降りて来るその大鍋を、呆然と見つめる。


シュー


セルガ抱く、猛の目の前に着地する。

いや、少し浮いている。


オープン、ポット開け、鍋


シュン、プシュー


オーバル型鍋の横腹の傷一つ無いダーク・グレーの壁に、縦に緑の光が走り、左右に開いて行く。

ぽかり、と、入口?が大きく開く。


「さ、どうぞ」


背後で放心する二人をうながし、入り口に入る。

内側は海上コンテナの内部とは思えない、広さがあった。


高級ホテルのプレジデント・スイート・ルームのクラスの広さで、

内装も高級な調度品が並んでいる。


大人四人がくつろぐには、充分だ。


応接レセプションモード」

『アイサ』


つぶやきに隼の電子音声が答えると、足を伸ばしてリクライニング出来るオットマン・シートが出て来る。


そして『魔力当たり』を起こし、今少し朦朧として居るセルガさんを、そっとシートに横たえる。


シートは微妙に大きさを変え、セルガさんの体格に馴染む。


「す、すみませぇん......」


「タケシ」「タケシ殿」


出入口の外に立ち尽くし、

豪華な内装ながら落ち着く雰囲気のスイート・ルームの

あちこちに視線をさまよわせていた

龍神ニーグとワードマンさんが、同時に声を出す。


龍神と守護天使は、思わず目を合わせ、苦笑いする。


「えーと。聞きたいことは『御互おたがい』に山程有りますよね。

でも、セルガさんの介抱かいほうが終わるまで、今少し御待おまち下さい」


猛も苦笑しながら、二人に入室をうながす。


「うむ」「はい」


おそるおどる、二人は入室してくる。


シューン


二人の背後で丸い出入口は、ゆっくりと閉じてゆく。

閉じると周囲の壁と同じ、壁になる。


猛の両手に、いつの間にか薄手の毛布が出る。

やさしく、セルガにかける。


「ふぇえぇ~ ぬくい~」


彼女は包まれた毛布ブランケットの温もりに、表情をトロめかせる。


「申し訳ありません。ちとやり過ぎましたね」


セルガさんに優しく毛布を直してあげながら、ポツリとつぶやく。


「むぅ? そんな事はないぞ、ちゃんと治癒もさせたのだし。

第一、奴の『最後さいご』の様に、あんなに無礼な一言は許し難い。

我ならブレスで消炭けしずみにしてやるわ」


「同意します。長年の鬱憤うっぷんが、綺麗きれいサッパリと晴れましたぞ!」


「そ、そうれふ~!

彼にねらわれて居たと言うわたひとひても、助かりまひたよ~

十二人目の妾なんて、イヤでふ~」


「いや、タイ公爵をきざんだ事は、微塵みじん後悔こうかいしてりません」


真顔で、ビシッと完全拒否かんぜんひていする。


三人は猛のキッパリさに、苦笑する。


猛は、ふにゃ~ と、毛布ブランケットぬくまるセルガさんを見下ろす。


「セルガさんが、こんなに魔力? の感受性が強かったとは……

『極大魔法』への配慮不足でしたね。

『強過ぎる力』は、本当に気を付けないと」


「ひいえ~ わたひの油断大敵ゆだんたいてきでした~

ディグリー義姉様は、直ぐに立ち直られて居られたのにぃ~」


「…… 普段の心構えの違い、であろう」


ポツリとつぶやかれたワードマンさんの苦言に、彼女は(あうっ)っと何か突き刺された表情に成る。


「まぁまぁ、今度こそ『御茶』に致しましょう。セルガさん、少し背もたれを起こしますね」

「はーい~」


インベントリ無限収納


大柄なニーグ様でも、ゆったりと座れる椅子三脚と

ティーセットの乗ったテーブルを、

セルガの横たわるオットマンの側に、出す。

カップには、湯気立つ紅茶が入っている。


「ほーうー。なかなか趣味の良い、茶器ではないか」

「そうですな。一つ一つの品も、逸品いっぴんですな」

「うわ〜♪白い〜⤴︎かわいい〜⤴︎」


そして、室内のあちこちに、視線を配る。


「この部屋は、タケシの世界地球のモノか?......

ふうむ......このレベル部屋は、そこらの並な王侯貴族では、用意出来んぞ」

「たしかに。シンプルな内装ですが......どれを見ても、品質が逸品です」

「......天国もかくやな、寝心地です〜♪フカフカ〜♪」


ニーグは改めて、猛を見る。


「しかしタケシの鎧兜もそうじゃが、織り成す『魔法術式』は、複雑怪奇ふくざつかいきじゃの。

魔力の濃密さはわかるが、緻密な構成と複雑な動きは初めて見るし、術式を読みきれん。そして......」


ひとつのカップを、目の高さまでゆっくり持ち上げる。

カップを、じっくり見る。


「文明レベルも、ヤーディンよりはるか上ハイ・レベルだの」


ジュル


そのまま『紅茶普通のリプトン』を喫する。


美味うまい!こんなに雑味ざつみ無く、スッキリした茶は、初めてだぞ! 水も甘くて、美味い!」


グビグビ〜

一気に飲み干す。


コポ コポ コポ


猛は微笑みながらポットを持ち上げ、

ニーグのカップに、静かにお代わりを注ぐ。


「私の世界では魔法技術まほうぎじゅつより『科学技術かがくぎじゅつ』が発展して居ります。

私の身体の中にも、科学技術で製造された『自己増殖ナノマシン型インプラント』が入って居りまして、

そのナノマシンで中継リレーさせ、魔力光子エネルギーを身体中の隅々すみずみまでまわめぐらせます」


「ふむ。ならばタケヨシの世界では、魔法は一切使わんのか?」


猛は、ニーグに自分が手にするカップを示しながら。


「はい。使いません。(これカップも)全て『科学技術』より製造された物です。

『より良く、より売れる製品を』と、切磋琢磨せっさたくましながら、日進月歩にっしんげっぽさせて居ります。


また私自身も、元々一般的な人族ですよ。

あ、私の居た世界には『人族しか』りません」


「ほう? タケヨシ殿を『鑑定』すれば、『凄まじい魔力生体エネルギー』を感じるのですが?」


「それは『平和維持組織『侍』』を組織した、

師匠でもある科学者『海良 真かいら しん』の、

科学技術的『試行錯誤しこうさくご』と『偶然ぐうぜん』が折り重なった結果、

『ユグドラシル・ネットワーク』から、霊子線シルバーコードを通して

『ユグドラシル・エナジー』......えーと。

言い換えればユグドラシル界からの『無限の魔力光子エネルギー』を、

私の身体に『直接取り込める』様に成ったからです。


そして光子エネルギーは万物の物質の元素に成っている事が理解され、操作や制御が可能になり、

自然界のさまざまな物理法則を突破することが出来るようになりました。


この『部屋ルーム』......いやこの大きな『オーバル鍋』を作り上げ、収納できる『無限収納インベントリ』も、

ユグドラシルからの超強力な光子エネルギーを駆使して、別空間とつなげることが可能となりました。


しかし我々『平和維持組織『侍」』が、この力を手にしていま数十年すうじゅうねんしか、経過して居りません。

重々じゅうじゅう注意深く運用して居りますが、まだまだ『手探り』です。


巨大な滝の落ち口から滝壷まで、一気に落下する『直瀑ちょくばく』を受ける様に容赦無ようしゃなく、

霊子線シルバーコードを通して『この身体』に膨大ぼうだいながんで来る、ユグドラシルの魔力生体エネルギー制御も、

かなり綱渡つなわたり的に大変です。


事実、失敗も色々としました。

海の底に『巨大クレーター』を、作ってしまった前例とか。


まぁ、その代わり、ユグドラシルと霊子線シルバーコードとの接続が切れないかぎりは、

魔力生体エネルギーは無限に受けられ、魔力切れは起きませんが。


そこで、こちらの数千年すうせんねんもの歴史ある魔力と魔法の運用方法について、諸々もろもろ御指導頂ければ幸いです」


「ほう。魔法指導まほうしどうならば……」「子種の件は、別の話ですよ」


猛は機先を制し、ピシリとニーグの『子種話』を否定する。


「ぬぅ、すきの無い奴じゃ」

龍神ニーグは苦笑する。だが猛との丁々発止は、楽しい様だ。


「しかし、『ユグドラシル』から直接魔力生体エネルギーを受けられるのか。

ならば、タケシの凄まじい戦闘力魔力の理由に合点がくの。

魔力切れを起こさないのも、うらやまましいの」


「凄い、魔力切れが起きないなんて……

そんな方に魔術指導とは、違和感がありますねぇ。

タケシ様は先にユグドラシル根幹からのの膨大な魔力生体エネルギーを『直結』で手にいれてしまったのですね。

つまり神霊位の領域なのです。

えー、今から解説させて頂くのは、人族の魔法使いが魔力生体エネルギーを魔術で操る方法です」


セルガさんは、少し困り顔をして苦笑する。






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