第4話 ヴォーグ様に身をゆだねて(運を天に任せて)


(良かった。いきなりセルガに殴りかかる様な、バーバリアン戦闘狂では無い様ね。そんな野獣勇者様は、いくら強くとも御断りです)


ディグリーは、セルガが傷付けられる心配が無さそうなので、少し安堵する。


浮かんで居るセルガは、何故かぎゅっと両面を閉じていた。

しばらくして彼女は、んっ? と言う表情に成り、右目だけ恐る恐る開ける。

開けた瞳は、とてもんだ綺麗きれい碧眼へきがんだ。


『…… 此処ここ(ヴォン)は?』


漆黒の空間に、セルガの鈴の音の様な声が響く。

碧眼へきがんの右目だけ開け、周囲を伺う。

ふと、自分をうかがう『銀色全身甲冑の男性』に気が付く。


『まあ♪ 何と言う『魔力まりょく』の強さの勇者様! しかも聖魔法召喚式を、たやすく押さえ込まれるなんて! 更に、逆に私を逆召喚ぎゃくしょうかんされるなんて♪ こんなの、初めてですは♪』


セルガは、碧眼へきがんの両目をパッチリ開けた歓喜かんきの表情で、鈴の音の声で歓喜かんきの声を上げ、歓喜かんきに身体をふるわせる(たゆん♪)震わせると、豊満な身体は~(たゆん♪)


礼拝堂に居た男性陣は、セルガの見事な双丘の(たゆん♪)に思わず見とれ...... 慌てて(たゆん♪)から視線をそらす。


新たな勇者様も、セルガの見事な(たゆん♪)に思わず見とれてしまった様子だが、紳士的に視線を逸らされた様子だ。


ディグリーは緊張感のカケラも無いセルガに、思わず歯ぎしりしそうな程険しい表情となり、半透明のセルガをにらむ。

「何度も『勇者様を御迎えする時は、淑女しゅくじょたれ』と、申し渡しましたのに...... 」


ディグリー周囲の人族は、ディグリーの周囲に渦巻き始める怒気に当てられ、いささか皆の気分が悪くなる。


(どうすりゃいいんすか?)と、衛兵隊達の視線はタキタル隊長に集中する。

(無理だ。あきらめろ)と、タキタル隊長は渋い顔で、首を細かく左右に降る。


これまでの経験値から、普段温厚なディグリー神官長が一度怒りだせば、静まるのを待つしか無い。


銀色全身甲冑の勇者様も、セルガの明け透けな態度に戸惑って居る様だ。


「御覧なさい。銀色勇者様が『引いて』居られますは!」


しかし


『|△▽◯...... ◇◻︎◯◇×、▷◯△◁◻︎?《えーと……貴女は、どなたですか?》』


基徳きとくにも、勇者様側から紳士的な態度で問い掛けて下さって居られる。


「まあ!...... ありがたく紳士的な勇者様。それにこれは...... 念話翻訳ねんわほんやくかしら? セルガと勇者様の間には、会話が成立されてるのね。ほらほらセルガ! 早く御挨拶なさい!」


無闇に明るいセルガは勇者様から御声をかけられて、ハッと気が付き、あわてて武良を貴人きじんと観たてた様な礼法を取り、頭を下げる。


『失礼致しました、勇者ゆうしゃ様。わたくしはヤーディン大国の国教ヴォーク神教、タイ・クォーン公都教会こうときょうかいの、神官長しんかんちょうセルガと申します』


△▽◯◇◻︎◯△?ゆうしゃ様? △▽◯△▽? しんかん長? …… ◯ーえーセルガ◇◻︎◯?セルガさん? ◇◻︎◯△▽◯。△▽◯△▽◯△◁◻︎初めまして。『侍』の、円鐘 猛(えんしょう たけし)と申します


銀色勇者様は一角の武人らしく、セルガに向かい堂々と一礼する。


「いま! 『セルガ』と、名詞を聞き取れました!」


副司祭メルダも、やや興奮気味に歓喜する。


「...... これは...... 好感触な初対面ね。強制的な聖魔法召喚式が破られた以上、上手く此方の世界に来て頂きたい所なのですが...... セルガに説得出来まして? メルダ。翻訳内容を、此方でも聴けませんか?」


ディグリーはセルガの通常を知って居るだけに、不安はぬぐえない。


副司祭メルダも、歓喜から一転不安気ふあんげに変わり、慌てて周囲の魔法陣を操作する。

しばし操作していたが......


「...... ダメです。やはり勇者様側の魔法式が見たことがない程緻密で複雑ですし、かつ演算処理速度えんざんしょりそくども、とてつもなく早く...... 我々の魔法術式では、どうしても割り込めません......」


副司祭メルダは、打ちひしがれる表情に陥る。


「...... わかりました...... セルガのいつもの『悪運』に、期待しましょう」


ディグリーは、グッと口元を引き結び、耐える表情をする。


『『◯▷◯◇?サムライ』? ▷◯△◁◻︎◯?エンショウ タケシ様?』

そう思われて居るとも知らず、セルガは『よそ行き笑顔』で、オウム返しに答える。


勇者様の発した異世界言語の発音を、耳で聞いたままオウム返しに答えただけなので、ディグリーにも誰にも意味は分からない。


◯△▽、◯◇◻︎◯タケシで、良いですよ


『はい。勇者ゆうしゃ◯△▽タケル様』


◯△▽、タケシ、デスよ』(苦笑)


ここで勇者様は、被っている銀色の兜をひねる。

『|◻︎◯。◇◻︎◯◇◻︎◯△。◯△セルガ◻︎◯△。◻︎◯△▽◯◇◻︎◯◇◻︎?《ふむ。ではセルガさん。どんな御用件でしょう?》』


『はい♪ ◯△▽ータケシー様への御願いは、勇者様として、魔族まぞくならびに魔王討伐まおうとうばつですは♪』


◯△▽タケシ......(もういいや)▽◯△▽?▽◯△◁◻︎◯?まおう? とうばつ?


銀色の勇者様は、銀色の兜の自分の耳の部分を、軽く叩く仕草をする。

そうだろう。いきなり異世界の事態と言う、信じがたい話されたのだ。


『はい! もう『かつてない強さ』の、◯△▽タケヨシ様におすがりしないと、私の世は滅ぼされてしまいます』

と、彼女は両手を伸ばし、グンと近付いてくる。


銀色の勇者様は焦った様に、サスガに武人らしく素早く背後に身を引き、セルガから間合いを取る。


「セルガ!ちかいちかいちかいです! ほら! 勇者様も引いてしまわれて居るは!」


『セルガの悪運を信じる』と言い切ったのに、ディグリーの焦る声が響く。


しかしセルガは、『逃がさん』とばかりに両手で勇者様を抱きしめる。

彼女の豊満なお胸が、勇者様に『当ててんのよ』状態です!


何故か少なく無い人数の教会衛兵隊員達が、ギリギリと歯ぎしりし、目から血涙を流して居る。


…… セルガの当ててんのよ攻撃を喰らう勇者様も、何拍なんぱくかセルガの至福に身を委ねる……


はっ!と勇者様は、彼女を振り払おうと、身体をひねる。


スコ


ひねった勢いで半霊体の彼女の右手は、勇者様左手の『デッカイ水タンク?』へ触れる……


カチ


△◁◻︎◯!ヤバい!

「まっ!」

「みゃっ!?」


勇者様とディグリーとシャナの、あせる声がかさなる。


ディグリーは、セルガ体内の聖魔素光子が、勇者様が左手に持つ『鉄柱内の魔法式回路』に接触すると、その魔法式回路から聖魔素光子が湧き出る様に増幅し始めのを、肌で感じたからだ。

湧き出た聖魔素光子は、一瞬で電柱程の大きさの鉄柱全体に広がり始める。


「総員! 回れ右! 武器を捨てて地に伏せよ! 両手で両耳を塞ぎ! 目は強く閉じ口を大きく開けよ!」


必死ひっしを感じ、あせるディグリーは、自分でも聞いたこともないハリのある声で、礼拝堂全身に発令する。


これは、軍事演習の中で何度も行う『近距離で炸裂弾が爆発する時の対処法』だ。


衛兵隊総員は、素直に発令に従う。

ディグリーの発令に紛れも無く聞き慣れた、全軍に発令する『大将軍のごとくの気合』を感じたからだ。


「シャナ!」

「ウギャッ!」


すぐ側にいた衛兵隊員がシャナを素早くひっつかみ、召喚陣に足を向けてうつ伏せながら自分の懐に押し込み、自分は肘を立て耳を両手で塞ぎ大口を開ける。

シャナも、潰された声をあげる。


キカッ


ドッ、グァアアアアアアァァァン!


ドドドドドドドドドドドドドドドド


電柱程の大きさの鉄柱は、凄まじい旋光せんこうと共に爆発音し、轟音と衝撃と地震が、だだっ広い召喚の間のすみずみに響き渡る。


また強い光に押し包まれて、視界はホワイト・アウトする。


強い光って、熱いんだ。


固く目を瞑った瞼の上から侵食して来る青白く強い輝きに、目玉が焼けてしまいそうな感覚がして、少し痛い。


ドドドドドドドドドドドドドドドド


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


礼拝堂は......

いやタイ・クォーン教会神殿周辺の土地建物ごと震度六相当の揺れに、地にふせる全員の五臓六腑ごぞうろっぷも激しく揺さ振られる。


背後の魔法陣からの爆風こそ無かったが、大空間の礼拝堂ごとシェイクされて居る様な激しい揺れに、四つん這いのまま、総員が掻き回される。


「わわわわ!こんな激しい地揺れで!この神殿建物は!大丈夫ナンですかー!」

衛兵隊の誰かが、叫ぶ。


「知らないは!ヴォーグ様に身をゆだねなさい!(運を天に任せろ)」

余裕を無くしたディグリーは、切り捨てる様に返事をする。

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