6-3 Speak Out to me

「ヒデアキくん」

 大浴場を出た先の休憩スペースでミネラルウォーターを飲んでいた新田は声のほうへ振り返る。淡いラベンダー色のワンピースを着たヒカリが、頬を熱らせて駆け寄ってきた。洗いたての髪が肩から首元へさらさらとこぼれ落ちる。新田は口の中で曖昧に返事をしながら、眉を八の字に下げて微笑んだ。

「お風呂楽しかったかい」

「うん! 毎日これがいいな」

「はは、贅沢だ」

 ヒカリにも水のペットボトルを手渡しながら、新田は彼女のうしろにもう一人若い女性の姿があるのを見る。長い髪を片手で払ったその女性と目が合うと、新田は思わず息をのんだ。

「ヒカリ……、その人は」

 言いかけた新田のうしろを見てヒカリが怯えた表情になる。新田が振り返るその眼前に二人、暗い色のスーツ姿の男が影のように彼に寄り添って立っていた。

「新田秀明さんですね」

「CeRMSに依頼された者です。ご同行願います」

「な……、おい、なにするんだ」

 新田は抵抗する間もなく男たちに両側から拘束される。それなりに筋肉質な体が簡単に引きずられていくのを見てヒカリが悲鳴をあげた。男二人はそこで初めてヒカリに気付いたという顔つきで動きを止める。

「連れがいるのか?」

「いや……、これがHI-44なんじゃないのか」

「わからん、実物を見たことある人間がいなくて判断できん」

 男たちが躊躇ったその瞬間、右側で新田を羽交い締めにしていた男がバランスを崩して転倒する。足元を払ったその男の腹部に重たい音の蹴り込みを入れたのは、長い髪に桜色のゆたかな頬、ヒカリとまったく同じ顔をした真っ白なワンピースの若い女だ。

「私が相手よ」

「アカリちゃん」

 ヒカリが目を見はって立ちすくむその前で、アカリと呼ばれたその娘はすばやく左側の男に飛びかかる。喉を狙って殴りつけるその速さも力も、とても十八歳程度の女性のおよぶところではない。そのあまりにヒカリに似た外見だけでなく身体能力も普通の人間ではなさそうだったが、今は構っていられなかった。

「ヒカリちゃん、早く逃げて! 必ず連絡するから」

「ありがとう」

 ヒカリがそれだけやっとで応え、新田の右手を強くひく。新田は呆然とした意識からハッとヒカリの顔へ焦点を合わせると、握る手に力をこめて走り出した。

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