第69話 一回戦
広い学園には学年別に訓練場がある。
今回はいつもの訓練場より広い闘技場で各学年二試合ずつ行われる。
さらに何ヵ所か大きなスクリーンがあり、そこに試合の様子が映り出されている。
カメラがあるのか?
欲しいんだが……
初代学園長が作ったアーティファクトで学園にしかないとか。
一個くらい貰えないだろうか?
駄目か……
盗むか?
駄目ですか……
エリザお嬢様の記録を取っておきたかったんだけど……
「一学年の一回戦の注目は全勝を宣言したホルスディン様の一試合目!初戦勢いをつけることができるか楽しみですね!」
「……そうですね。第四王子のホルスディン様に以前指導してましたが、剣術も魔法もたゆまぬ努力をしていましたから、戦聖女、慈悲の聖女、勝利の戦姫、聖獣使いの比翼、天才剣士、天才魔法使いと二つ名を持つクラスメイト達との戦いが楽しみですね。」
「黄金世代ですね!その努力がホルスディン様を天才と言わせるのですね!ますます楽しみになりました!二学年のーー」
「ーー」
「ーー」
ただの試験だと思っていたが保護者や関係者達観客がいて、実況者と解説者もいるようだ。
俺の一回戦の注目な対戦はエリザお嬢様対シーラお姉様とスタルード様対リヨンお兄様の対戦だ。
どちらも技対力だ。
エリザお嬢様は総合的に上だけど突貫力はシーラお姉様の方が上だ。
スタルード様は入学してからほぼ毎日俺達の模擬戦を見てたし一緒にやってきたし身体強化もまぁまぁ使えるようになった。
技術面では圧倒的にスタルード様の方が上だ。
どうなるか楽しみだ。
あ、と気づく。
エリザお嬢様と試合が被ると。
「うおおおおお!」
クロッシュ嬢に勝ったホルスディンが勝利の雄叫びをあげている。
なんというか……
格好悪いと思った。
観客もなんか無理して盛り上がっている感じがする。
「やられてしもうた~。」
めっちゃ棒読みっ!
カシュエ嬢がそう言って倒れて気を失ったふりをする。
モモティルナは勝利の判定に飛んで喜んだ後、同じく勝ったホルスディンに駆け寄って抱きついた。
一学年周辺の観客達がざわつく。
二人はやらかしていることに気がついていない。
実況者が進行を促す。
婚約者がいるのにあんなに抱き合うんだから、早く退場してもらいたいわな。
そして、次の試合が婚約者っていう……
気まずそうな実況者さん。
頑張れ、実況者さん。
「今日こそ勝つわ!」
「今日も勝つわ。」
「よろしくお願いします!全力で行きます!」
「よろしくお願いします。申し訳ないけど、速攻で終わらせます。」
「「はじめっ!」」
開始の合図と同時に全力の身体強化をしてアリナ嬢に接近、顎を横斜め下から掌底で打ち抜く。
「あ、れ?」
顔から倒れそうになるアリナ嬢を支え、仰向けに寝かせ首に武器を突き立てる。
「力が入らない。」
「降参してくれますか?」
「……降参します。」
「勝者、ラハートフ!」
「何もできませんでした。」
「すみません。本気を出しました。」
「……はぁ、エリザ様と試合が被ったのが悪かったんですね。」
「『プチクリーン』観戦しましょう。」
「……はい。」
俺と同じく合図と同時に突っ込んだであろうシーラお姉様。
エリザ様と立ち位置を交代していた。
「ラハートフ君もショコランちゃんも速すぎて私には見えませんでした!」
「それを避けるエアルリーザ様は見えているということですね。私でも二人の攻撃を初見で避けれるかどうか、わかりません。」
「なんとっ!元第一騎士団団長のディーガル様にそう言わせるなんて黄金世代と言われるだけありますね!」
次のシーラお姉様の突進、エリザ様が避けた先を縦ロールが突く。
エリザお嬢様は半身になって避けた。
立ち位置が元に戻る。
それから何度もシーラお姉様が突進を仕掛け、エリザお嬢様が華麗に避けるのを繰り返す。
どんどん速くなっていく。
闘牛だっけ?
赤いマント?をひらひらして避けるあれが思い浮かんだ。
エリザお嬢様が槍を上へ受け流してシーラお姉様の懐に入る。
お姉様はお嬢様が何かするのを阻止するため縦ロールを左右から仕掛ける。
お嬢様はショートソードで弾き盾で受け流し、流れるようにショートソードを鞘に納め、持っていた右手でお姉様の手首を掴み盾を自身の背中とお姉様の胸に挟むように構え飛んでお姉様ごと前宙をした。
お姉様が下になったとき手首を離し盾を両手で掴み、足元に圧縮した風魔法を作りそれを足場にして蹴ってお姉様を地面へ押し潰した。
お姉様は縦ロールを地面に突き刺し衝突を避けようとしたが蹴って勢いが乗ったお嬢様に勝てなくどごおおおんと音を立てて衝突した。
土埃が舞って見えない。
魔法で土埃を散らすどちらか。
お嬢様が槍を踏み、仰向けのお姉様の首にショートソードを突き立てている。
シーラお姉様が両手を上げる。
「くっ、降参よ……」
「勝者、エアルリーザ!」
エリザお嬢様が手を差し出し、シーラお姉様が手を掴み立ち上がる。
「大丈夫?」
「大丈夫よ。」
「そう。『プチクリーン』」
「ありがとう。」
「「「おおおおおおおおお!」」」
「なにがなんだかわからなかったけど、すげー!」
「見えなかったけど、すげー!」
「学生レベルを越えているだろっ!」
「まだ一学年だろ?強すぎじゃないかっ?」
「エアルリーザ様の相手はショコラン・フェン・マジルドか。聖獣使いの比翼の片割れか……。婚約者はいなかったはずだ……」
ホルスディン達より盛り上がっている。
そして、ホルスディン殿下の全勝は無理じゃね?と観客は思った。
プチクリーンをかけ、水分補給の飲み物を渡す。
「「エリザお嬢様(エリザ様)、シーラお姉様(シーラ様)、お疲れ様でした。」」
「あなた達もね、お疲れ様。ラハートフ、ありがとう。」
「お疲れ様。ラハートフ、ありがとう。」
三人と一緒に戻る。
スタルード様対リヨンお兄様の試合を観戦する。
ーーーーー
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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