第15話 恋愛経験ゼロ女子による、スーパー恋愛相談っ!


 今日も今日とて100円ショップのミニ三脚にスマホを固定し、画角と顔の映り方を入念にチェックする。私の顔はどちらかというと左側の方がシャープでイケている、気がするので、体の向きは少しばかり右を向くようにしている。



 背景は部屋の白い壁、これが配信者ゆるりの撮影スタジオ、ハリウッドにだって引けを取らない。



 スマホカメラを動画撮影モードにする。口角を上げ、出来るだけ目を大きく開いて録画開始ボタンを押した。



「みなさんどうも!ゆるりんテレヴィのゆるりだよ!今日は!久々にやってきましたこの企画!ゆるりに相談、恋愛お悩み解決コーナーだよ~ん!」



 職業病でつい反射的に拍手をパチパチする。ダラダラしていて撮影開始が遅れ今は深夜2時だから、近所迷惑にならないよう音量には注意していきたい。



「大人気のこの恋愛相談コーナーですが、いつもどおり私の動画に寄せられたみんなの相談コメントにお答えしていきたいと思います!みんなほんと悩んでるね~!でもほんとに相談相手はゆるりで大丈夫そ?何回も、何百回も言うけど、ゆるりは未だかつて彼氏できたことのない恋愛弱者だよ!あ~自分で言ってて悲しくなってくるぅ~ん」



 本当に不思議だけれど、私は彼氏ができたことがない、と大々的に銘打っている配信者にも関わらず、何度も行っているこの恋愛相談企画には毎回山ほどの相談が寄せられるのだ。



 過去に面白いかなと思い自虐ネタとして「恋愛経験ゼロ女子大生が恋愛相談やっちゃうよ!?」という動画を投稿したところ、まずまずの再生数を記録し、びっくりしてその動画のコメント欄を確認すると、まさかの感謝のコメントがたくさんあったのだ。「的確なアドバイスをもらえて前に進めそうです」やら、「ゆるりちゃんスゴイ!私のこと見てるのかってぐらい的確だよ!」やら、とにかく私の言葉は的確らしいということがよく分かった。



 なぜこんなにも的を射たアドバイスができたのか、私自身が一番理由を知りたいが、たぶん恋愛経験が皆無だからこそ余計な感情に引っ張られない客観的な意見をもっているのだと思う。もしくは、恋愛相談なんてほんとは共感して欲しいだけで、テキトーな言葉でも嬉しいものなのかもしれない。たぶんそう。



「しかしながら悩める女の子を今日も全員救っちゃうよん!では一つ目の相談内容にぃ~、いってみよう!」



 手元のスマホを確認し、安東さんがメールで送ってくれた視聴者からの恋愛相談コメント一覧を見る。コメントに対してどんな風に回答するかは準備しない。いつもぶっつけ本番、アドリブに任せることにしている。その方が素の私のリアクションを撮影できるし、視聴者にとっても本当にゆるりと会話しているような感覚になってくれるのではないかな。



「え~と、『マッチングアプリで出会った彼氏にヤリ捨てされました。』おううっ!一つ目のお悩みから深刻なんだけどっ!ええ??なになに、『両想いのラブラブだと思っていたのですが、それは私の勘違いだったようです。クズだったけど私はまだ忘れられず全然好きでしんどいです。』うえ~ん、何てことだ・・・」



 本当に深刻な悩みだった。彼氏もできたことのない私にとっては宇宙よりも想像もつかない世界の話に思える。今この相談者に対して私ができることは、精一杯全力で共感し慰めてあげることだけだ。



「メンタルしんどいのに私に相談してくれてほんとありがとう!もーね、相談者さんが今どこに住んでいるのか分からないけど、こういう話を聞くたびに今すぐ俺が新幹線で走って行って抱きしめに行ってあげたいと思ってしまうよ!クズ男にもてあそばれて、そんな中でも毎日生活しているというだけで偉いと思うので、おいしいものとか食べていっぱい寝てゆっくり休んでください」



 相談者の心情を考えるとちょっぴり涙がにじんでしまうが、グッとこらえて切り替える。



「では!次のお悩みです。『今年晴れて第一志望の大学に入学できて、一女(←大学一年生女子のことです)を全力でエンジョイするぞーって思ってたんですがもう一年も終わりに差し掛かり、未だに彼氏ができません!もうすでに出遅れ??ヤバい気しかしません。ゆるりちゃん何かアドバイスください(>_<)』・・・」



 少しイラっとした。表情に出さないよう必死に笑顔を貼り付けたまま、しかしやはり少しのイライラが消しきれない声で自然と早口になりながら回答する。



「一女になって、一女になってェ、彼氏ができないからって焦ってる方がヤバいと思うよ私はね!私なんて大学四年生になった今現在進行形で彼氏ができてナイんだから、おーい、ここにもっとヤバい先輩がいるよ~!安心したかい相談者さん?まだ一女も終わってないのに焦ったら、負けよ。ていうか遠回しにゆるりいじられてる?いや~ん!」



 一瞬カメラに向かって真顔になる。自分自身のことを真剣に反省するモードに入りかけてしまうところだった。いけないいけない、ここは編集でカットしなきゃな。



「ハイ!次のお悩みは―――」



 こうして部屋で1人勝手に盛り上がったり、悲しくなったりしながら恋愛相談に回答して撮影が終わったのは朝だった。スマホに手を伸ばし録画を停止する。フーっと大きく息を吐きベッドに倒れ込む。ん?何かやり残してる気がする。



 そうだ、動画の最後に流すエンディング用シーンも撮影しとかなきゃ。徹夜でボーっとする重い頭をえいやと起こしてもう一度スマホの録画ボタンを押した。



「ハイ!今日はここまで~。今回も恋愛相談コーナーをお送りしましたがいかがでしたでしょうか!?絶対参考参考になってないよね~、だって本人が何の経験もないんだもの!何回も言うけどさ!ハイ!お後がよろしいようで!今日もご視聴ありがとうございました!チャンネル登録と、SNSもやっておりますので動画概要欄もチェックしてね~、バイバイ!あ!ちょっと待った!」



 危ない危ない、眠気に負けて大事なことを告知し忘れるところだった。ファンのみんなに感謝の言葉を伝えておきたいことがあった。



「今週末はついに!ゆるりに会えるリアルイベント、ファンミが開催されまーす!チケットは完売です~、パフパフ~!チケットを買ってくれたみんなありがとう!当日はゆるりが全力でみんなをおもてなししちゃうぞ~!みんなに会えるのを楽しみにしてるね!じゃっ!バイバイ!」



 さて、ここからが本番開始だ。午前中には動画を編集して、夕方ごろにこの動画をアップしたいから、寝てられない。でも眠たい・・・。ちょっとだけ、ちょっとだけ寝てからすぐ編集しよう。十五分だけ寝ようかな。



 目覚ましもかけずに寝た私は、この後午後三時に目が醒めてプチ発狂するのだった。

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