第11話 エリちゃんもうやめてっ!!
ポイっと捨てる、の言葉に先ほどまで大盛り上がりだった男子3人も一瞬シンと静かになった。その反応と真逆の女性陣は、レイナちゃんが何やら携帯をいじっていて、エリちゃんは「私もう一杯頼むね」とドリンクメニューに目を通している。
私自身はさっき食べた焼き鳥のネギが奥歯に挟まっているのが気になってずっとそのネギを取るべく舌でペロペロ舐めている。
「エリさんホントっすか、ポイっすか」
「そうそう、ポイーだよ♡」
「はっ!!」
「冗談冗談、言ってみただけ~。でも確かに私、尽くすタイプなんだけど相手が完全に振り向いてくれたな~って感じた瞬間冷めちゃうんだよね」
「エリのそういうとこホント凶悪~、これで何人もの男が泣かされてます」
「すげ~な、エリちゃんは魔性の女って感じなんだな」
「直近のポイ聞かせて。」
「一番最近の彼氏?先月別れちゃった人が直近かな」
「めっちゃナウな話じゃないスか!その相手ってどんな方だったんスか!?経済学部の男っスか?」
「エリの最近の恋愛事情知らないなぁ、どんな彼氏だったの?」
「年上だったよ~、人生で一番年が離れてたかな」
「え、何歳差だったのでしょうか??Liste to you!!」
またきたこの感覚。この合コンに参加して既に30分が経過しようかというこのタイミングで私はもう既視感があるよこの感覚は。
きっとまたしてもとんでもない返事がくるフラグ。それではいきましょう、オシャレ綺麗系女子夘野エリさんのニューシングル、『驚きの年齢差』、Here we go !
「何歳差だったかな、相手バツイチの41歳サラリーマンだったよ~」
はいキタァーーーーー!きましたよみなさん、とんでもない発言キタコレ!この女子二人にはもう私の常識ってもんが完全に通じませーん!隣に座っている自分はミジンコ確定ですね!恋愛ミジンコ!二人は恋愛ピラミッド・恋愛食物連鎖のの頂点に君臨する捕食者のみなみなさまです!
あまりの動揺に精神が耐えられそうになかったため、一瞬心がメロディア―ゆるりに入れ替わってしまう。
それにしても、テーブルに座ってすぐは見た目が派手なレイナちゃんの方がたぶん私生活も派手なんだと思っていたけど、現時点でエリちゃんの方が経験の内容の濃さで判定勝ち状態だよ。どういうこと?同年代とお付き合いすることに飽きたらそうなっちゃうの?
私の両親が同い年の47歳であるからして、ほとんどパパと変わらない年齢の男性とエリちゃんは対等な関係を築けたってことなのかしら。ウソだろ、と心の中でつぶやくと同時に高田がマジなトーンで小さく「ウソやろ」とつぶやいていた。今だけは高田と肩を組めそうな気がした。いや、やっぱり無理だ。
「イケおじ(←イケてるおじさん)だったんだ。」
「あ~、顔は伊勢谷友介に似てたかな」
「つまりエリちゃんは年上好きなのか」
「年上だからいいってわけじゃないんだけど、その伊勢谷友介はなんか守ってあげなくちゃって思ったんだよ。会社で疲れ果てて帰ってくるじゃん、抱きしめたくなっちゃう!」
「でもエリ姉御はその伊勢谷友介も、」
「フっちゃった♡」
「うわ、マジ魔性じゃん。」
「相手の男、別れたショックで会社退職したんだよね、悲惨~」
「どこかにいないかな、私が一生本気になれる人、なんちて」
「ちなみにですが、世の男性諸君を代表して私お聞きいたします。エリ殿下はこれまでフった回数とフラれた回数どちらが多いのでしょうか」
「あ~、そうだね。・・・冷静に考えると全部私からフっちゃってる」
「たまんねぇよー!その毒牙に一度かかってみてぇっす!」
「彼氏募集中のフリーですのでいつでもエントリーしてね~、フフフ」
このエリちゃんムーブ、ヤバすぎる。エリちゃんの振舞いは完璧だった。普通ならあんな41歳伊勢谷友介とのエピソードを話した段階でその場は引いてしまってエリちゃんは浮いてしまいそうなものだが、むしろそのエピソードを踏まえたうえで魅力度合が上っている。
男からしたら、俺ならエリを夢中にさせて見せるよ!つってまたエリちゃんに戦いを申し込むのだろう。その時点でもう関係性としては男性よりも一歩リードした状態になるし、何もかもエリちゃんの術中でことが進んでいく。
ドラマで見る魔性の女は、いかにもハレンチな感じで男をとっかえひっかえしているようなイメージだった。そんな魔性の女を見る度、何でこんな女に引っかかるんだよ男は、バカだねえまったく、なんて軽く考えていたが実際の魔性の女は違った。
自分からとっかえひっかえなんてしない。男の方が自発的に、まさにエリちゃんの言葉通り交際を申し込む列に並び出すのだ。
そんなことだから、聞くまでもないがエリちゃんは一年以上彼氏が途切れたことがないはずだ。ゆるり調べ。
「しゃべりすぎて喉渇いちゃった、私の話終わりね~」
「次は吉川さんに暴露してもらう番だな、いいかい?」
「え、いや~」
「結局ラナちゃんが一番ヤバい可能性あり。」
「私もあんまり知らないんだけどそうなの、吉川さん?」
「えっ、なんていうか、その、私はそんな・・・」
さっきから歯を見せた状態でぎこちなくヘラヘラしながら息を吸っているから、スィー、スィーと電話対応でクレームを言われて困っているサラリーマンのようになっている。そうだよね、伊勢谷友介。
なんていえばこの場の空気を壊さずに、人生で今まで一度も彼氏ができたことないと伝えられるのだろうか。言うにしても順番が最悪だ。前の二人が悪い意味で違う系統の恋愛強者であるから、ここで恋愛経験が無いなんて言えば確実に白けてしまうに違いない。
いっそ、ゆるりモードでテンション爆上げモードになってしまおうか。さっきまであまりしゃべらなかった女子が急にお笑い芸人みたいになったらそれはそれで大変な空気になってしまうか?
「吉川は!彼氏、いたことねーよなぁ!」
「高田っ、てめぇ・・・」
何で高田がそんなこと知ってるの?少なくとも小学生時代までの情報しか高田は知らないはずだし、高校生から大学生の間に私がどんな恋愛をしてきたかをすべて打ち明けたのは、高田が絶対に繋がりのない昔の親友数人と、この大学ならチトセとマリアの二人だけだが、チトセとマリアは絶対に私を売ったりしない。だからなぜ高田が私のトップシークレットをしっているのか本当に見当がつかない。
「・・・・・・・」
最初は高田の冗談だと思って笑っていた他の人たちの空気が、否定もせず何も言わない私の方を見て、本当のことであると認識し始めていた。
計画も空しく、高田の無責任な発言によって空気は一気に朝方のスキー場のように透き通った冷たさに変っていく。これ、触れていいのか、みたいな感じになるのだ。
「マジか。」
「ウソー」
「そっか~」
「気にすることじゃないよ、吉川さん」
高田以外のみんなが何とか言葉を絞り出しているのが伝わってくる。そうだね、恋愛強者のみなさまからしたら恋愛というステージに上ってすらいない存在なんて天然記念物並みに信じられない希少生物だよね。
だから天然記念物、そう、トキだと思って優しくしてくれ。私の名前は今日からニッポニア・ヨシカワでいいからさ。
「マジかよ・・・適当に言ったら当たっっちった。テヘペロ」
おまえぇぇぇ!当てずっぽうだったのかよぉ!マジでいい加減にしてぇぇぇ!
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