第10話 ダメ男製造機っ!

 

 ダメ男製造機とは何だろうか。その言葉から単純に考えると、ダメな男を続々と製造するという意味なのだろうか。いや、今この場でたおやかに佇むオシャレ綺麗系女子(これは私の思い付きの造語)、エリちゃんに限ってはそんなことありえない。


「レイナひどいよ~、みんなも誤解しないでね」


 エリちゃんは顔の前で小振りに手を振って否定のポーズを取り、やや困り顔をしながらテーブルに頬杖をついた。相変わらず一々仕草が様になっている。エリちゃんの周囲だけこの安いチェーンの居酒屋がオシャレなbarのように見えてしまうから不思議だ。


「ハイハイ!わたくしめもエリ様にダメ男にして欲しいです!」

「姉さんの次は様になった!フフフ」

「ケンタロウはもう十分ダメ男だから大丈夫だ」

「アハっ、ジュンペイ君も辛辣!ウケる」

「ダメ人間。」

「一言に対してこの猛烈レスポンス!人気者はツラいぜ!でも俺は負けなーい!エリちゃんはどんな男がタイプなのですか!」

「フフフ、ちゃんになった」


 テンションがうなぎ上りの高田はもうテーブルがお腹にめり込みそうなほど体を前傾して、醤油差しをマイク代わりにインタビューをするのだった。まったく恥という概念が欠落しているのではないか、このダメ人間は。


「エリは雑食系だから年下から年上までなんでもOKだよね!」

「雑食系か、エリちゃんはパンダみたいだな」

「ジュンペイもケンタロウみたくなってきやがった。」

「それは、やめてくれ」

「エリちゃんパンダ見て―!もし動物園にいるなら俺毎日通っちゃうよん!」

「もう、動物扱いは嫌だよ~」


 何の話?飲み会の雰囲気が段々カオスになってきた。当たり前のごとく私は口数が少ない(というかほとんど会話に参加できていない)まま皆のテンションだけが盛り上がっていく。ヤバいぞ、またいつものパターンに陥っている。私はよく会話において行かれることがあり、気付いたら黙って会話の聞き役(というと聞こえはいいが、実際はどういう訳か発言できないモード)になっている。


 前にチトセとマリアにこの悩みを告白した時、私はこれを“若者とのジェネレ―ションギャップ”とはこういうことを言うのだろうかと真剣に相談して大笑いされたっけな。



――「ヒドーい!ひと事だと思ってぇ!私真剣に悩んでるんだからね!チトセはまだ

  しもマリアまで!」

――「ごかッ、誤解です!・・・ウへへ」

――「まぁた笑った!もう私は立ち直れません!濃厚たっぷりクリームプリンを買っ

  てくれなきゃここから動けません!」

――「アハハ!買うにしてもここから動かないと買いに行けないでしょ」

――「う・・・買ってきてくれるという親切心・真心を見せて欲しいんですぅ」

――「ごめんごめん買ってあげるから機嫌なおして」

――「ホント!?」

――「さすが、立ち直りがお早いですわ」

―― この二人となら黙ってしまうどころか力の尽き果てるまで話し続けることがで

   きるのに、なぜ他の若者と、特に大人数で若者と話す時に言葉を失ってしまう

   のだろうか。こうして楽しくおしゃべりをしていると本当に分からなくなって

   しまう。ついまた悩みモードに突入し、俯いて考えこんでしまう。そんな様子

   に気付いたチトセが、私のおでこに優しくデコピンを仕掛けてくる。

――「アタッ」

――「ラナはさ、優しいから。気ィ使っちゃうんだよ、自分が言いたいことじゃな

   く、相手が求める言葉を探しちゃう」

――「え??」

――「何でもない、ほらプリン買いに行くんでしょ」

――「行くー!」



 いつかの会話が脳裏にフラッシュバックした。あの時のチトセの言葉の意味を私は未だに理解できないでいる。


「好きなタイプか~、特に決まってないんだけど強いて言えば私がいないとダメだなって思っちゃうような人かな」

「違うよ~!」


 レイナちゃんが小悪魔スマイル浮かべながら、エリちゃんの肩にもたれかかる。私がいつになっても習得できないボディタッチがとても自然に繰り出される。これは男子だったらイチコロなんだろうな。と、また会話に集中せず余計なことを考えている。


「エリは男に尽くして尽くして尽くしまくって、どっぷり依存させて強制的にエリがいないとダメな男をつくる天才なんだよ」

「そんなん最高じゃないですか!エリ姉さん!やっぱ最高じゃないですか」

「依存までいくとちょっと重いけど相思相愛ってことじゃないのかな」

「いや、エリちゃんの本性はそこから。」

「そう、エリは一度自分に依存させたらそこで飽きてポイっと捨てちゃうの!」


 エリちゃんは、相も変わらず穏やかに微笑み、ピーチサワーを飲んだ。


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