第7話 まるごしのへいしっ!
頬が熱い。普段まったくお酒を飲まないのに流されて飲酒しているからに違いない。もしくは今から始まる若者たちの恋愛トークに対する焦りからか。
「いきなりかよ、ケンタロウとばしすぎだろ」
「ま、いんじゃね。」
男性陣の反応は悪くない。そもそも最終的にはそっち方面の話題に持っていきたかったのだろう。
対する女性陣は「ええ~」とか言いながらも拒絶するような雰囲気はない。恐らくこの美女二人はこの手の合コンに慣れていて、またか、くらいのものなのだろう。
そしてこの私はというと、ほんとうのほんとうに、からっきし、皆目見当も男性とお付き合いをしたことがない。女性とも、ない。
生まれてこの方、トークにおけるボキャブラリーの中で、恋愛の引き出しはからっぽなのだ。
マリアやチトセにするような妄想彼氏トークならいくらでも話せるし、配信者ゆるりモードならばむしろその点を強みに面白おかしく喋り続けられる。
しかし、今日のような場ではそうはいかない。たぶん高田以外のみんなは恋愛上級者に違いない。
言葉で上手く表現できないけど、異性ともすんなり話せる感じ、そんな感じ。そんな中で妄想恋愛トークなどしたら、ドン引き確定だ。
「レディースのみなさんは何人ぐらいと付き合ってこられたのでしょうか!?」
「やだ~!」
「恥ずかしくて言えないよ」
「もう一杯飲もうか。」
「いいじゃん!今日こうして出会えたことも何かの縁!隠し事は無しの方向で!」
「そういうケンタロウはどうなんだよ」
「わたくし?わたくしはね・・・10人よりちょっと少ないぐらい」
「多いな~」
「へ~、けっこうやんちゃしてるんだね」
高田の交際人数がそれほどまでに多いとは衝撃的だった。
ありえない。だって少なくとも一緒に通っていた幼稚園から小学校までの期間、高田に彼女らしき存在がいたことはおろか、高田を好きな女子がいた記憶もない。
私が知らない間に高田も“あっち側”の人間になってしまったというのか。
「罪な男さ、俺は。ファンクラブを開設しようか真剣に考えるレベルよ!」
「はいはい。それよかレイナちゃんとかどうなの。メッチャモテそうじゃん」
「高田君に比べたら全然!しばらく恋愛は御無沙汰だし」
「ウッソー!レイナちゃんみたいな美人をほっとくなんて!経済学部の男は猛省すべき!」
「信じられないな、ホントなの?エリちゃん?」
「フフフ、ホントかな~?」
いたずらっぽい表情を浮かべたエリちゃんが意味ありげに微笑む。「ホントかなぁ~」ともう一度言いいながら、テーブルのサラダからミニトマトをつまんでパクっと頬張った。
あれ、目の前に天使がいるぞ。なんでさりげない仕草がこんなに可愛いくなるんだろう。
「何。隠し事あんの。」
「そんなんじゃないってば!もうエリ、余計なこと言うなー」
「私、何にも言ってないよ~」
「レイナちゃん!先ほども言った通り!今日は隠し事無しの方向でいこぉ!さあ!さあ!おせーて下せぇ!」
「直近の彼氏はどんななの。」
ヒゲロン毛までノってきたけれども。
この流れは何だ、何なんだ。これから女子メンバーは一人ずつ過去の男性経歴を白日の下に晒さなければならないのか。
私以外の二人はいいよ、そりゃもう豊富な恋愛ボキャブラリーをお持ちでしょうからね。
でも私は、言うなれば武器を持たずに戦場に飛び込んできた丸腰の兵士、それも歩兵なのだ。
本来一目散に白旗を身に纏いながら全身全霊で後退すべきなのだ。
「ほんとに大したことないけど聞く?」
「どんな些細なお話でも高価買取させていただきますよぉ!」
「買取って意味分かんないよケンタロウ」
いや、待てよ。いくら見た目派手な美女であるレイナちゃんとはいえ、私たちは世間的に見て偏差値67オーバーの高学歴“いいとこ”大学に通う学生なのだから、世間的に見てチャラそうな大学生とは違う。
いくら何でもそこまでぶっ飛んだ経験はないはずだ。そうに違いない。そうであってくれー!
「大したことないけど、大学4年間で6ヵ国それぞれの留学生と付き合っただけ!」
お、お、終わってるぅぅーー!この大学の秩序は乱れ終わっていたんだね!もう私は降参いたしますので、一刻も早くこの戦場から非難させて下さい!
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