第4話 出陣っ!
いつものようにスマホの録画開始ボタンを押す。
「みなさんどうも!ゆるりんテレヴィのゆるりだよ!今日なんですが~、いつもと趣向を変えまして~、気になる男子との初デートで使えるモテメイクをご紹介していこうとぉ、思うよ!」
今日はついに高田に誘われた合コン当日。
決してモテたいわけではないが、せっかくそういう場に参加するのだからいつもとは違うメイクをしようと思った次第だ。動画のネタにもなるし一石二鳥だよね。
「ベースメイク・フェイスメイクと眉毛とチーク以外は終わらせた状態です!ベースメイクとかは普段の毎日メイクの方を参考にしてくれぃ」
まずはアイシャドウに手を伸ばす。
久しぶりに使うからキャップが固くてすぐに開かない。
「ジュピターのアイシャドウを下まぶたに塗っていきますよ~。これはラメのキラキラ感が激し目で、普段のメイクにはちょっと向かないかなって感じ!でも顔の余白がグッと狭まるし、涙袋が一気に印象的なるから気になるあの子におっと思ってもらえる可能性大だよ!」
実際問題として、私が本気のデートメイクを実践したことはない。
なので今から動画で話す内容はすべて机上の空論、絵に描いた餅、空想の産物なのだが、それでも自信をもって話せばそれなりの説得力を持つはず。
少なくとも私のヘビーリスナーは私が人生で彼氏がいたことないことを知っているし、初見でこのモテメイク動画を見る人は何も知らずになるほどと参考にするまでなのだから。
「次に淡いベージュのカラーを二重幅のラインに塗っていきます!しっかりなじませて、そこにパレットの上二つのラメを指で混ぜて、乗せていきます!この混ぜるところがポイントだよ!ゆるりんポイントだよ!何、ゆるりんポイントって、初めて言ってみたけどウケる」
私の持論だけど、世間一般に言われているモテメイクや小悪魔メイクは本当のモテるメイクではない。
あの手のメイクが似合う女子は既にモテている。
つまり元の顔がいい女子がどんなメイクをしようが、どんな変な服をしようがそれはカワイイと評価されてしまうのだ。
それを理解せず真に受けてしまった女子が、それら殿上人たる“元からモテ女子”になれると勘違いしてただ派手なメイク女子になり下がってしまっている!と思う。
私が今提唱しているメイクはそのようなものではなく、本当に一般の女子が真似して失敗しない真のモテメイクなのだ!
のはずだ。
「マスカラも終わりっ!ここまでは基本のモテメイクでよくある行程かもしれないんだけど、みなさまお待たせしました、本日二回目のゆるりんポイントです!キターー!」
大げさに拍手してみる。
他の配信者の動画をそれとなく研究してみたところ、再生数が多いメロディアーたちは動画内で必ず一回は拍手していることに気付いた。ゆるり調べ。
人気者になりたいゆるりちゃんも健気に拍手を動画に取り入れることにした。
「チークを塗るときなんだけど、みんなどうやってる?ポンポンしたり円を描くように塗ってる子が多いんじゃないのかな~。ゆるりがおススメするのは、いったんチークをほっぺに塗った後に鼻から耳に向かって横に一回、口元に向かってナナメに一回ラインを描く!このひと手間加えることで小顔効果も得られちゃいまっせ!」
果たして今日の合コンで、この得られた小顔効果が効果を発揮することはあるのだろうか。
あまり多くは期待しないけど、せっかくならカワイイと思ってもらえたらいいな。
誰に?
「モテモテゆるりん完成~、今日もバッチリゆるりんモード!ご視聴ありがとうございました!チャンネル登録と、SNSもやっておりますので動画概要欄もチェックしてね~、バイバイ!」
いつものように無表情に戻り、録画データがちゃんと保存されているか確認する。
時計を見ると17時だ。大学近くの居酒屋集合が20時だから、18時半に家を出れば間に合うな。
家を出るまでの間に今撮影した動画を編集しよう。いや、やっぱり18時に家を出ようっと。
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