其の三 そもそも異世界感はありません(ドラゴンは除く)
勇者となるのを早々に断念したことについて、さまざまなご意見があろう。
むろん私とて一読者であれば「あきらめるのが早すぎる」「ステータスが表示されない異世界作品も多い」「冒険者ギルドが絶対あるわけではない」「てか、無自覚にグループSNEの影響受けすぎじゃね?」等々、ツッコミをいれまくっていたであろうことは論を
しかし、それを重々承知のうえで私はあえて声を大にしてこう言いたい。
他人事だと思って好き勝手言ってんじゃねーぞ、ばーか!
──と。
考えてもみていただきたい。
こちとら数多のラノベ作品のごとく「RPGみたいな世界でチートスキル持ちの勇者として無双」できるもんだとばかり思っていたのである。
だからこそ、勇者などという戦いの中にその身を晒すような、危険極まりないボランティア活動にも積極的に参加する気にもなったのだ。
ああ、それなのに!
〽レベルもねえ、スキルもねえ
モンスターもそれほど走ってねえ
ギルドもねえ、冒険者もねえ
荘園主毎日ぐーるぐる
魔法もねえ、ステータスねえ
生まれてこのかた見だごとアねえ
父ちゃんと、母ちゃんは
畑のなかで餓鬼つくる
俺あこんな異世界やだ 俺あこんな異世界やだ
ド●クエさ 行ぐだ~
思わずこんな替え歌を口ずさんでしまうくらい、この異世界は私がもとめていた異世界とはぜーんぜん様相がちがうのである。
はっきり言って、こんなラノベ感もなければゲーム感もない、いやそれ以前に「剣と魔法の世界」というわりには剣も魔法も見当たらず、はるか上空を豆粒大のドラゴンが飛翔する姿を時どき見かける他はファンタジー要素すら皆無という、ガチもんの中世っぽい世界であるとわかっていたら最初から転生なんぞ断わっているのである
……いやまあ、あのまま事故死したまま消滅というのもあれなので、さすがに断りはしないかもだが。
しかし、すくなくとも、もう少しマシな環境──賢者に拾われて孫になるとか、貴族の八男坊として開拓無双するとか、なんだったらスマートフォンの持ち込みOKだとか──で生まれることができるよう、各種条件についてミリミリに詰めるくらいのことはできたはずだ。
にもかかわらず、あの女神はこちらの誤解を正そうともしなかったばかりか、叡智と言う名の甘言を弄して異世界へと広義の強制連行をしやがったのだ。
なんという悪逆。
なんという非道。
まさに人面獣心……いや、神面獣心の悪行である。その悪辣きわまる所業は、よもや女神を騙る悪魔であったのではないかという疑念すら覚えるほどだ。
だが、しかし。
こうして転生し、物心もついて新たな人生を歩み始めてしまっている以上、いまさら詐欺だ悪徳商法だクーリングオフだと騒いだところで詮無いこと。
異世界転生にカスタマーサービスや、消費者相談窓口があるわけでもなし、よって女神が再臨して詫び石を配布することもないのである。
ならば文句をならべたてたる暇があるのなら、今後の身の処し方でも考えたほうがよっぽど建設的であろう。
なにしろ勇者への道をあきらめたからと言って、それすなわちこのまま農奴として生きていくのを潔しとしたわけではないのであるから──
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