第一章 余は如何にして勇者を諦めしか
其の一 ステータスが出ないのは仕様です
さて今でこそ盗賊団のリーダーに身をやつしている私であるが、むろん最初から悪役プレイをするつもりで転生したわけではない。
この世界の強国であるファングランド王国の片田舎、テンセイ村の農奴カクの子イッチ──冗談のようだが今生における私の名だ──として生まれた当初は、ちゃあんと青雲の志をもって乱れた世を糾す正義の勇者を目指していたのである。
それがなにゆえ
長い話ゆえ成り立ち一条は略すが、強いて言うなら、命と命がかち合って火も水も出たくせに、異世界転生のお約束ともいうべきあれが出なかったことから、すべてのボタンの掛け違いがはじまったのであった。
※
忘れもしない、三歳のときだった。
盥のふちに射していた日の光を見ていた記憶とかはべつにないので、おそらく物心をついた瞬間ではないかと思われるが、私は突如として前世の記憶をとりもどしたのであった。
はっきり言って驚いたってもんじゃない。
ついさっきまで自分のなまえと家族の存在くらいしか認識していないような幼児だったのに、いきなり自意識が四十絡みのおっさんになったのである。
その混乱たるや、経験した者にしかわからぬだろう。
だが、いったん落ち着いてしまえば、なんてことはない。前世の私も、今生のイッチも、等しく自分であると存外すんなり受け入れることができた。
むろん、生前……いや前世か、異世界転生もののラノベやアニメを嗜んでいたというのも多分に影響していたとは思う。
すくなくとも自分が転生者であると自覚するなり、さっそくステータスの確認をしようとしたのは、それら作品の影響であることは否定できない。
そのようなわけで、私は期待に胸をふくらませつつ、幼い手をぐっと前へと突き出し、まだあまりうまくまわらない口で声高らかに叫んだのだった。
「
はたして、私の目の前には名前とレベル、各種ステータスと保有スキルが記されたウィンドウ画面が──
表れなかった。
目一杯ひろげられた幼い手のひらの先にあるのは、青々と実る麦畑をバックに、放し飼いにされた豚のつがいが、せっせと交尾に励む姿であった。
(……うん、まああれだ。コマンドがちがうとか、そーゆーのだな、これは)
そう自分に言い聞かせながらも、私はどうにも嫌ぁーな予感がするのを抑えきれなかった。
そして、その予感は的中することとなる。
「ステータス・ウィンドゥ、オープン! スキル確認!」
「ステータス表示! スキル・ツリー、オープン!」
「いでよステータス! そして我がスキルを表示したまえ!」
なにをどう叫ぼうとも、ステータス画面が表示されること、終ぞなかったのである。
(なぜだ? なぜ、ステータスが表示されないんだ?)
今にして思えば、この時点で自分がおかしているとんでもない〝勘違い〟に気づくべきであった。
だが、残念ながらこの頃の私は完全なる〝ラノベ脳〟だった。
よって、諸々の状況から導き出した結論はと言うと──
(なるほど。ここは冒険者カード方式の世界なんだな!)
……とまあ、おおよそいい年齢こいたおっさんがたどり着かないような、厨二感溢れるものであったのだった。
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