第5話 託されたもの



「今は時々聴いてるよね」


「うん。

ある時テレビで、久しぶりに尾崎を見てね。

それで、また聴いてみたんだよ」


お父さんは口元に指を当て、何か考えながら

しばらく黙っていた。



「えっと… ちょっと難しい言い方だけど

“ 別れても託された想いは生き続ける “

と言っていた作家がいたんだよ。


やっぱりこの言葉が、一番しっくりくるな、と思う。


例えば、転校した友達と、遊んで楽しかった思い出。

前の担任の先生から教えてもらって、今でも覚えていること。

夏休みにおじいちゃん、おばあちゃんに

連れて行ってもらった遊園地とか。



遠くて、なかなか会えない人も、

転校して、今は会えない人も

そして “ もう会えなくなった “ 思い出も。



寂しいなぁ、と思う気持ちが消えることは

ないのかも知れない。

そんな時は

その人が一緒にいた時、何を残そうとしてたのか

それを考えるようにしてるよ。


楽しかった思い出

一緒に見てたもの

分かってくれたこと

側にいてくれたこと

教えてもらったこと

そしてその人の存在がいたということ

そのもの


それを大切に覚え、想い返す事で

その人は

残された人の中で、生き続けて

我々と出会い、生きていた意味を持ち続けるのだろうね 」




シロのリードが、壁にかけられてる事に

気づいた。

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