第11話

 お父さんとのやり取りは呆気ない程にあっさりと終わった。



 父曰く、無理して仕事をしているのならやめておきなさい、身体も心も擦り切れてしまうぞ。


 との事。



 何気に私の事を心配して見ていたらしい。


 けれど私が何も言わずに仕事を淡々とこなしていたので、言い出せなかったようだ。



 と、言う訳でモデルの仕事も既に組んでいる予定をこなした後は、暫く休止する事が決定している。


 何故モデルの仕事だけを休止と言う形に収めたかと言うと、私の精神を圧迫する程のスケジュールは、今迄も組まれていなかった事と、こなたの興味が服飾関連にあった事から、こなたの将来の仕事のコネの為にも、この繋がりはあっても困らないのではないかと考えたからだ。



 決して容易い道ではないけれど、それでも少しでもこなたの将来への歩む為の支えに成れば良い。


 そう思うのだ。



 それから1ヶ月程を掛けて、全ての業務を終了させた。



「お疲れ様でした。そして皆様、大変お世話になりました」


「織姫ちゃん!何時でも戻って来ていいからね!」



「………宮城さんもお疲れ様でした」


「お、織姫ちゃん!?」



「はぁ、ウチの社長が本当にごめんなさいね。お疲れ様でした一ノ瀬さん。会社ウチの事は気にしないで、ゆっくり休んでね」


「ありがとうございます、宮城さん」



「み、宮城!?」


「はぁ、社長が悪いんですよ。あの後、無理矢理仕事ねじ込もうとするから」



「暫くは顔も見たくないですね」


「織姫ちゃん!?」



「まあ、こんな人だけど根性があくどいだけで悪い人ではないから、珠には顔見せしてよ」


「根性が悪どいって、性質の根本から悪って事なのでは……まあ、良いですけど、宮城さんの顔を立てて顔ぐらいは見せますよ。珠にはですけど…」



 こうして、私の芸能生活は幕を下ろしたのでした。



「織姫さん!辞めちゃうって本当なの!」


「先輩!辞めないで下さい!」


「先輩は私達の憧れで目標なんです!辞めないで下さい!織姫先輩!」


「織姫さん。折角一緒に仕事やれ始めたと思ったのに…」



 帰途に着こうとしていたら事務所から出る間に事務所所属の方々にくちゃくちゃにされながらも何とか脱出に成功した。



「ふぅ」


「お疲れ」



 唐突に気が緩んだ後ろから声をかけられビクッとしてしまう。



「遥…お疲れ様です」


「何か花束とか凄いね」



「…そうですね」



 そう言って私が抱えている花束を奪うと自分の持っていた一輪挿しの薔薇を手渡してきた。



「姫には万の花束より可憐な1輪の薔薇が良く似合う」


「また、口説きに来たのですか?」



 因みに、遥は今、シンガーソングライター兼編集部員なる者?をミュージックレーベルで行っている。


 とある仕事でコーラスの代打をしていた時にそのレーベルの方に目をつけられたらしく、親友繋がりがバレた遥に引き抜き司令が発令されていて、この1年余り仕事と称して良く遊びに来ていた。



 食事代も経費として落とせる美味しい仕事だと遥は喜んでいた。


 なので、珠に移籍は無理だが、時々遥が受け持つイベントに参加していたりしていたのだ。



 だけど、今回は何処で聞きつけたのか私が事務所を脱退する情報を聞いて、これ幸いとミュージックレーベルが本腰を入れて移籍の勧めをしてきたのだろう。


 だけど、遥には申し訳ないが、暫くの間はコロビアンコオンリーの予定なので移籍する気は毛頭無いのである。



「まあ、そうと言えなくもないのだけど、今日は純粋に姫のお疲れ様会を友人代表として、ね」


「あら?ならば、今回は遥にエスコートをお願いしましょうか?」



「姫の為なら喜んで」



 そう言って恭しく自分の胸に手を当てる遥。



「きっと延々と愚痴を披露する事になりますよ」


「うへぇ〜、そりゃ勘弁」



「あら、遥が言い出したんですよ?今回ばかりは逃がしませんからね?」



 こうして、今迄の仕事の鬱憤を切々せつせつと懇切丁寧に打ち明ける中、けていたさらけてくのであった。




「うへぇ〜」










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