第2話 第一章


『桜舞い散る麗らかな春の日に、今日こうして私達の為に…』



 皆様、こんにちは。


 一ノ瀬こなたです。


 私は今日、小学生になりました。



 ザワザワ



「奥さん、彼処、みて」


「あら、やだ織姫ちゃんじゃない」


「あ、本当だ。ヤバい可愛い」


「うそ、織姫って子持ちなの?」



 ザワザワ


 キャーキャー




 私は今、何故だか男子を差し置いて、新入生代表に選ばれ、代表挨拶をしている訳なのですが、なにやら周りが若干騒がしい…こほん…何だか落ち着きが無いような。




 まあ皆、小学生だから落ち着かないのは、しょうが無いのかな?


 ……ダジャレじゃないよ?




『これを持ちまして、挨拶にかえさせて頂きます。新入生代表、一ノ瀬こなた』




 ママと2人で考えたスピーチを何とか緊張を抑えて読み切った。


 本当はママにもこの勇姿をみてもらいたかったなぁ。



 でもお仕事で忙しいママに無理は言えない。


 ママ、こなたの為に直ぐ無理するから…。


 もっと自分の事を労わって欲しい。




 パチパチパチ


 そんな事を考えて話していたら、拍手の音で我に返る。



 あ、お爺ちゃんとお婆ちゃんだ。満面の笑顔で拍手してくれてる。



 ……あれ?その隣にいるのって!



 マ、マママだ!ママ来りゃれたんだ!




 嬉しくなって、思わずぴょんぴょんと壇上で跳ねたくなるのを必死に押さえつつ、心を落ち着かせながら壇上から降りる寸前で軽くママに手を振るとママも振り返してくれた。




 嬉しい。


 とても嬉しい。




 ママは、こなたの本当のママじゃないけど、でもいっぱい、い〜っぱい愛情を注いでくれた優しいママ。



 色んな事を教えてくれた。



 ママが卒業した学校に入れたのもママが一緒に勉強を見てくれたから。



 だから、ママが今日来てくれてとっても嬉しい…。


 けれど、また、こなたの為に無理しなくて良いのにと言う思いもある。



 そんな二律背反な思いを抱え、入学式は滞り無く過ぎて行く。




『以上を持ちまして、第84回、光が丘学院、初等部の入学式を全て終了いたします…』




 ◇



「お祖母様!お爺様!お待たせしました!」


「おお、来おったか」


「ふふ、相変わらず元気ねぇ」



「ママ!」


「なあに?」



「来てくれて、ありがとう!でもまた、こなたの為に無理して来てくれたんじゃないかって心配だよ」


「あら?これでも、この数年で業界のノウハウは身に付けたつもりですよ?効率良く仕事を熟すのなんて訳ないのです。

 それに、こなたに心配させる程、私はそんなにヤワじゃないですよ」



「なら、良いけど…ママって時々辛いの隠すから、あんまり信用出来ないよ…」


「社会人、と言うより、世の中、辛い事も理不尽な事も、だらけなのですよ。気にしてたら逆に身が持たないです。

 社会とは人です。こなたもこれからの社会で色々な出会いがあるでしょうけど、それなりに覚悟しておいた方が良いですよ」



「姫ちゃんったら、こなたちゃんは小学生になったばかりなのだから、そんな世知辛い話を聞かせないでよ。ねぇお父さん」


「そうだぞ、織姫。こなたちゃんは、これからあらゆる事を無限に挑戦できると言うのに、挑戦する前から社会の闇を聞かせていたら、こなたちゃんが夢を見れなくなるだろう」



「お爺様、お祖母様、ママを叱らないで!きっと、こなたの為に言ってくれたんだよ」


「こなたちゃんは優しいんだな。いい子いい子」



 そう言ってこなたの頭を撫でる祖父。



「本当にいい子ねぇ。姫ちゃんも、こなたちゃんに習って、もっとデリカシーと言うものを覚えた方が良いわよ?」


「はいはい、悪うございましたね、デリカシーが無くて」



「あら、姫ちゃんったら今頃反抗期?10代の頃に1度も無かったから、手が掛からない子なのか思ってたら、随分と遅れてやってきたのねぇ〜反抗期」


「いや、なんでよ!」



 そんな他愛の無い、それでも仲の良い家族の会話を隣で聞きつつ、私達は私の入学お祝いに家族揃って外食する為に歩き始めるのだった。



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