第5話 始まり
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「はぁ……!はぁ……!はぁ……!」
少女は鬱蒼とした森の中を走り続けていた。夜の森は暗く、一寸先ですら見えない。故に。少女は露出した木の根に足を取られ、派手に転んでしまう。
「あっ!?」
ガサガサと草むらに転がり突っ込んだ少女は枝葉に肌を掠めてしまい、傷が増え、痛み故に悲しみ故に少女の顔は歪んでしまう。
「ってて……。」
地面に手を付き、立つ気力も湧かない少女。背後からは魔物が迫ってきていると知っているのに、途端に必死になって逃げ回る自分が馬鹿らしく思えたのだ。
(なんで逃げてるんだろ……。生きて行く術すら持ってないのに……。)
ガサッと背後の草むらから現れるは魔物。
半分の顔に細長い手足、体から突き出た骨に、細く短い足。欲に堕ちた人間の醜い姿……下位魔物。
「キョロロ!!キョロキョロロ!!?」
光のない虚ろなその瞳は少女を捉えており、首をカクカクと傾けては、ゆっくりと少女へ近づいて行く。
「ひっ!」
少女は下位魔物を前に怯え、後ずさるも背後に逃げ場などない。
「キョロ!!キョロロッ!!」
跳びあがる魔物は、少女を掴もうと細長い手を組み振り上げる。
少女の頭に浮かぶ'死'の文字。泣き出しそうになる少女はなぜ自分が逃げているかを思い出した。
(あたしは……)
頭を過ぎるは助けてくれた人達の無惨な死体。ギリッ!と歯ぎしりをした少女は、その赤い瞳を見開き叫ぶ。
「生きるんだ!!」
跳んだ下位魔物の下をかいくぐり、転びながらも逃げ出す少女。
「ギョロ!?」
ガサッ!と草むらに突っ込んだ下位魔物など見ずに、道無き道をガサガサと進み続けた。
(あたしは……!あたしは死にたくないんだ……!)
歩く度に傷が増えて、痛みで泣き喚きたい思いでも、少女は逃げ続けた。必死に逃げて逃げて逃げ続ける内に少女は確かに嗅ぎとった。
(何かが燃えてる臭い……どこから……?)
辺りを見回すも暗くて見えない。しかし、緊迫した状況で少女は僅かな希望を抱いてしまう。
(もしかしたら焚き火の臭いかもしれない……!)
'人'居るのだ……と。
しかし、その希望は同時に悲哀へと変わる。再び自らを助けてくれた人達の無惨な死体が頭を過ったのだ。
(あたしはまた……誰かに迷惑をかけるの……?)
「キョロロ!!?キョロッキョロッ!?」
ガザガザと少女を追いかけて来る下位魔物。その存在を把握し、ジワジワと涙が込み上げてしまう少女は、やむを得ず決断をする。
(ごめんなさい……。あたしを……助けて……!)
走り出した少女は直ぐに口を開き、どこから来る臭いか分からない為に出来る限り最大限の声で叫ぶ。
「助けて!!」
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「っっ!!」
月が真上まで登った真夜中。
バチッと目を開き、バッ!と素早く起き上がった黒は、立て掛けてあった'簡槍'を手に握り周囲を確認する。
樹上の為、辺りに害をなす存在は居ない。しかし黒は注意深く周囲を探り、本当に害をなす存在が居ないかを目を見開いて確認する。
(感覚で分かる……。何かが近付いて来ている。)
息を吐きながら、目を瞑れば周囲の音に耳を傾けると、ザワザワと風に揺れる木々の葉に、リーリーと鳴く虫の声が聞こえた。そして……
--助けて……!!
まだ幼さの残る女の子の叫び声であった。
「……人?こんな森の奥に?」
黒は警戒度を一気に跳ね上げた。下手な動物よりも人間の方が危険であると理解している為である。
(なんでこっちに俺が居ると……あぁ……。焚き火の臭いか。)
すんっと鼻をくすぐる臭いを嗅げば黒は納得する。
そっと地上を覗いた黒の目に映るは、燻っている焚き火。枯れ木に火が燃え移るまで枯葉などを投下した為に、臭いが周囲に充満していてもおかしくなかった。
(と言っても、完璧にこちらの位置が知れている訳じゃないだろう。)
簡槍を握る黒は迷っていた。
(助けるか否か……。)
'助けて'と言う事は、その者に何らかの危機が降り掛かっているという事。
「爺ちゃん。イレギュラーだ。こういった場合はどうする?」
どこかに居る祖父へ向けて話しかける黒であるが、返って来るは沈黙。
「チッ。続行ね。はいはい。」
既に黒の中で、助けるか否かは決まっていた。
「現地で得られる情報は人間からでも可。有難いな。」
黒は八メートル樹上より飛び降りて受身をとり、体にダメージなしで着すれば、即座に声の方向を向き'簡槍'を構える。
「おい!こっちまで走って来い!」
黒は今も尚「助けて!!」と叫ぶ者へと向けて声を上げた。真っ暗で遮蔽物のある森の中ではなく、月明かりに照らされた開けた地の方が断然良いのだ。
少女は聞いた。低く威圧的な男性の声を。
(やっぱり人が居た……!)
喜びで泣き出しそうになる少女であるが、同時に迷惑をかける事実に顔を唇(くちひる)を噛んでしまう。しかし、助かりたい思いもある為に、少女は助けを求める声を止め、走る事に集中した。
「はぁっ……!はぁっ……!はぁっ……!」
なけなしの体力全てを出し切るかのように、少女は黒の声の方向へと向けて必死に走る。
呼吸は荒く、疲労が走る事を拒み、全身が枝葉に掠ると増える傷。それでも死にたくないと言う彼女の強い思いが無理矢理その体を動かしていた。
(早く来い……!)
逃げるのに必死である子供を助けに行きたくなる黒であるが、その思いをグッと堪えていた。
(助ける者は万全の体勢出ないとならない。下手に行っても無駄な負傷を受けるだけ……。)
鋭くなる黒の目は、暗闇の奥を見据えていた。
黒は対処をしやすい様に軽く腰を落とし、簡槍を構えては、戦闘の姿勢をとった。
暗闇の奥を見据え、ドクンッ!ドクンッ!と脈打つ心臓を落ち着かせては常に冷静を保つ。
精神は凪。
天災婆と対峙する時の黒である。
(来る……!)
ガサガサと言う音と共に、月明かりの元へと姿を現すは、銀髪赤眼の少女。
月明かりに照らされた綺麗な銀髪は束ねられ、肩まで届くポニーテールが激しく揺れていた。他者を引き込む妖しい赤い瞳。身長百五十七くらいの少女。
思わず抱き締めてあげたくなるほど可愛らしい少女であるのだが、黒の頭には疑問が浮かび上がっていた。
(森を行く服装じゃない……。)
少女の格好はボロボロで、しかも裸足。白く柔そうな肌は、枝葉に擦れた傷が赤く目立っており、血が流れている箇所も見られたのだ。当然、黒は眉を寄せてしまう。
(なぜ子供がこんな森の中をそんな格好で逃げているのか、なぜそんなにも悲しそうな顔して俺を見るのか、なぜ血が出る程、唇を噛み締めているのか。分からない事だらけだな。)
一目見ただけでも少女は面倒事を背負っている事が知れた。
(それに銀髪赤眼?髪も瞳も天然ものだな?爺ちゃん婆ちゃん……まさか海外に俺を放置した?いや、だとしてもこの子供日本語を喋ったし……。)
黒が思考を巡らせ、結果'銃'と言う単語が浮かび上がっては、少女を追っている存在への警戒度を跳ね上げる。
「ぁっ!?」
あと少しで黒の元に辿り着けるところで安堵故か、少女は気を抜いてしまい最後の最後で足がもつれてしまう。
地面へ手を伸ばすのが遅れた少女。痛みが来ると思い、目を強く瞑ったものの、痛みとは程遠い人の温かさだった。
黒が転んだ少女を左手で支えていたのだ。
「名前は?」
黒の鋭い瞳が、少女の来た方向を睨む中、少女は尋ねられては、開きかけた口を閉じてしまう。
「名前は……。……。……ない。」
「ない?」
「色々とあってね。それより、君って強い?」
少女は強がっていた。
本当は助かるかもしれない事実に泣き出したい思いであるが、自分が取り乱して居ては、更にお荷物となる事ぐらい理解していたのだ。
「黒だ。安心しろ、俺は強いぞ。」
黒は少女に名前がないという事に疑問を抱いたが、少女を追っている存在の警戒を薄める程の事ではないと見て、自立した少女を自らの背後に立たせる。
「自分で言っちゃうんだ……。でも、心強いや。」
少女の赤い瞳が来た方向を鋭く見据える。
「追手はなんだ?人間か?動物か?」
ガサガサと森の奥から何かが迫って来ている。
「どっちでもあって、どっちでも無いかな……。」
「……ぁ?それってどういう……。」
聞き返そうとした黒はしかし、ガサッ!と飛び出し、月光の元に現れた生物を見ては、目を見開いた。
「っっ!!……嘘、だろ……。」
黒の見開いた瞳に映る五体の生物は醜かった。全身が黒い瘴気に覆われて、体の各所から骨らしきものが突き出ており、か細く短い足に、細長い腕。そして、半分しかない人間のような顔。
「キョロロォォ……??」
(映画か?でも演技じゃなさそうだ。それに……この声。昼間っから聞こえていた声の主はこいつだったか。作り物でもなさそうだし、映画じゃないな。)
黒は簡槍を握る手に力を込めた。目の前に居る未知の生物は、あまりに不気味過ぎたのだ。
(妖怪とかの類か?信じた事はないが……実在したんだな……。)
「ね、ねぇ。大丈夫?」
少女は簡槍を構え、警戒したまま考え込んでいる黒を心配し、不安を抱いてしまう。
(やっぱり……五体は多かったんだ……。)
少し落胆する少女は若干諦め始めていた。
(この人が死んじゃった時……あたしも……。)
思考がズルズルと悪い方向へと向かう少女。そんな少女に向けてついに黒は聞いた。
「なぁ……あれはなんて言う妖怪だ?俺あまり詳しくねぇんだが、物理って食らうと思うか?やっぱり塩か?あ……十字架か?」
「……は?」
「……ん?」
「キョロ……。」
時は止まり静寂が訪れる。
少女は思う。(何言ってるんだろ……この人。)
黒は思う。(俺なんかおかしいこと言った?)
魔物は躊躇する。(跳びかかっていい?)と言わんばかりに。
「だから……その……あれはなんだ?」
気まづくなった黒が、魔物を指さしながら少女へと尋ねると、少女は唖然としていた。まさか、魔物が徘徊する森に居た人が、魔物を知らないとは思いもしなかったからだ。
「君……。黒って、魔物を見た事がないの?」
「マモノ?どういう妖怪なんだ?」
「妖怪ってなにさ?魔物だよ!?ま・も・の……!」
「……???」
「……ぁ。やばい。頭が痛くなってきた。」
ただでさえ疲労の溜まっている彼女は、頭痛を覚え頭を抑える。黒が冗談で言っている事を願いつつも、その時には先程までの不安などは消えており、逆に黒へ対する心配でいっぱいになっていると少女は気づく。
(もしかして……あたしの不安を和らげようと……)
「……。マモノ……マモン……悪魔?」
(絶対にそうだ……!そもそも魔物知らない方がおかしいもん……!)
下位魔物を警戒しながら首を傾げた黒を見て、確信した途端におかしく思う少女。緊迫した状況であるにも関わらずくすくすと笑ってしまう。
「……。……なんで笑ってるんだ?」
黒は動揺していた。自分は至って真面目な質問をしているというのに、少女は突然笑いだしたのだ。
(……。暗い森を傷だらけになりながらも、こんなのから一人で逃げて来たんだ。ネジの一本や二本、外れていてもおかしくないか。)
途端に悲しそうな顔をした黒を見ては、少女は更に笑ってしまう。
「もう大丈夫だよ……!不安は消えたからさ!」
「……そうか。それで、マモノってなんだ?」
「……え?」
ようやく少女は察した。
(この人……本気だ……。本当に魔物を知らない人だ!?)
「森を走って疲れてんだろ?一度落ち着いてからでもいいから。」
(しかもあたしが頭おかしい子として見られてる!?)
優しさに染まる黒の顔と、驚愕に染まる少女の顔。
「キョロロォォッ!!」
そして、ついに痺れを切らした一体の魔物が黒へと跳びかかる。
しかし、黒の瞳が少女へ向けられている最中であっても、魔物の動きを見過ごす程、黒は警戒を解いていなかった。
「ふっ!」
跳び上がり宙に浮く物体などただの的。襲いかかる魔物の横腹に簡槍の柄を打ち付けると、その体はくの字に曲がり、勢いよく地面に打ち付けられる。
「キョロォッッ!?」
じたばたと暴れる魔物は、体への衝撃が強すぎたのか、狂った叫び声を上げた。それを見て目を細めた黒は少女に尋ねる。
「これって殺した方がいいやつ?」
それは至って真面目であった。
殺生に関しては祖父母から耳にタコが出来るほど忠告を受けていたからだ。故に、心臓を貫かずに薙ぎ払ったのだ。
「大丈夫……だけど……。」
少女は驚いていた。
自分が瞬きして開く頃には地面でもがき苦しんでいたからだ。
「そうか。分かった。」
くるっと簡槍を回転させた黒は、簡槍を縦に持ち、石突にて魔物の心臓を穿つ。
「キョッ……ロロ……。」
じたばたと僅かに足掻いた魔物はしかし、脱力し、くてっと地面に横たわる。
(近くで見て分かったが……人間の'ような'半面じゃない……'人間'の半面だ……。)
目を細めて魔物の死体を観察する黒は、簡槍を引き抜き、再び視線を他の魔物へと向けた。
(もし、そういった妖怪なら……タチが悪いな。)
構えられる簡槍。それを本能で恐れたか、魔物らはジリッと後退した。
(おかしな人だけど……強い……。)
少女が黒を見てその様に理解するのはすぐであった。
動きは洗練されており、殺生後の冷静さも、今この時でさえも警戒を怠らない黒の姿は、その道を歩き続けている者であった。
「き!気を付けてね!?」
少女が注意した直後、黒はスッ……と動き出し魔物との距離を詰め、簡槍の尖端にて心臓を一突きする。
「下位魔物は一般男性二人分の強さと言われ……」
一突きしたまま魔物の体を持ち上げ、別個体の魔物に向けて打ち付けた後、簡槍から手を離し、握った拳で驚いて硬直したままの魔物の腹を殴り、上空へ飛ばした。
「て……るはずなんだけど……。」
落ちてくる魔物の体を、黒は容赦なくドカッと蹴り飛ばした。木に打ち付けられ崩れ落ちた魔物は、衝撃で体を動かせず、ピクピクと痙攣してしまう。
「キッ!キョロロッ!!」
あっという間に四体がやられたからか、身の危険を本能で察したからか、残った一体は黒へ襲いかかる事なくガサガサッ!と慌てて茂みに去っていく。
「……それで。下級魔物ってなんだ?」
少女は絶句していた。
如何に強くても油断したら殺られてしまうだろうと思い注意しようとしたのに、既に黒は二体目を殺し、三体目と四体目を行動不能にしていたのだ。
(凄い……。四体を一瞬で……!)
「キョ……キョロ……。」
瞬時。黒の足が伸び、木にもたれかかっていた魔物の頭が潰される。
「その前に、早く楽にしてやらねぇとな。」
簡槍を手に取った黒は、行動不能の魔物の心臓を刺し、絶命させて行く。
(……。……生態がよく分からないからな。少し申し訳ないが……。)
黒は魔物の死体を刺して持ち上げては、一体、また一体と茂みの奥に放り投げる。
「……。……それで?これらはなんなんだ?」
作業を終えた黒は振り返り、自分を赤い瞳で見つめる少女を見た。
「……まず、黒の言う妖怪?が何かはよく分からないけど、あれは下位魔物っていう、自らの欲に溺れ理性をかり取られた生物で、元々が……'人'だったんだよ。」
「元……人だって?」
黒は脳に刻んだ下位魔物の姿を思い出しては、顔をしかめる。
(……見てて不快になった訳だ。)
「それで?なんでそんな生物に追われてたんだ?それも、こんな森の奥まで。そのなりだ、まさかピクニックでっていう訳じゃないだろ?」
「……。……その。」
黒から目を逸らした少女は言いづらそうであった。
(……今聞く必要はないか。)
「……。朝になったら送ってやる。それまで休んでけ。」
「……。……うん。ありがとう。」
しかし、言葉と裏腹に少女は少し暗くなる。
'帰る場所はない'という事を伝えなくてはならないからだ。そして、それを話すという事は、自分の身に何があったのかも話さなければならない。
故に。
「でも、あたしは大丈夫だからさ。助けてくれてありがとう!また」
この場から去ろうした。
「いや。行かせる訳ないだろ?」
当然、黒が行かせるはずがなかった。
夜の森がどれだけ危険かは、祖父との修練の過程で嫌という程理解させられているからだ。
「その……迷惑かけるつもりはないから。」
「迷惑とかそういうのは無しにして、放って置ける訳ないだろ。」
「っっ!!」
瞬間。少女の頭を過ぎるは今まで助けてくれた人達。彼らもまた、少女を助ける時に言ったのだ。「放って置けない」と。
「……黒も。そう言うんだね。」
「……ん?」
「……うぅん。何でもない!」
作り笑いをする少女は、黒に期待を寄せていた。
(この人は強い……。だから、大丈夫。少しくらい厄介になっても……たぶん。大丈夫……だよね……。)
「じ……じゃあ。少しだけ……良いかな……?」
心配そうな少女の赤い瞳が黒に向けられる。
「あぁ。こっちも聞きたい事がある。答えてくれるなら願ったりだ。」
「ぁ……はは。一ついいかな?」
「ん?」
「ここの森の名前って知ってる?」
「……。ウッソーの……森……。」
「うっそ……。」
黒の気まずそうな回答を聞いた少女は察する。きっと彼からの'聞きたいこと'は、頭痛を伴うものであると。
「と、ところで、木登りは得意か?」
話を切り替えるように黒は少女へ尋ねた。
「……ぇっと?」
突然聞かれた質問に少し驚いた少女は目をパチパチすれば思う。
(そう言えば……拠点らしき物が見当たら)
見上げた瞬間、少女の顔は青ざめてしまう。その赤い瞳に映るは、樹上にある拠点らしき明らかな人工物。次第に顔が引きつって行く。
「もう一つ聞きたい事が出来たんだけど……。」
「なんだ?」
「なんであんな高い所に?」
一拍。黒は答えを探した挙句。
「安全だからだ。」
「安全……。」
にっこりと笑う少女は、再び拠点を見てはつぶやく。
「安全……。」
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「ちょっ!ちょっと待って!」
「……なんだ?」
少女は自らへ背を見せかがんでいる黒に驚いていた。
「まさか……あたしをおんぶしたままあそこに行くつもりなの?」
「……っっ!!すまん。流石に抱っこは無理だ……。」
「……そっちじゃなくない!?」
「っっ!!肩車……だと!?」
「わざと!?ねぇわざと!?」
「わがままだな……。仕方ない。投げるか……。」
「おんぶでお願い!!」
黒は目を見開いてツッコム少女を見てクスリと笑ってしまう。
(爺ちゃん婆ちゃんもツッコまれてこんなに気分だったのか……。これは確かに楽しいな……。)
「冗談だ。少しからかっただけだ。」
「心臓によろしくないよ……。」
少女はクスリと笑った黒を見ては、(やはり自分を安心させようと?)と、思ってしまい、少し喜んでいる自分に気付いた。
(あまり関わっちゃダメだ……。仲良くなればあたしは甘えちゃう……。)
暗くなる少女であるが、人におぶられるなど子供以来のため、少しだけ顔を赤くしてしまう。
「う、ぅわぁ……。これって結構恥ずかしいね。」
おぶられ、黒の耳元でつぶやく少女。しかし、黒は別の事に驚き、目を見開いていた。
(かっっる!?物食ってんのかこいつ!?)
少女の異様な軽さに驚いていた。
「あたしさ、あんまりこういうの慣れてないからさ、その……重くないよね?」
恥ずかしそうにつぶやく少女。
(軽ぃよ軽ぃ……。そりゃもう度肝抜くくらいに……。)
「軽いぞ。」と口を開きかけた黒はそれを戸惑った。
'時宗家'の軽いの基準は八十キロ以下である。それを下回った場合は恥ずべきと教えられている。祖母はスリムで早業を見せたりと、見た目や行動から軽く見られがちだが百は超えている。ちなみに祖父は五十キロである。
つまり、黒が言いたいのは。
(軽いはダメ……。だからといって重いと嘘つくのも……。どうすれば……。)
考えている様子の黒を見て、少女は先程までのやり取りを思い出し嫌な予感がした。
「ぁ……何も言わなくていいよ?なんか嫌な予感がす」
直後、黒はその場で跳躍したり、くるくる回って見せた。
「なっ!?なに!?」
急に動きだした黒に目を白黒させる少女。
「少しでも揺れたか?」
「っっ!?」
言われて少女は黒の意図を理解した。
(安心しろって……。)
否。理解していなかった。
黒はちょっとした運動をする事で、少女が軽いということを遠回しに伝えようとしたのだ。
「そういう事だ。あまり気にするな。」
「……っっ!!……うん。」
途端に黒の背中が頼もしく思えた少女は、その背に身を預け、その体温を全身で感じては頬が緩む。
(……心地い)
「ぃうっ!?なに!?」
落ち着こうとした少女だが、突然黒の体に蔓で縛り付けられたために驚いていた。
「何って……そりゃ万一の落下防止だろ。死にたいのか?」
「いや死にたくはないけどさ、一言は言ってよ……変な声出たじゃん……。」
「ははっ!よし、目、閉じといた方がいいぞ?」
「……?」
少女は首を傾げるも、目を閉じろと言われたからには言う事に従い目を閉じた。
「開いていいぞ。」
少女が目を閉じて三十秒後であった。
「……?一体何……さ……。」
少女の疑問はもっともであった。彼女からすると短な間目を瞑り、少しして開くだけの行動を求められただけであったのだ。
故に。目を開いた少女は驚きのあまり絶句してしまう。
(ぁ……ありえない……。)
少女は自分の見ている光景を信じられないでいた。それもそのはず。つい一分前まで下に居たはずなのに、今彼女がいるのは……下から見上げていた拠点の上である。
「大丈夫だったろ?」
「うん。……いや違くて。君って重力魔法に適性があるの?」
「……は?」
黒の反応を見ては再び嫌な予感がした少女は、恐る恐る黒へ尋ねる。
「また聞いてもいいかな?」
「……なんだ?」
「君ってさ、三大力って知ってる?」
「あまり俺をバカにしないことだな。流石に分かるぞ?」
「そ、そうだよね!ごめ」
「筋力・財力・権力だろ?」
「ぉう……。」
おまけ
「ねぇ。黒」
「ん?」
「なんでこんな所でキャンプしてるの?」
「あーー。狂った爺と化け物婆に置いてかれた?」
「なんで疑問形!?てかどう言う状況!?」
「……。冗談だ。」
「とてもじゃないけど冗談に見えなかったよ……。」
「目が覚めたら森の中、ベッドの上で寝てた。」
「それもまたどう言う状況!?冗談……だよね?」
「冗談だ……!」
「ホッ……。流石にね。」
「だといいよなぁ……」
「ん……?……え!?」
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