第2話城下町デート?

 謎の美少女に助けられたらと思ったらデートをしてほしいと言われた。なんで?


 お礼がデートか…なんでいきなりそんなことを?

 ハッ!もしや俺がカッコ良すぎたからか?

 いや~罪な男だぜ俺は。

 こんな美少女を惚れさせてしまうとは。

 まぁ、冗談は置いといて、初対面のそれも助けた人にそんなこと言うか?普通。


 「あの、デート…ですか?」

 そう聞くと、少女は焦ったような声音で、

 「あの違うの、デートじゃなくてえーっと、そう!一緒にお出かけしてほしいの」

 なるほど、お出かけか……。

 つまり護衛して欲しいってことなのか?

 まぁ王都もそれなりに治安が悪いと聞くし誰かに護衛してもらうことに越したことはないだろう。


 「つまり一緒に出掛けて何かあった時のために護衛して欲しいってことですか?

 「う~ん、大体そんな感じかな?」

 大体そんな感じって……なんかハッキリしないな。


 「とりあえず、今この話題は置いといて自己紹介しましょうよ、お互い名前も知らないでしょ?」

 そう言うと少女は改めて俺に向き直り、自分の胸元に手を置いて自己紹介を始めた。


 「私はミレニア、王立メルトナ魔術学園の一年生で得意魔術は治癒魔術です。あなたは?」

 この人、いやミレニアだっけかこんな易々と自分の素性と得意魔術を言うなんて無警戒過ぎないか?

 もちろん俺にはミレニアを害する気なんてさらさら無いがいくらなんでも俺を信用……してるのか?

 まぁ取り敢えずいいか。


 「俺は……ノイだ、です。」

 俺が自己紹介を終えるとミレニアは口をぽかんと開けたまま俺を見ている。

 なんだ?

 何か変なことでも言ったか?


 「え?それだけ?もっとこう趣味とか得意魔術とか言ってくれないの?あと無理して敬語は使わなくていいわよ」

 「敬語じゃなくていいなら助かるが……いやそれより気軽に他人の得意魔術聞くとかどういうつもりだ?」

 王都だと気軽に聞くもんなのか?


 「どういうつもりって……学園ではよく言い合うよ?」

 それを聞いた瞬間愕然としてしまった。

 どうやら学園にいる奴らは死にたがりと馬鹿が多いらしい。

 「あのな学園ではそうかもしれないけど自分の得意魔術を言うなんて自殺行為でしかないんだよ」


 もし俺の得意魔術を言ったとしてそれが何らかの形であいつにしられた場合こっちが一方的に不利になってしまう。

 他にもいつ誰に狙われるか分からないんだから自分の情報なんてなるべく多く広まらないほうがいい。

 得意魔術の情報の有無なんてモロ勝敗に直結する。


 「そんなんだから見ず知らずの俺を助けてくれたのか?」

 そう言うとミレニアは何度か瞬いた後、

 「あの時はなんとなく?興味本位で?っていう感じで助けちゃったの。」


 興味本位って……こいつつくづく警戒心が無いな。

 「はぁ……お前なもし俺がお前のことを殺そうと考えてたらどうするつもりだったんだ?」

 「う~ん、それは大丈夫じゃないかな?あなた自分の名前を言うときに一瞬だけ目を逸らしたでしょ?」


 そう言われた瞬間俺は思わず顔を触ってしまった。

 それを確認したミレニアは少し微笑んで、

 「だからノイの名前は偽名であなたは偽名というちっちゃな噓でも目を逸らしちゃう誠実な人ってことでしょう?」


 おいおい、それだけで誠実って……。

 そんなこと言ったら世の中の人全員が誠実になってしまう。

 それにしてもこいつあの一瞬でここまで見抜くなんて相当鋭いぞ。


 「いやいや、偽名を名乗ってる時点で誠実じゃないだろ。」

 「でも、誠実な人が特別な事情があって偽名を使うことだってあるでしょ?」

 「それは確かにそうだが……」

 「でしょ?それで話を戻すけどノイのこともっと教えてよ、出身地とか今まで何処を旅してきたとか」


 まぁ、それぐらいならいいんだが、いやそれより、

 「それよりお出かけはいいのかよ」

 「あ、そうだった!すっかり忘れてた!」

 ……鋭いのか抜けてるのか分からないな。


 「じゃぁ歩きながら話しましょ」

 そう言うとミレニアは城の方に向かって歩き始めた。

 慌てて俺はミレニアの後を追いそのすぐ後ろを歩いてついていく。

 さっきの会話といい落ち着きが無いなこいつ。


 「おい待てよ!どこに向かって歩いてるんだよ」

 「えーっとね、いま私たちが向かっているのは正門区商業街エルネスト通りだよ」

 なんか普通のとこだな。

 こいつなんかちょっと変だし変なところに行くのかと思ってた。

 まぁそんなことを言うと間違いなく怒るので本人には言わないが。

 そう思っていると俺の顔を見て、


 「なんか意外そうな顔してるね」

 そう言われて俺は一瞬ギクッとしてしまった。

 そんなに俺は顔に出るのか?


 「別にお出かけなんだから商業街に行くなんて以外じゃないでしょ?」

 まぁ確かに……


 「ほ、ほらお前俺の出身地知りたがってただろ?教えてやるよ」

 これ以上この話をしていたらぼろが出そうだし別の話題に変えよう。


 「今貴方露骨に話題を変えなかった?」

 ギクゥなんでこういう余計なことばっか鋭いんだよ!

 「まぁいいけど……あとお前じゃなくてちゃんとミレニアって呼んでよね」


 ふぅ、何とかやり過ごしたか……。

 「それで、俺の出自だっけか」

 なんでこんなことを聞かれるのが少々疑問に思うが素直に答えることにした。

 「俺はこの国産まれのこの国育ちだよ」

 そう言ってミレニアの顔を見てみると今度はミレニアが以外そうな顔をしていた。

 別にこの国じゃ珍しくない出で立ちだと思うけどな。


 「ノイってメルセトナス出身だったの!?」

 「そんなに以外かよ?」

 「だって貴方その旅装束に黒髪でしょ?」

 「だから普通外国の人って思うもの」


 確かに俺は黒髪だけどここじゃ珍しくないと思うけどな。

 いや待てよそういえば今まで旅してきて黒髪にあったことが無いような……。

 「もしかして黒髪って結構珍しい?」

 「結構どころじゃ無いわよ、今まで生きてきた中で黒髪の人なんて見たことが無いわ」


 マジか……黒髪ってかなり珍しいのか。

 どうりで周りの人がちょくちょくこっちを見てくる訳だ。

 そんなことを考えていると不意にミレニアが歩を止めて、


 「着いたわよここが商業街のエルネスト通りよ」

 そう言われてミレニアの横にいきエルネスト通りを見てみる。

 エルネスト通りは一本道で、遠くにある王城がはっきり見える。

 左右には建物があり規則正しく並んでいる。

 どうやら建物内で買い物ができるようだ。


 真ん中には馬車が通る道があり、貴族街と王城にまで続いている。

 因みに今俺たちがいるのは右の歩道で所々に街路樹があり、道はレンガ造りで綺麗に整備されている。

 流石は世界一の国なだけあってかなり金をかけているのが分かる。


 「ちょうどお昼ごろだし、何か食べてから買い物しよ?」

 「いいお店知ってるんだ~」

 そう言ってミレニアは目的地に向かって歩き始めた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 「あれ?ミレニア様じゃないですか。今日はどのような用件でここに?」

 しばらく歩いていると突然通行人の男に話しかけられた。


 俺は少しこの男を警戒した後この男を観察してみることにする。

 20~30代くらいの男性で髪は赤髪、服装はどこにでもいる平民の格好で別段怪しいところもない。

 「こんにちはハイネスさん、ここにはお買い物をしに来たんですよ」

 「そうでしたか。それはそうと昨日は本当に助かりました」

 この会話を聞いた感じ、どうやら二人は知り合いらしい。


 「いえ、お気になさらず。困った時はお互い様ですから」

 「そうですね、と言っても僕がミレニア様に出来ることなんて何もないですけど」

 「そんなことはありませんよ」

 「そう言っていただけるとありがたいです」

 「おっと、あまり長話をしてミレニア様の時間をとるのはまずいですね、それではこれで失礼します。」

 そう言うとハイネスは歩き去っていった。


 ハイネスが遠くに行ったのを確認した後、ミレニアに気になっていたことを聞いてみることにした。

 「さっきの人知り合いか?」

 「うん、ハイネスさんが困っていたから助けてそこから知り合ったんだ」

 さっきの奴といい俺といいミレニアは人を助けるのが好きなのか?


 「なんで助けたんだよ、赤の他人なんだからほっとけばいいじゃねぇか。もしかして……あいつに一目惚れしたとか?」

 「そんなわけないでしょ。大体その理屈で言ったら私があなたに一目惚れしたことになるじゃない」

 あ……よくよく考えたらそういう理屈になるか。

 これだと俺が、お前俺に惚れてるだろって遠回しに言ってる恥ずかしい奴じゃねぇか。 

 俺は自分の顔が少し赤くなったことを隠すために続けて質問をすることにする。


 「じゃぁますます分からねぇな、なんで見ず知らずの赤の他人を助けようなんて思ったんだよ」

 「それは……困っている人がいたから見捨てられなくて」

 赤の他人を助けてる時点で薄々そうなんじゃないかと思ってはいたがやっぱり超が付くほどのお人好しだなミレニアは。


 「それに……もう後悔はしたくないから」

 そう言ったミレニアの顔は強い決意がこもっていてそれでいて少し後悔が混じったような顔だった。

 うーん気まずい、なんでこんな空気に?


 そんなこんなで気まずい空気のまま目的地に向けて歩いていると途中何度か通行人に話しかけられた。

 全員ミレニアに向けてだが。


 「人気者なんだな、ミレニアは」

 「別に狙ってこうなったんじゃないんだけどね」


 まぁだろうな、このお人よしの事だから自然とこうなったに違いない。

 「それで目的地にはいつになったら着くんだ?」

 「急かさないでよ……慌てなくてももう直ぐ着くから」


 別に急かしたつもりなんてないんだけどな。

 そう思っているとミレニアが一つの建物に向けて指をさしていた。

 「あっ、ほら見えたよあそこが目的地の『英雄たちの憩い場』だよ」

 そう言われて『英雄たちの憩い場』を見てみる。

 ぱっと見はただの木造の一軒家だが、周りの建物より少しだけでかい。

 装飾も細々としていて一つ一つ豪華な作りだ。

 そして真ん中の大きな木の看板に『英雄たちの憩い場』と書かれてある。


 ちょっと待て、これって……。

 「……高い店?」

 そう言った瞬間ミレニアの視線は俺から空に注がれた。

 ……おい、こっち見ろよ。


 「まさかあれを奢れとか言わないよな」

 そう言った瞬間明らかにミレニアの挙動がおかしくなった。

 そして顔を伏せたかと思うと……。

 「えっと……、その……、そうだ!私今何も持ってなくて払えないの」

 「うそつけぇ!じゃぁ今持ってる鞄は何だ!あと今そうだって言ったよな!」 

 流石にその目立つ鞄で何も持ってないって無理があるだろ。


 「なんで高いところにしたんだよ、奢らせるならせめて安いところにしろよな」

 「だって仕方ないじゃない。私普段外食とかしないからここぐらいしか知らないんだもん」

 だからっていきなり何も言わずに高そうな店に連れてくるか?

 だけどなぁ、ミレニアのお陰でここにいられるわけだし、恩人にうじうじ言うのもなぁ~。 

 はぁ~、仕方ない。


 「分かったよ、奢ればいいんだろ」

 そう言うとミレニアは驚いたような顔で、

 「え!?てっきりダメかと思ってたんだけど……、」

 「じゃぁ奢らなくていいか?」

 「噓噓!嘘だから!」


 両手をぶんぶん振りながらミレニアはそう言った。

 そのあほみたいな仕草はさっきまで切れ者のような雰囲気を出していた姿からはかけ離れていた。

 ……本当に鋭いのか抜けてるのか分からなくなってきたな。

 「まぁいいか、俺の奢りでいいから早く入ろうぜ。腹が減ったよ」

 そう言い『英雄たちの憩い場』の扉を開ける。


 中は外と違って一目で豪華とわかる作りになっていて、まず目に入ったのが大きい装飾の豪華なシャンデリアで他には何がいいかが分からない絵画が数点と飾ってある。

 そんな豪華な場所で食事をしている人も当然といえば当然でこの豪華な内装に似合う服装をしている。

 なんか一人だけこんなボロボロなローブを着ているからすごい目立つなこれ。


 「なぁおいミレニア、こんなボロボロな服装の奴が来ていい場所じゃないだろここ」

 なんかいくつか客の視線が突き刺さるんだが。

 明らかに浮いてるよな俺。

 「うーん、大丈夫よここの人たちなら多少は気になってこっちを見るだろうけど、不快には思わないはずよ」

 「何の根拠があってそんなこと言えるんだよ?」

 「だってあなたみたいな恰好の人が時々この店に来るんだもの。ほら丁度奥のテーブル席にいるわよ」


 そう言いミレニアは奥の席を指さす。

 その指に釣られて奥の席を見ると、俺と同じくこの店に不釣り合いな格好のオッサンが堂々とした雰囲気で食事をしている。

 ……ん?待てよあのオッサンどっかで見た気がするんだが……。

 あ、思い出した。

 ついさっき城壁をジャンプで飛び越えたオッサンだ。


 俺たちが見ているのを気が付いたのか、自分たちの姿を確認した後こっちに来いと手招きしてきた。

 俺はこれ以上目立たないように声を潜めて、

 「なぁ、あいつこっちに来いって言ってるけどどうすんだよ。ていうかあいつミレニアの知り合いか?」

多分俺のことを呼んだんだろうけど、ミレニアを呼んだ可能性もあるしな。

 一応ミレニアの知り合いかどうか聞いておいた方がいいだろう。


 「うん、私の師匠よ」

 「え?あのオッサンがミレニアの師匠!?」

 何というかミレニアって多分いいとこのお嬢様って思ってたからああいう格好で高い店に来るような奴を師匠と仰ぐのは少し意外だな。


 「確かに驚く気持ちはわかるけど、ああ見えてちゃんとした人なのよ」

 あのオッサンがちゃんとしているだと?

 城壁をジャンプで飛び越えるようなオッサンが?

 とても信じられないな。


 「それでノイが良ければなんだけど師匠と同席したいんだけどいいかな?」

 「ああ、俺は別に構わないぜ」

 特に断る理由は無いしな。

 ただ変な厄介ごとに巻き込まれないかどうか不安だけど。


 「じゃぁ行きましょう」

 そう言い俺たちはミレニアの師匠の元に向かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る