第3話 流されるままに
「では、ここでは何ですから落ち着いた場所に移動しましょう」
イースは俺に手を伸ばし、神殿の外へと案内する。その周りには謎のローブ姿の(背丈から見て)男達が囲みながらキビキビと進んでいる。
このイースっていう女、神殿にあった像に似てる所から見て大層高貴な身分なのだろう。ローブ姿の男達は術師というより兵隊に近い動きをしているし、ピリピリとした空気を漂わせている。
俺、生き残れるだろうか…
イースに導かれて、外への扉の前に立つ。すると、石板のような扉が重々しくギイィと音を立てて開いた。
そこにはいかにも異世界という、程よく自然に囲まれた街並みが広がる。俺は思わず息をほっと吐いた。
「どうですか?私たちの世界は」
『…とても…良いと思います』
視界一面に広がった景色をじっと眺める。街の周りには山が囲んであり街の中にはイチョウの木がそこかしこに植え付けられている。街の中央をよく見ると大きな噴水がありその真ん中に先ほど見た石像とは違い、剣を持ち仁王立ちしている男の像が聳え立っていた。その噴水の周りでは数人の子どもが駆け回っている。どうやら市街地のようだ。その更に奥を見ると何とも大きい城が建っている。
…すげえ。本当に俺は異世界にきたのか。
驚きと感嘆とで感情が混じりまくった俺はイースの問いに、微妙な返事をして呆然とした。
イースはそんな俺を察したのかクスッと笑う。
「私達から直線上に大きな城が見えますね。まずはその城の客室で落ち着きましょう。」
「あ、その前に此処について説明を。此処はブレイラスリート王国。人族が住む国です。」
『…人族?』
「人族の他にもいますよ。例えば、妖精族やオーガ族、魚人族や、鳥人族などなど。また後ほど詳しく説明します。」
「はぁ…完全に俺の世界とは別って感じだ」
というか何で事細かに教えてくれるんだ。いや、教えろって心の中で言ったけど。俺がこの世界に長く居る前提で話進めてるしこれ完全に面倒ごと押し付ける流れだろ。…逃げ出すか。いやどこに?…どう考えても詰みである。というか逃げ出そうかなとか考えた瞬間に背後から物凄い殺気を感じた。青ローブ姿の男だ。本当にこいつら一体何者だよ。じっとそいつらを見つめていると、イースが説明してくれた。
「その人達は私の護衛の者です。本来は国の警備やら訓練やらでお忙しいブレイラスリート国騎士団なのですが、今回私が勇者を召喚するという話がこの国の王に流れ着いてそれで…」
…勇者の召喚?
あまりにも信じたくなかったため、強めに頬をつねるが痛みは勿論ある。
「さて、早速城に向かいましょう」
イースが城を指さしてそう言った瞬間、狙ったかのようなタイミングで豪華な馬車が大きな音を立てて目の前に止まった。
「では、どうぞ」
イースは華麗な仕草で馬車へと俺を促す。
そのまま逆らうことなく馬車に乗る俺。その隣にイースが静かに座る。乗り慣れているのが分かる。
イースが乗ったのを運転手は確認しゆっくりと発進した。
馬車という割には意外と乗り心地がいい。
街道のためかファンタジーアニメでよくみるガタガタといった振動はなく緩やかな風が窓から迷い込んでくる。なんなら眠れそうだ。少しウトウトしているとイースがこちらを見てくすくす笑っている。仕草が完全に王女のようであり、少し見とれてしまう。
「いえ、すみません。このように私の隣でリラックスされてる方は初めてで。」
イースは再びクスクス笑う。
俺は初対面の時から浮かんでいた疑問をイースにぶつけた。
「イース…さんはやっぱりここの姫様なんですか?」
もし姫なら、言葉遣いはどうすればいいのか分からないので少しヒヤヒヤしながら聞くとイースは
「さんは要らないですよ。是非イースと呼んでください。それと敬語の方も。」
「はぁ、それじゃお言葉に甘えて。
俺が召喚された時、あそこは神殿だよな?その中央にあんたとよく似た像があったけど。」
イースは少し照れながら、細かく教えてくれた。
「説明は先ずはそこからですよね。私の名前は先程お教えした通りイーリアス・コーデヴァン。この世界の女神です。」
……は???
「この世界には元々2柱の神が降りていました。1柱はこの私とカクラス・ツォルキン、今は悪に堕ちて大災厄と成り果てました。カクラスはあちこちに得体のしれない魔物や、死霊を放って攻撃を仕掛けています。ここまでさらけ出すのは本当に恥ずかしいですが、この世界、いや貴方の世界含めて宇宙全ては今、滅亡の危機に陥っています。」
「…………えぇぇぇぇぇぇ」
無理無理無理。無理がある。つまり俺が救うってこと?宇宙を??無理だろ。慌てて俺は抗議する
「あんた、女神?なんだろ?どうにか出来ないのかよ。魔法とかさ。」
イースは目を伏せ唇を噛む。
「勿論十分に対策はしています。各国に魔物が入り込まないよう結界を貼ったり、腕のある戦士に祝福を与え、強化したり……それでも足りないのです。その上、私は攻撃をする術を持っていません。ですから、貴方を召喚したのです。」
今度は真っ直ぐ俺の目を見つめる。
いやいやいや。無理だろ。俺ただの一般人。せいぜい部活で剣道やってたぐらいで、戦闘とかちょっと。しかも命掛かってるし。
「っと。どうやら着いたようです。続きは客室で後ほど。身支度も整えてもらわなければ。」
イースはそのあとも、私の祝福を与える儀式の準備を、やら、この人のサイズに合う防具服を、と外にいる誰かに指示している。
いや、俺に選択肢は??
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます